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パイプスペース

 逃げ道を塞がれた俺は、袋小路に立っていた。

 正確にいうなら、地上に出る通路は依田に塞がれ、後ろにあるのはパイプスペースだけ。

 少しの可能性に賭けて後ろに走り出した。

 依田は、余裕を見せてゆっくりついてくる。

 俺はポケットに入れていたハンドル(・・・・)を取り出すと、パイプスペースに入る扉に差し込んだ。

 捻って引いて、ハンドルを抜き取る。

 素早く中に入り込むと、内側から鍵をかけた。

 パイプスペースの扉が『取っ手の無いタイプ』で助かった。

 依田の声がパイプスペースの外から響く。

『時間を稼いだところで、どうにもならんぞ』

 依田が、扉を開けようと試している音がする。

 この扉は通路側からはハンドルを付け『引いて』開けなければならない。

 依田がどれだけ体が大きく、力が強くても、構造的には『体当たり』など、押して開けれるものではない。

 逆に、扉の精度は低いので、扉の隙間から何かを差し込んで鍵を跳ね上げてしまう事はできる。

 依田もすぐ気付いたようで、ペン先か何かを差し込むような音がしている。

 時間の問題か。

『さっきのやりとり、何?』

 高橋の声が聞こえた。

「依田に通路を塞がれた。俺は地下のパイプスペースに逃げ込んだ」

『待ってて』

 しばらくすると、上下に通っているパイプの横、予備配管を通すためのスペースから、ロープが下がってきた。

「これに捕まって」

 小さい声だが、高橋の生声だった。

 上のパイプスペースにいるのだ。

「早く!」

 垂らされたロープに捕まると、ロープが力強く引き上げられる。

 狭いスペースにつっかえるようにたどり着く。

「捕まって」

 小さな空間を引き上げられる。

 上がると、高橋と角田(つのだ)がいた。

「ありが……」

「まだ助かってない」

 角田に遮られると、俺たちは急いでパイプスペースを抜けた。

 依田が、俺がまだ地下にいると思っている間に、構内を出なければ……

 塔の入り口の扉をエミュレータを使って開け、三人は塔の外へ脱出した。

「とにかく、急いで外に」

「俺、そんなに走れないよ」

 と、角田が体を屈めて背中を向けた。

「お前ぐらい、おぶって走れる」

 俺は高校生になって初めて、誰かに背負われた。

 運動のできる人間というのに憧れる。

 俺は、そもそも心臓が悪くて運動をしていない。だから、運動音痴なのか、やれば出来るのかはわからない。やるには胸に負担をかけなければならないからだ。

 揺れる背中にしがみついているうち、学校の外に出た。

 誰も追ってこない。



 学校近くの街にあるネカフェ。

 俺たちはまだ学校にいるべき時間帯に入った。

 店員が学校に通報するのではないか、とドキドキしたが、終始高橋は落ち着いていた。

 俺たちはファミリー向けの部屋に入った。

「やっぱり、このネカフェ、高橋の事務所の関係?」

 高橋は答えない。

祐輔(ゆうすけ)、そんなことより、白い塔のデータは取れたのか?」

 祐輔は俺の名前だった。中学、高校を通じて『名前』で呼ばれたの初めてだ。

「時間がかかる、というところあたりからよくわからなくなっているから、説明して」

「ああ、そうだった」

 俺は説明を始めた。

 まず入退室用のパソコンとは別のネットワークだとわかった。

 白い塔で捕まえられるWiーFiを解析して、入り込み、サーバーらしきもののアドレスを探った。

 パスワードのリストを使ってアクセスを試みるが、入れない。

 次にパスワードリストから数値を含むものから、数値を自動的に変更するスクリプトを使ってアタックした。

「なんだそんなの。先に作っとけよ」

「気づかなかったんだよ」

 俺は話を続けた。

 ようやくWiーFi内のサーバーにアクセスするが、ファイルがない。

「どういう意味。もしかして、データー取れてないの?」

 高橋はここで話が終わると思っている。

 俺は説明した。

「ダミーサーバーなのか、本当に設定だけして未使用になっているサーバーなのかどちらかだ」

「おいおい」

 角田が失望したように項垂れる。

「同じことを別のWiーFiに向けてやったり、ネットワークに向けてやっていたら、この時間には戻ってこれないだろ」

「俺はもう一度、考え直した。警備室の様子を考え直したんだ」

 高橋が、呆れたと言った風に手を広げた。

「結論を急いでちょうだい」

「警備室の音や、空調から、入退室用パソコンのためだけにしては、大袈裟過ぎたんだ。俺はしきりを開け、サーバーを見つけた。サーバーは鍵が掛かってラックの扉が開かなかった」

「住山。お前、やっぱり全部話すつもりなのか」

「ラックの扉をどうやって開けたと思う?」

 高橋が人差し指を顎に当てながら考え、そして言った。

「話に出ている内容からすれば、入退室管理用のパソコンを操作して開けたってことになるわね」

「……俺が言いたかったのに」

「正解ってことね」

「はぁ…… 結局データは取れたんだな?」

 角田はため息をつきながら、そう言うと、さらに続けた。

「せっかく完璧な密室殺人を行っても、自らの自己顕示欲でそのカラクリを全部語って、最後の最後『犯人は自分です』って言ってしまうタイプだよな」

 俺は落ち込んだ。

 高橋に答えられてしまったこと、角田に自己顕示欲が強いと言われたこと。その二つで、深く傷ついてしまった。

「データを見せて」

 ネカフェのパソコンから、データを格納しているサイトにアクセスしてみせる。

「気味の悪い内容が書いてあるな」

 角田がそう言う。マウスを奪うようにして高橋が操作すると、白い塔で繰り返し再生された音声や、動画ファイルが再生された。

「こんなのを聴きながら勉強するのか?」

「合間、合間に挟んでるみたいね。こっちのファイルを見ると、洗脳がかかりやすいタイプの生徒を選んでいるみたい」

「俺たちが『特別教室』に呼ばれないのはそういう理由か」

 角田が言う。

「住山に限って言えば、成績が足らないのが理由だぞ」

「この人たちは、国を支配するために、自分たちの思想に従うものを東大に、そして東大から官僚にしようとしているのよ」

「まわりくどい方法だな」

 そう言うと、俺は自分のPCで動画編集ソフトを立ち上げた。

「長期的で、かつ安定して支配をするには確実な方法だからよ」

「さあ、動画にして流そうか」

「シナリオはこんな感じ」

 高橋はネカフェのパソコンで作っていた簡単な流れを見せた。

 そこにはめ込む資料として、奪ってきたデータを見ながら三人で選んだ。

 夕方には動画が完成し、即公開された。

「これで学校側がどう出るか」

 スマフォに母から着信があり、俺はネカフェの部屋を出てから電話を受けた。

『ゆうちゃん、停学一週間って何やったの?』

 その後、すぐ分かったことだが、俺だけでなく、角田も高橋も、同じ処分を食らっていた。

 学校側は一方的に処分を決定したのだ。




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