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「bar・空」にて
「bar空」のカウンター席に、一人の男が座っている。
スキンヘッド。
濃い口髭。
皺一つのない白のワイシャツに、黒のスラックス。
革張りの黒い靴。
時計はしていない。
体格は、良い。
年の頃は三十代か四十代か……しかし、肉体から流れ出ている生気は、そこらの若者よりも若々しい。
男の手には下部が広く口の狭いテイスティンググラス。
注がれているのは、茶褐色にも近い濃い色合いのウイスキー。
男はグラスを軽く回した。
中の液体が波打ち、香りが広がる。それを逃さぬよう、鼻を近づける。
男は目を細めた。
喜んでいるようである。
男はグラスを口に運び、中の酒をちびりと、唇を濡らすようにして飲んだ。
男はまた、目を細めた。
男はグラスをテーブルに、そこにあるコースターの上に、丁寧に置いた。
そして、口を開いた。
「ついこの前、この街で決闘があったよね」
問いかけるというよりも、確認の為の発言。そういう声であった。
「ありましたね」
カウンターに立つ老年の男、唐馬歩は、それを肯定した。




