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What-if games?  作者: 岡田播磨
3章 BADEND **をするから、愛をくれ!
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第三話


「わかっていると思うけど。僕達の未来は絶望的だ。救いはない」


 あの晩。

 集まった4人の子供たちの話し合いは、夜人のその一言から始まった。

 夜人に連れられて、陽報館の三階に上がった子供たち4人は、凌雅の部屋で話を始めることとなった。

 自分たちの存在は、現代の記録に残らないと夜人は言いながらも、世那の娘である玲那に指示を出した。

 玲那は、透過能力を使って壁を超え、埋め込まれている監視カメラすべてを停止させることに成功した。

 凌雅は、部屋に備え付けの学習デスクの椅子に座り、玲那と律花はベッドに腰掛けている。

 三人の視点が集まる部屋中央に夜人は陣取り、演説をするように語った。


「僕達が物心つく前に父は戦死し、母は僕らをかばって死んだ。与えられた状況は絶望的で、人類側はすでに降伏すら許されない状況にいる。これは確認だけど、みな同じような状況だよね?」


 冷徹な造られた微笑みの夜人が、三人に優しく語りかける。

 三人は視線を彷徨わせ、言葉を詰まらせている。

 平然として言い難いことを聞いてくる夜人に凌雅は、怒りを感じていた。


「だったら、どうだって言うんだ! 今更聞くこともないだろうが……」

「確認だよ。もし、誰かが違う未来を抱えているなら、その子に未来を託そうと思っていたんだけどね」

「なに言ってんだ、お前?」

「言葉通りだよ。違う未来が描ければ、それが一番いいんだよ。ちなみに僕が生まれる未来は、絶望的で救いがない。もし、僕が生まれないことで未来が繋がるならば、その未来を選択したい。それが出来るのならば、僕は喜んでこのサバイバルゲームから辞退しようと思う」

「なっ!?」


 夜人は微笑みを崩さず、凌雅の言葉を受け取っていた。


「でも、残念ながら、みな同じようだね。つまり、袋井雅人が誰を選んでも、この未来は回避できないという事か……」

「お前、さっきから何ごちゃごちゃ言ってるんだよ。もっと、わかりやすく言えよ!」

「凌雅くん、本当にわからないのかい? 袋井雅人が僕らの母親――誰を選んでも、未来は変わらないってことだよ」

「何いってんだ!? 分割された俺達の魂がひとつになれば、本来の力が発揮できる。そうすれば、ヒトが救える。ツキ先生は、そう言っていたんだぞ!」

「凌雅くん。それがどうしたっていうんだ。選択された一人だけが残り、力が強くなった所で、何か変わるかい? 残された一人が全人類を引き連れて天魔達を撃退する真の英雄にでもなれると、本気で思っているのかい?」

「そ、それは……」

「それに、君たちは始めっから、殺し合いを放棄したんだろ? 面倒な選択はすべて袋井雅人に押し付けて、自分たちだけ幸せな時間を過ごそうとした。そんな自己中心的な君達が、誰かを救えるとでも思うのかい?」


 息を呑んで凌雅は、黙ってしまった。

 冷酷な瞳で見据える夜人は、青くなり喋らなくなった凌雅を見て満足気に微笑んだ。


「このゲームに勝者はいてはいけないんだ。むしろ、袋井雅人には、僕らの母親以外の人間を選んで貰ったほうが、別の未来に繋がるかもしれない。その方が、多くの命を救うには良い選択かもしれない」


 4人はすでに知っている。

 自分たちの生まれた未来は、救われないことを。


「イヤ……。イヤですの! レナは! レナは、ママと一緒にいたい!」


 玲那は立ち上がり、金切り声を上げた。

 夜人は、玲那を今まで以上に気味の悪い物でも見るような蔑んだ目で見詰めた。


「黙りなよ。僕は、君みたいな子が一番嫌いだ。生きているうちは母親にベッタリで、母親の言うことならなんでも聞いて、死んだら今度は別の世界の母親にベッタリかい? 母親の愛玩動物なら楽だよな。何も考えない馬鹿でいられる。こんなヤツが生き残って誰かを本気で救えると思うのかい、凌雅くん?」


 夜人の冷たい視線を浴びて、玲那はガクガクと震え始めていた。

 目を釣り上げた律花が、夜人と玲那の間に割って入り、噛みつかんとする表情をしていた。


「アタシも、あんたみたいな知ったかぶり野郎が一番嫌いよ」

「そうだろうね。君みたいに、ちびで頑固なお子様は、僕みたいなのが一番嫌いだろうね」

「うんにゃろぉぉおおお!」


 挑発された律花は、夜人に飛びかかっていた。

 悪魔としての牙が生え、獣のような表情となった律花は、馬乗りになって夜人の顔を殴りつけた。

 だが、律花の拳は、夜人の顔を掠めず、夜人の頭を貫通していた。


「う、そ……透過能力……」

「違うよ。僕は普通の人間さ。透過しているのは、君の腕の方だよ」


 律花を払いのけると、夜人は立ち上がり襟を正した。


「直接、感じてもらったほうがいいと思ってね。申し訳ない。変な挑発ばかりしてしまって」


 相変わらず、目は笑っていないが夜人は不思議なほほ笑みを取り戻していた。


「な、何なのこれ?」

「サバイバルゲームの答えだよ。いや、違うか。僕たちは始めっからサバイバルゲームなんて出来ないようにされていたんだろうね」

「だから何なのよ、これは!?」

「どうやっているか、わからない。けど、ツキ先生は、僕らにサバイバルゲームをさせるつもりはないんだよ。僕が、凌雅くんに攻撃しても光纏は解かれるし、律花ちゃんが僕に殴りかかっても、透過されるようになっている。互いが互いを、始めから傷つけ合うことができない。君たちがサバイバルゲームを放棄したのは、むしろ正しい選択だったのかもね」


 夜人は、余裕たっぷりに三人に微笑みかけた。

 納得出来ない。いや、傷つけ合うことを望まない三人にとっては、都合が良いことではあるのだが。この先、では何が子供たちに待ち構えているのか、全く予想がつかない。


「……じゃあ、俺達は、どうすればよかったんだよ?」

「そうだね。互いを攻撃できないなら、その親を殺すのが、一番手っ取り早いじゃないかな?」


 無意識に凌雅は、夜人の襟首を掴んで、殴ろうとしていた。

 その行動を予想していた夜人は、涼しい顔をしている。


「冗談だよ。そんなことをしたら、親殺しのパラドックスが起こってしまう。それでなくても、僕達の存在は危ういのに、より不遜ふそんな存在になってしまう」

「フソン?」

「『思い上がっている』ってことさ。たいしたことないくせに、自分たちを重要な存在だと勘違いしている。僕達4人じゃあ、未来は変えられないんだよ」


 酷く冷めた調子で夜人は、言葉を切った。

 掴んでいた襟を離し、凌雅もぐったりと肩を落とす。


「僕達は、まずこの世界にいるツキ先生を探しださなきゃいけない。あの人なら、別の方法で、未来を変える仕組みを知っているかもしれない。――あと、もし本当に別の未来を望むのならば、袋井雅人には、僕達の母親以外の恋人を見付けてもらったほうがいい。そうすれば、せめて僕らが知っている酷い未来にはたどり着かない。大事な人が、僕らの所為で死なずに済む……」


 夜人の最後の一言が、全員の胸に深く刺さった。

 夜人もまた、それ以上の言葉を続けなかった。

 そのまま、静かに話し合いは解散した。

 出来る事は、ふたつ。

 ひとつはツキを探すこと。

 もうひとつは、袋井雅人に母親との結び付きを断ってもらうこと。

 でもそれは、自分たち存在を否定することであった。


◇◆◇


 ぼんやりとあの晩のことを思い出していた凌雅は、学園中庭のベンチに座って空を眺めていた。

 凌雅の知る両親の思い出として、二人が思いを伝えることに成功した特別な場所。

 凌雅に父の思い出がなくとも、母にとっては大事な場所だった。

 その時母は、きっと生きて来た中で一番幸せな顔をしたのではないだろうか。

 霞がかかったように記憶にある未来の恋音は、はっきりとした姿を留めない。

 凌雅の頭のなかでは、すでに現在の恋音の姿が刻み込まれていた。


「……凌雅くん……」


 まるで自分の頭から出てきたかのように、凌雅の目の前には、困り顔の恋音が立っていた。


「――母さん」


 凌雅の呼びかけに、恋音は更に困ったような、照れたような表情をした。

 座っていい、と凌雅に確認した後、恋音はベンチに並んで腰掛けた。


「なんか、不思議だね。凌雅くんとは、初めてあった時から、すごく親近感を感じていたけど……。私の子供だったなんて……。でも、ちょっと嬉しいな……。凌雅くんみたいな、元気な男の子が生まれて来てくれるんなら、お母さんでいるのも、なんか楽しそう」


 恋音は、とても嬉しそうに凌雅に微笑みかけた。

 そして、寂しそうな表情を作った。


「凌雅くん……ちょっと聞いていいかな?」

「なんですか? 俺が分かることなら……」

「私は、ちゃんと凌雅くんの母親をやってあげられたのかな……」

「どうして、そんなことを?」

「私は、両親と少し折り合いが悪かったから……ちゃんと、凌雅くんのことを守ってあげられたのか心配で……」

「俺を――守る……」


 凌雅の頭のなかに、はっきりとした映像が浮かんでいた。

 凌雅を守り、凌雅を庇うために、天魔の一撃に死んだ恋音の姿が。


「お、俺は、母さんに、ま、守ってもらいました。ずっと、ずっと……」

「そうかぁ……よかったぁ……。凌雅くんには寂しい思いをさせずに済んだんだね……」


 安心して笑う恋音の顔を、凌雅は直視できなかった。

 もうわかっていた。

 夜人の言葉の意味を、凌雅は理解していた。

 恋音を、母さんを、大切な人を守るためには、子供たち全員が、消えてなくなるべきであることを。

 そうすれば、そうであれば、母が自分を庇って死ぬことはないことを。

 俺達は、生まれて来ないほうがいいんだ、と。


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