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What-if games?  作者: 岡田播磨
3章 BADEND **をするから、愛をくれ!
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第五話


 袋井は寝返りを打ち、教室の天井を見上げた。

 赤いソファの上は、それほど広くはなく、袋井の体では落ちないよう注意しながら寝るしかなかった。

 怠惰が自身で所有する部の部室として使用している忘れ去られた資料室は、乱雑に本が並べられ、ギリギリの足の踏み場しかない。

 本の上に布団を引いて寝ようとしたら、現在の所有者に「本が傷むから止めい!」と、怒られてしまった。

 結局、赤いソファの上でゴロゴロと、眠れない夜を過ごしていた。

 天をつかむように腕を伸ばし、その小指に結び付けられた赤い糸を眺めた袋井はため息を付いた。


(小祭前に告白する相手を決めろって――相変わらず、ルナくんは無茶苦茶だなぁ……。こっちの事情も知らないで)


 袋井に見える恋愛線。

 3人の――いや、新たに増えた美月のを含めて4人の恋愛線は、点線で造られており、そこに溜まっていくハートは順調に増えているように見えた。

 だが、半分を超えても、4人の態度は特に変わらず、この恋のパラメーターは、本当に互いの感情を映し出しているものなのか、袋井には疑問に思えていた。


(僕が見えているパラメーターを当てにするのなら、その相手は――月乃宮さんってことになる。それは、間違っちゃいないとは思うんだけど……。だけど、むしろそれは、認めるわけにはいかないわけで……)


 恋音との約束。

 子供たち全員が幸せになる方法を見つけるということ。

 それを実現させるためには、恋音との愛情を認めるわけには行かず、ただいつまでも曖昧なままでいなくてはいけない。

 むしろ、その感情に自身で気付いてしまったら、まずい。

 不思議と抑制が掛かっているのは、子供たちというブレーキが掛かっているから。

 もし、それがなくなり目の前に恋音が現れたら――。


(愛情を確かめるとか、そう言うのじゃなくて、具体的なこう――うわぁーやめろ! 僕の頭! これ以上、想像するな!)


 グチャグチャと頭を掻き毟り、溢れだす妄想を袋井はかき消した。

 ぐったりとして横になり、袋井はため息を付いた。

 まだまだ夜は長い。眠れそうになかった。

 スッと、視界の隅で何かが動いたような気がした。

 メガネを外していた袋井は、動いたものが何なのか認識できなかった。


(えっ! うそ、幽霊! ちょっと、待って待って待って! 天使とか、悪魔とか、幽霊とか、マジ勘弁してよ! それでなくても、こんな薄気味悪い場所で一人っきりなんだからさぁ!)


 メガネを掛けて、キョロキョロと辺りを見渡す。

 また、白い影が視界を過ぎった。

 唾を飲み込み、ゆっくりとソファから立ち上がる。

 物音ひとつ立てず、本の隙間から袋井めがけて、白い影がすぅ~と――。


「で、出たぁぁぁぁああああああああああ! って、あっ、玲那ちゃん? どうしてここにいるの?」


 霊的な存在――であることは、間違いない。

 白いフリルのゴスロリ少女、天使の土岐野玲那は袋井の前に、静かに降り立った。


「パパに、聞きたいことがありますの……」


 少女の目は、座っていた。

 ウェーブの掛かった金色の髪、母親譲りの金色の瞳。

 少女は、いつもの人形のように可愛らしい微笑みを失い、袋井の、その背後を見るかのような遠くを見る目つきをしていた。


「どうしたの玲那ちゃん?」

「パパは、ママの妹さんを知ってますの?」

「妹さん?」

「はい。ママとそっくりの双子さんで、ママがずっと探している人ですの」

「その話は、少し、この前、聞いた気がするよ。ハハッ……」


 いつもと様子が違うことを感じ取った袋井は、玲那の調子に合わせ、無難な返答を模索しながら答えた。


「何処にいるか、知ってますの?」

「し、知らないなぁ……ずっと、探しているんだよね。早く見つかるといいよね」

「イヤ」

「えっ?」

「イヤなの! 見つからなくていいの! 見つかっちゃダメなの! レナからママを取らないで! もう一人にしないで!!」


 跳びかかる玲那の手を、反射的に袋井は掴んでいた。

 その手にはヒヒイロカネが。

 天使が扱えるはずのないそれは、先端が鋭く尖らされており、傷つけるための道具として、少女の手に収まっていた。


(嘘だろ、これ! なにが、どうなってんだよ!?)


 暴れる玲那の腕を掴み続け、その手からヒヒイロカネが落ちた。

 抵抗力を失った玲那は、床に崩れ落ち、袋井は落ちたヒヒイロカネを拾ってすぐにポケットに仕舞いこんだ。

 その時、ヒヒイロカネが――指に。

 小指の糸が――切れた。


「どうしたんだよ、玲那ちゃん! 何があったんだ!?」


 うなだれた玲那の肩を抱き、袋井は揺さぶりながら声を掛けた。


「パパ――パパは、寄生されてるの? 妹さんに寄生されてるんでしょ?」

「どうして、それを……」

「やっぱり、やっぱり、そうなんだ! レナから、ママを取るんだ……」


(どうして、この子はそのことを知ってるんだ!? ママを取るって、何を言ってるんだ?)


 泣きだした玲那を抱きしめ、袋井はどうするべきなのか、全く思い付かなかった。


(バレたのね。潮時かしら)


 その声は聞き覚えのない、しかしどこか馴染んだ響きのある声だった。

 声の方を向いた袋井は、目を大きく開いた。

 そこには、世那がいた。

 いや、違う。

 顔立ちや目つき、髪の色などはすべて同じだが、流された髪は結ばれておらず、美しい肢体には、薄い布一枚しか巻かれていない。

 なにより、大きく異なっているのは、その――大きなお腹だった。

 子を宿したもの見られる顕著な膨らみは、その女性が妊婦であることを示していた。


(ありがとう、袋井君。君のおかげで順調よ)

(なにが――どうなっているんだ?)

(君が、よく分からないお呪いで、自分の力を制御してくれたお陰で、予定よりずっと順調に成長してくれたわ。一度は、諦めていたけど、あなたに寄生して本当に良かった。感謝してる)


 そう言って、世那によく似た女性は袋井の額にキスをした。

 そこには、実体を感じた。

 今までのような、幻影でない。実体を。


「ママ?」


 顔を上げた玲那が、確かにその女性を捉えていた。

 袋井にしか見えなかったはずの幻影が、今、目の前に見えている。


「へぇ~、さすがあの女のガキってだけあって、クズね。ほんと身の程ってのを知らない」

「誰ですの、あなた?」

「あんたの探していた妹さん、よ!」


 大きく振り上げた足で、女性は玲那を蹴り飛ばした。

 無抵抗に蹴り飛ばされた玲那は本の山にぶつかり、埋もれていった。


「玲那ちゃん!」

「ちょっと、アンドゥラスいつまで、ダラダラやってるの? 早く出てきて行きましょう? あなただってもう十分、力は回復できたでしょ?」


 冷酷なほほ笑みを向ける女性は、片手で袋井の頭をがっちり掴んで持ち上げた。

 頭を掴まれているだけなのに、全身が硬直し、袋井は身動きが取れない。


(袋井君。君には、感謝している。我々が、ここまでうまく回復できたのも、すべて君のお陰だ。寄生して出られないなどと、嘘をついて本当に申し訳なかった。あの陰陽師に気付かれないかとハラハラしたが、むしろ功を奏した。君は、本当に役に立つ友人を持っていたと思っていい。感謝している。だが、我が子のためだ。もう少し、君の精神エネルギー頂きたい。すまないが――最後まで付き合って貰う)


 袋井は、全身を凍りつかせるような悪寒を感じた。

 チリッと、胸の中心で炎が燃えたような気がした。

 途端に全身が燃えるような熱さを感じた。それが自身のアウルの超加速的な放出によるものであると、気付いた頃には――意識を失っていた。


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※この作品は出版デビューをかけたコンテスト
『エリュシオンライトノベルコンテスト』の最終選考作品です。
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