第九話
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袋井の靴は、恋音には大き過ぎる。
それでも、袋井は恋音に自分の靴を渡し、裸足の恋音は靴を履いた。
カポカポと音を鳴らし、歩く二人は明かりがつく陽報館を目指している。
ほんの数時間前までは、生気なく静まり返っていた陽報館に命の光が灯っている。
望む未来も、行き先も決まっている。
時間を掛けて、答えを見つけていけばいい。
何としても、三人の未来を見つける必要がある。
「ただいま戻りました」
玄関で袋井は、大きな声で叫んだ。
だが、誰ひとり返事が帰ってこなかった。
リビングからは、騒々とした空気が感じられる。
人がいることは間違いない。
手を繋いでいた袋井と恋音は、玄関を上がるとリビングの扉を開けて、中にはいった。
二人の目にすぐ凌雅の姿が入った。
ほんの少し長い前髪が片目を隠す、少女のように優しい少年。
入ってきた二人の視線に気づき、凌雅は困ったようなハニカム表情をした。
凌雅は、一度合わせた視線を、二人を誘導するように、リビング中央に逸らした。
つられて、袋井はリビングに目線を送る。
袋井たちを除いたリビングに集まる7人の家族は――7人?
怠惰に、律花、世那に、玲那。戻ってきた凌雅に、先ほど到着した美月、そして――。
「お帰りなさい、父さん」
短く切りそろえた黒髪の、スーツを着込んだ微笑みの少年。
その手にキラリと、ヒヒイロカネが光っている。
「それじゃあ、始めようか。僕達の――サバイバルゲームをさ」
少年のほほ笑みに、袋井は額から汗を流し苦笑いをした。
袋井雅人の手に入れた、新しい日常。
いつまでも変わらないと、信じ続けていたものだった。




