表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隣にはアイドルが座っているけどハッカーな俺には関係なかった  作者: ゆずさくら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/27

おとり

 少しずつ後ずさって、高橋との距離が近づいた。

「(私が走るから、その反対方向へ逃げて。決して振り返らないこと。)」

 高橋はマスクをしていて、相手に口元の動きは読まれない。

「(俺、走れないよ)」

「(ゆっくりで大丈夫。連中は私が引きつけるから。出口は覚えているわね)」

 俺は「(覚えている)」といった。

「(県道まで逃げて。後で会いましょう)」

 高橋はいきなり体を低くすると、弾かれたように飛び出し、走り出した。

 ライトは高橋の動きを追った。

 俺の周囲はいきなり暗くなり、同時に高橋と反対の方向へ動き始めた。

 緑川が銃を撃つ。

 うっすらと銃口から光が見える。

 花火ぐらいの軽い音。

 当たっていないでくれ、俺は振り返らず、自分の限界速度で出口へ向かう。

 黒いビニールハウスの横をすり抜け、あとは車両用の門を乗り越えれば……

「いたぞ!」

 続けて声がする。

「おい! 高橋ひかりがどうなってもいいのか?」

 聞こえる声は遠い。

 ダメだ、高橋が言った通り、絶対に振り返ってはいけない。

 立ち止まらなければ、逃げ切れる。

「そういうことは、しっかり捕まえてからいうのね」

 ほらみろ、高橋なら逃げ切れる。

「捕まっているだろうが、強がりをいうな」

 本当に捕まったのか? 俺を逃がそうとして高橋が嘘を言っているのか?

 俺は門の上に這い上がった。

 振り返らずに、外へ飛び降りた。

「門を開けろ、なんとしても奴を捕まえるんだ」

 高橋…… なんとか逃げ切ってくれ。

 俺は可能な限りの速度で歩きながら、泣き出しそうだった。

 後ろから、奴らが追いかけてくる。

「逃げ切れると思ってんのか?」

 俺は県道につながる角を曲がった。

「待て、コラッ!」

 追いかけてくる連中の一人が、角を曲がるなり、立ち止まった。

「……」

「この近辺で銃の発砲があったと通報を受けている」

 制服の警官の声。

「ヤバッ」

 逃げようとしたが、一瞬のうちに警官に腕を取られて、押さえつけられる。

 すると警察車両(パトカー)が、次々と元ホテルの方へ、角を曲がっていく。

 事務所の運転手(ドライバー)が近づいてきて、俺に手招きした。

 そうか、と俺は思った。

 事務所の運転手が、機転を効かせ、警察に通報したのだ。しかし、どうしてこんなに簡単に警察が動いてくれたのか。

 しかもタイミングも良すぎる。

 何か裏があるような。

 いや、そんなことより……

 高橋が捕まったままだとしたら。俺は後悔しかない。俺が捕まってでも助けるべきだった。言いつけを破ったとしても、高橋が無事であることが重要だった。今頃、そんなことに気付くなんて……

 俺は警察の後を追いかけ、元ホテルの方に戻った。

 黒いビニールハウスで栽培している草を見て『大麻』だと警察が騒いでいる。

 銃を持っていた連中が、一人、また一人、と捕まっていく。

 しかし高橋はいない。

「高橋!」

 叫んでも返事がない。

 警察が捕まえた連中の数を数えた。

 五人。

 コンビニで囲んだ人数も五人。

 全員捕まえたのに、高橋はいない。

 まさか……

 最悪の場面(ケース)が頭に浮かぶ。

 元ホテルの施設内を動き回る警察官とすれ違う度、俺は声をかける。

「女性はいなかったですか?」

 いつまで経っても、高橋は見つからない。

 俺は警察に腕を掴まれ、現場から出るように言われる。

「邪魔だから外に出て」

 ビニールハウスを通りすぎ、塀沿いに歩いて、角を曲がった。

「君はもう帰っていいよ。そこのおじさんが送ってくれるそうだから、一緒に帰って」

 警察がそう言って、事務所の車へ連れて行かれた。

 事務所の運転手(ドライバー)は警察官にお辞儀をすると、俺を乗せるため、車のドアを開けてくれた。

「お送りしますよ」

「ありがとうございます」

 俺が座席に座ると、運転手はドアを閉めた。

 その瞬間、涙が溢れてきた。

 全ての光景が涙で、ぐちゃぐちゃに歪んだ。

「高橋……」

 そう呟くと、何かが聞こえた。

「!」

「私のために泣いてくれてるの?」

 俺は声のする方に振り向いた。

「ゆ、幽霊?」

 高橋は笑った。

「バカね。私が捕まるわけないでしょ。ましてや銃で撃たれるようなドジ踏まないわ」

 無意識に高橋を抱きしめていた。

 今までの生涯の中で、こんなに嬉しいことは初めてだった。

「たかはし……」

「ちょっと、真相を知りたくないの?」

 俺は泣きながら、体を離した。

「えっ?」

「ちょっと警察と繋がりがあってね」

 俺は袖で涙を拭った。

「依田の件を調べていると、鈴木教頭が生徒をここに連れてきていることが分かった。それは警察も掴んでいたの」

「マジで?」

「教頭に連れてこられた生徒は強い洗脳を受けた状態で、ここで性的な接待をさせられていた。さっき警察が言っていたように黒いビニールハウスの中では大麻も栽培されていて、それらも接待に使われていた」

 そこまで分かっていたなら、なぜ……

「接待って、誰の接待?」

「菅原啓太やその政党を支援する企業や団体のトップ」

 俺は身を乗り出した。

「残念ながら、直接的な証拠は出ないでしょうね。そして問題となる鈴木教頭は、今頃」

 スマフォの着信音がなり、運転手が応答する。

「鈴木教頭が亡くなった…… そうですか。情報ありがとうございます」

「ほらね」

「なあ、警察が何もかも知っていたなら、俺たちは、なんのためにあの施設に忍び込んだんだ」

「おとり、ね。警察が施設の中に踏み込むきっかけを作るための」

「そんな……」

 俺は高橋に頭を撫でられた。

「住山が先に持ち出してなければ、連中に映像だって処分されてたかもしれないでしょ」

「役に立った、んだよな」

「多分」



 次の日も、その次の日も、国は、世界は、少しも変わらなかった。

 何事もなかったように学校に通う日々。

 だが、俺と高橋(かげむしゃ)の関係は、少しだけ変わった。

「おはよう」

 高橋が『俺の顔を見て』挨拶してくれるようになったのだ。

 小さな幸せ。

 今はそれで十分だった。




  おしまい




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ