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What-if games?  作者: 岡田播磨
3章 BADEND **をするから、愛をくれ!
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第四話


「ママは、レナのこと好きですか?」

「当たり前でしょ。ママはね、玲那のことを絶対に離さない」

「本当の本当に、絶対ですか?」

「本当の本当に、絶対に必ず、間違いなくよ」

「よかった……レナのことを絶対に離さないで――」


 トロンとした瞳はゆっくりと閉じ、二段ベッドの下で眠る玲那は、小さな寝息を立て始めた。

 世那は、玲那が眠ったことを確認すると、音を立てず部屋から出て行った。

 一階のリビングに到着すると、そこには、不破怠惰、月乃宮恋音、武田美月の姿がある。

 4人は押し黙って、世那がソファに座るのを待っていた。

 世那が静かにソファに座ると、怠惰がニヤリと笑う。


「寝かし付けるのが上手いじゃないか。流石は、ママだね」

「馬鹿なこと言ってんじゃないわよ。それなら、律花ちゃんの方が断然早く眠ってるじゃない。流石は、お母さんね」

「いやいや、律花ちゃんの場合は動き過ぎなんだよ。だからすぐ電池切れになってしまう。まあ、あれだけ元気があるのは母親としては自慢ではあるけどね。あの子は、私なんかがいなくても、きっと強く生きていけるよ」


 怠惰は自慢げに胸を張った。

 頬杖をついた世那は、「アホらしい」とそっぽを向いた。

 世那の隣に座っている美月は、キョロキョロと辺りを見回してから、怠惰に声を掛けた。


「袋井君は、どうしてるの?」

「今日は、母親だけで特別な会議を開きたいと話していてね。彼には別の所で休んでもらっている」


 怠惰は用意していた内容を流暢に答えた。


「怠惰さん……お話ってなんですか?」


 怠惰の向かいに座る恋音が、遠慮がちに尋ねた。


「いや、なに確認だよ。今の状況のさ。みんながどう思っているのかと思って」


 いつも通りの調子で、楽しげに怠惰は話す。


「私達が一緒に生活していた子達が、実は未来から来た自分の子供であるという事実。なかなか、ビックリじゃないか。彼らを取り戻そうと必死だった時は、何の疑問も抱かなかったが、落ち着いた今ならどうかな? 彼らを自分の子供だと、受け入れられるかい?」


 はっきりと言われ、それぞれの胸に騒々と言い知れぬ不安が過ぎった。


「う~ん、私は不思議。突然、夜人君が現れて、私の子供だって言われても想像できない。正直、格好いいからオッケー! って、気持ちもあるけど。『袋井くんと結婚するの? 本当に?』って感じ。何か別の理由がある気がする」

「まあ、武田君は、そうだろうね。この中では、一番関わっている期間が短いわけだし、納得出来ない部分が多いのは確かだと思うよ。私は、武田君の感想は間違っちゃいないと思う」


 怠惰は、全面的に美月の感想を支援した。

 あんたはどうなのよ、と目を釣り上げた世那が怠惰に投げかける。


「私の場合はね。あの子が私の子供でも、いいと思ってる。でもね、あの子達が未来から来た何らかの原因があるわけで、その正体を知りたい。私は、それを同族の影響によるものではないかと思っているんだよ」

「同族の影響――あたし達みたいな天使と悪魔の力ってこと?」

「そういうこと。私たちは、はぐれ者になってからは、元の世界の情報はないわけだからね。もしかしたら、想像を超える技術が生まれているかもしれない。それを知りたいわけだよ、私は。それが納得できるものであれば、子供たちを受け入れる。律花ちゃんなら、大歓迎だな」


 非常にワクワクした表情で、怠惰は答えた。

 怠惰の答えを聞きながら、世那はどこか苛立ったような顔をしていた。


「そういう、土岐野君はどうなのかな?」

「あたしは――まだ、わからない。自分の問題が精一杯で、子供を受け入れろと言われても……。玲那ちゃんは可愛いし、私の理想だけど――。怠惰の言うとおり、別の影響によるものだと考えた方が、自然に思える。――ちょっといい」


 そう言って立ち上がった世那は、リビングの棚からファイルと取り出した。

『生徒会・部外秘』と書かれた水色のファイルには、顔つきの写真が載った生徒名簿と、部の申告書、そしてその活動報告書が挟まっている。


「これには、袋井が立ち上げた『ラブコメ推進部』とは別の、すごく似ている部活の活動記録が入っているの。この部は、恋人を作ろうという部ではなかったのだけど、人の好意などを読み取れるとか、読み取ることの出来ないような個人的感情を言い当てるとか、よく似ている部分がある。うまくいっているように見えたのに、この部は突然解散していて――その原因もわからぬまま、主要メンバー達はなぜか、消息を絶っている」

「随分物騒な話だな。だが、私がこの学園で生活している中で、そんな話は一度も聞いたことがないぞ?」

「もみ消されたのよ。学園としても、撃退士ブレイカーが人の心を操るという危険性を理解していたから。――そこには必ずといっていいほど、上級の天魔が付きまとうから」

「上級の天魔ね……。土岐野くんは、なにか心当たりがありそうだね」

「あるわ。人の心を操ることのでき、人の好意を盗み見るこの出来る天使、私の双子の妹――クピト。愛を司る【神】の名を受け継いだ、天使よ」

「クピト、つまりキューピッドか。また、随分と大層なものが出てきたものだ」

「あたしと妹は、プットと呼ばれる天使の中でも特別な種族なの。生まれた時から、愛に関わる何かしらの役割が与えられるのよ。その中でも飛び抜けて、妹は優秀だった。だから、妹は、クピトという名を受け継いだ。だけど、妹はその重厚に勝てるほど、強くはなかった――」

「と、言うと?」

「堕天したのよ、あたしより先に。――あたしは、姉として、家族として、抹殺のめいを受けたわ。天使でありながら、神の名を受け継いだ、それほどまでの名誉を怪我したんだからね。見せしめのつもりだったんでしょう。妹は、すぐに見つけることが出来た。だけど、クピトはすでにあたしが抹殺の命令を受けていることを知っていたのよ。知らされていたと言うべきね。しっかりと、姉妹で殺し合いをするようにね。あたしは、妹を説得しようと思っていたの。だけど、ダメだった。妹に逃げられ、役立たずレッテルを貼られ、そして、あたしも堕天した。だから、あたしは恋の話を集めているのよ。妹に繋がる何かがあるんじゃないかと思って。でもね、それ以来、妹とは会えていないのよ……」


 語り尽くした世那は、口を閉じた。

 世那にとっては、目の前にいる玲那よりも、掴みどころがない妹の方へと心が向いているようであった。


「クピトか、やはりツキという言葉とは繋がらんなぁ~」

「なに?」


 わざと聞こえるような怠惰のつぶやきに、世那が睨みつける。


「いや何、こっちの話だ。――土岐野君が、思い切って暴露してくれたから、私も少し心当たりを答えよう。実は、私にも人の心を操る者にあてがあるのだよ」

「どういうこと? あんたは、子供たちがどうやって未来から来たか興味があるんじゃないの?」

「それも、そうなんだけどね。もうひとつ気になる点がある。それについては、後で話すよ。――んで、心を操る者についてなんだけど、私の悪友にアンドゥラスという馬鹿者がおったんだよ。人の不和を操るとかいう能力を持っていてね。よく人の感情をイジって楽しんでいる奴だった。実際の戦闘能力も高いのに、私同様やる気が全然ない奴でね。戦争なんて馬鹿らしいと、はぐれ者になったんだ。その後、天使と一緒にいる場面を目撃したという話を最後に、一切聞かなくなった。恐らく、死んだんだろうというのが、仲間内の答だった。その後は、私自身もはぐれ者になってしまったから、わからないがね」


 始めからあまり聴かせるつもりはなかったのだろう。

 酷くあっさりと怠惰は、話をまとめた。


「私達は、喋り過ぎだよ。引っ込み思案の月乃宮君が、一切喋れていないじゃないか」


 水を向けられ、恋音はアタフタと驚く。


「さあ、月乃宮君、君の番だ。君は、子供たちをどう思っている?」

「わ、わたしは……」


 全員に視線を向けられ、恋音は顔を赤くしていた。


「子供たちを、受け入れます!」


 ほぉ、と周りから驚いたような感心したような声が上がる。


「でも、その前に全員が幸せであって欲しい。誰かが、欠けるとか消えるとか、そういうことがない。全員が一緒にいられる世界であって欲しいんです!」

「なるほど。でもそれは、難しいんじゃないのかい? 話を聞く限りだと、彼らはひとりになる必要のあるようだよ」

「そんなのは嫌です! それじゃ、ダメなんです! 4人が4人とも一緒に入られる世界じゃなくちゃ意味がないんです!」


 とても珍しく物事をきっぱりと言う恋音に、誰もが驚いていた。

 怠惰も「その気持ちはわからなくはないだけどねぇ」と、頭を掻いていた。


「一緒に探しましょう! 誰も失わない世界を! もう失いたくない。この気持ちは、皆さんにも、分かるはずです!」


 立ち上がって同意を求める恋音に、みな難しい顔を向けていた。


「それを実現させるためには、やはり原因の究明が不可欠だろうね。そうなると、やはり気になってくるのは、袋井君の体だ。――あっ、性的な意味じゃないよ。念のため」


 言わなくていいことを言って、怠惰はニタニタと笑う。

 何を想像したのか、恋音はわかりやすく赤面し、美月は鼻先を掻いた。

 世那は冷めた様子で「あの男に、4人も相手にするバイタリティなんてないでしょう?」と、かなりギリギリの発言をしていた。


「流石に、みなも薄々気づいていると思うが、袋井君は異質だ。本来触れることのない天魔に、生身で接触することが出来る。私が、袋井君に注目したのも、それが原因だよ。初めて見た時、袋井君は狐珀という獣人の悪魔に、不意に触れることに成功している。狐珀君は、日頃から自分の毛並みを自慢しているが、悪魔である以上、とっさの存在に対しては透過してしまう。だけど、袋井君はしっかりと彼女の尻尾に触れていたのだよ。何かあると思った」


 怠惰は立ち上がると、指先で帽子をクルクルと回す。


「喫茶店では、寄り掛かってきた袋井君を透過しようとしたが、無理だった。仕舞いには、土岐野君との『あれ』があったからね。決定的だった。袋井君の体は、天魔の透過能力を無視出来る。だけど、あの能力が、彼の生まれ持った能力とは考えにくい。そんな特別な存在なら、すぐに気付くはずだしね。なにか、外部の理由があると思う」


 美月が世那に「『あれ』ってなあに?」と尋ねると、世那は赤面して「んなもん、聞かなくていいの」と美月を追いやった。


「はっきり言おう。袋井君は、天魔に寄生されている!」

「そ、そんなことが、あるんですか?」

「ん~、ないとは限らない、かも?」


 結局怠惰は、歯切れの悪い回答をした。

 周りは、ズルリとコケた。


「あんたは、いったいなにが言いたいのよ!?」

「いや、だって私もそんな方法、知らないからなぁ~。原因は、恐らく袋井君が握っていると思うけどねぇ~。本人に聞かないと、結局わからないよ」

「んで、その肝心な袋井は、今ココにいないんでしょ?」

「うむ、別の所に泊まってもらっている」

「そこは、何処なのよ?」

「なに、私が使っていた資料室だよ。狭いが寝られないことはない。明日、戻ってきたら、問い詰めてやろう」


 ムフーと、怠惰は不敵な笑いをした。


「もし、寄生されているのが事実なら、事件は一気に解決するかもしれないよ。どうして、我々が心を操られたのか、どうして、袋井君は透過能力を無視出来るのか。すべてが繋がってくる。もしかしたら、子供たちが未来から来た方法も分かるかもしれない」

「そんな都合よく行くかしら?」

「土岐野君。もし寄生しているのが、君の妹だったら、再会のチャンスかもしれないんだよ。希望を持たなきゃ」

「そ、それは、そうだけど……」

「会いたかったのだろう?」

「そ、そうね。会えるのなら、今一番嬉しいかも!」


 釈然としない表情で怠惰の話を聞いていた世那だったが、それでも怠惰の言うように、長年待ち続けていたチャンスが訪れるかもしれないと思うと、世那の口元は大きく笑みを描いていた。

 夜は、大きな深みを増していた。

 陽報館は、リビングだけに明かりが灯り、暗がりの廊下には、扉から漏れる淡い光だけが差し込んでいた。

 そこに立つ、小さなフリルをたくさん付けた少女が、涙を流して見ていることに、母親は気付くことができなかった。


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