静けさの中で
きっちり一時間後、喜一は羅人に流し台を譲った。
それから更に小一時間程経った頃には、もう客は一人もいなくなっていた。
「……」
無言で、ゆっくりと皿を洗う羅人。
それを同じく無言で見詰めている唐馬。
喜一は厨房の片付けを行っている。
静かであった。
店じまい。というにしても、あまりにも静か過ぎた。
客がいなくなっても、羅人が音を消しているからであった。
「どうしてこんな事を? って聞くなら、今しかないですよ?」
自らの作り上げた沈黙の中で、羅人が口を開いた。
「一応言っておくと、こちらの会話は喜一君には聞こえないようにしています」
手にはグラス。
流し台にもまだいくつかグラスが残っている。
暫くは話が出来ますよ? 言外に、そう告げていた。
しかし、
「……」
唐馬は、無言だった。
客はいなくなったが、未だ店は閉めていない。
マスターとして客を待っているのか……。
店が閉まるまでは、無駄口は叩かないという事か……。
あるいは、話したくないのか……。
どのような考えがあるのか。
色々と思いを巡らせて、少し間を置いてから、羅人は口を開いた。
「喜一くん。狙われていますよ」




