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第6話 侵入者

「ねえ巧、もしかして、健吾さんに話せてない理由、他にあるの?本当にこっちに戻った後のこととか、健吾さんに話せてる?」

 僕が突っ込んで訊くと、巧は視線を彷徨せた。それを見て、グラハムが心配そうに訊く。

「あちらで健吾に何か問題でも?」

「いや、問題っていうか、なんか今の健吾、すっげえ幸せそうだから、帰ることを言えなくてさ」

「幸せ?家族や友人知人と切り離され、ただ一人で過酷な環境にいさせられている、そのことが幸せだと?」

 信じられないようなものを見るような目でグラハムは巧を見る。巧は頭を振って、

「違うんだ。えっと、あいつは今の環境に適応してるっていうか……ミルクティとごまだんごと一緒にいるとき、本当に幸せそうなんだよ。楽しそう、というのとも違うっていうか。何て言うか、満ち足りてる感じ?」

 巧の戸惑いが僕にはちょっとおかしく感じられた。巧は、健吾さんが幸せそうなのはウサギと猫と一緒にいるからだと認めているように思ったからだ。

「喋れない動物が傍にいても意味がない、って巧は言ってなかった?」

「まあ、そうなんだけど。……前にお前が言ってた、誰かが傍にいるだけで安心できるって、そういうことなのかなって」

 僕はにっこりと笑った。そう、そういうことがあるんだよ。巧だってそういう経験はあると思うんだけど、でも結構現金ですぐにいろいろ忘れちゃいがちだからなあ。

 グラハムは少し考え込みながら、

「前から思っていたが、そのウサギと猫は元は人間の魂なのだろう。しかも、体はこちらで生きていて、魂だけあちらに行っているという状態の。つまりは、その二人もいつかこちらに戻ってくるのではないか。健吾がこちらに戻ってくるより前にその二人がいなくなったら、健吾はもたなくなるのではないか」

「まあな。でも、もしそうなったとしたらまた手だてを考えるさ」

「何か案があるの?」

 僕が訊くと、巧は少し考え込みながら、

「まあ、なくはない。今、とりあえず話をしてるとこ」

「話をしている?誰と?」

 でも、巧は質問には答えなかった。まだ話せる段階じゃないっていうことなんだろう。なら、巧が話すまで待てばいい。

 グラハムは昼過ぎに去った。夕方になる前に最上さんの家に寄って、健吾さんが異世界に旅立った場所を訪ねて、それから定宿にしているホテルに行くんだって。

 僕らはいつも晩ご飯を食べる時間に食事を済ませた。いつものように巧が料理をする。僕は飲み物とカトラリーの準備と後かたづけ担当。お母さんがいないときはいつもそう。何だったら、お母さんがいるときだって、お母さんと巧で食事の支度をしてしまう。僕も勿論料理はできるよ?でも、巧もお母さんも僕に料理をさせようとしない。

 僕に包丁を持たせると怖いんだ、と巧は言う。

「自分の手を包丁で切るような間抜けなことはしないよ?」

 心外に思っていつも僕は反論する。今までの数多の生の中で、刃物は使い慣れてるからね。狩りをしたりとか、いろいろ。第一、入船司だった時だって、育てていた孤児たちに食べさせるのに料理はしていたんだからね?

 で、そのたびに巧は言うんだ。

「そういうんじゃないんだ。何ていうか、お前が包丁を持ってるとだな、これから始まるのは料理じゃなくて他の何かっていう感じがするんだ」

 ……うん、意味がわからないよね?

 まあそれはともかくとして、僕たちはいつものように食事を済ませ、後かたづけも済ませた。八時からは配信をする。僕と巧、隣の部屋でそれぞれ自分のパソコンからTwitchの自分のアカウントにログイン。そしていつものようにゲーム配信を始める。最近よくプレイしているのはVEMっていうゲーム。これもFPS。リアル寄りのゲームだ。まあ、本当の戦場はこんなに整ってないというか、いつどこで何が起こるかわからないものなんだけど、武器の感じとか、敵とのやりとりなんかソリッドですごくいい。

 いつものように二時間ほど配信して終える。もっと短くできたらなあと思うけど、ついついやっちゃうんだよね。 

 僕は椅子に座ったまま思い切り背伸びをした。と、その僕の感覚に働きかけるモノがあった。

 庭に、侵入者がいる。

 僕は入船司としての記憶を取り戻した後、徐々にその他の生の記憶も取り戻していて、それと同時に様々な世界の魔法についての知識も得ていた。で、それらを生かしてこちらでも目立たずに使える魔法とか術式を実際に使っていた。何だったら、それらの魔法の改良もしていた。やっぱり、魔法はいじってなんぼでしょ。巧はそんな僕をちょっと呆れたように見ていたけど。

 で、こちらで実用として使っているうちの一つが結界魔法で、家の敷地の境界線に設置していた。普通の結界とはちょっと違って、幾つかのモードに切り替えられるのが便利なんだ。普段は外からの出入りの探知だけを行い、必要とあれば、外部から中に入れないよう幻惑の効果を与えたり、入って来ようとする者を電撃で迎え撃ったり、すでに入られていたら侵入者が自分から出て行くよう催眠術を掛けたり、風の刃を飛ばして侵入者を切り刻んだり、酸の雨を局地的に降らせて侵入者を溶かしたり。侵入者排除のために最後の二つのモードを発動させたことはないけど、それ以外はそれなりに使ってる。まあ、うちの庭は池とかまであるいわゆる日本庭園で、庭師も年に何回か入って手入れしてるから、お金がありそう、とか思われがちなんじゃないかな。

 で、侵入者があったら僕はすぐに結界のモードを切り替えて、外に出ていくよう侵入者に催眠術を掛けるようにする。今回もそうしたんだけど、これが何故だか効いた様子がなかった。風の刃で切り刻む……は簡単だけど、血の跡とか消すのが面倒くさそうだし。じゃあ、酸で溶かす?それだと、地面にダメージがないようにちょっと準備が必要だ。

 僕は縁側に出た。すぐに気がついたのは、妖精たちがいつもより多く飛んでいること。グラハムが定期的に立ち寄るようになってから、この家の庭には一定数妖精がいる。でも、それよりも明らかに数が多い。何で?グラハムが昼間来たけど、帰ったらいつも元通りの数になっていたよ?

 でも、僕はすぐに妖精の数について考えるのをやめた。侵入者の姿をはっきりと確認したからだった。

 それは意外な人物だった。そして、その手に持っているモノを見て、何故催眠術が効かなかったを理解した。

 侵入者は、健吾さんの継母。藤原晴美、とかいったか。そしてその手には、明らかに魔力を纏った赤く光る物体があった。

 催眠術が効かなかったのはそのせいだ。

 でも、何でそんなものをこの人が持っているんだ。

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