ベディヴィエールの忠告
救護室でクロウの手当てを無事終えたケイは、救護室を出て、クロウの愛馬に真剣に話しかける。
「聞いて頂戴、今貴方の主が危ないの・・・お願いだから私を背中に乗せて?」
黒い馬は、つぶらな瞳で黙って、ケイを見つめると静かに四肢をつけた。
ケイはクロウを馬に乗せると、自ら手綱を取りクロウを胸に抱き寄せた。
ゆっくりと、黒い馬は起き上がると手綱の合図と共に疾風のように城へと走り出した。沸きあがる歓声の中、民衆は、ケイ達の様子をみると道をひらく。
民衆は心配しながらも、敬意を表し膝つきケイたちを見送った。
鬱蒼とした森を抜けて、城へ到着するとケイを見るや否や兵士長が開門する。
「ケイ様! クロウ様に何かあったのですか?!」
「今、説明してる暇がないの! すぐ担架を用意して!」
兵士長は、兵士に命令すると担架を持ってこさせる。
馬からクロウを下ろし宮廷に運び込んでいく、ケイも馬を下りると優しく頬を撫でて呟く。
「ありがとう。貴方のおかげで間に合いそうよ・・・」
「兵士長! 馬を手厚く扱ってあげて! それとリアが戻ってきたらクロウ様の自室に来るように伝えて!」
そう告げたあと自らも急いで宮廷の中庭を通り大広間へ繋がる階段を登り、廊下を通り自室に戻ると棚から大き目の医療用の木箱を持ち出し、クロウの部屋へと走り出した。
焦る気持ちを押さえつけてクロウの部屋へと足を踏み入れる。
クロウは二人の兵士の手によりベットに寝かされていた。
「ご苦労様、もういいわ。出てって頂戴!」
二人の兵士が出て行った後、ケイはベットに寝かされたクロウを見つめて、右手を取ると脈を計り始める。
クロウは、脈が早く、額から汗が浮き出ていた、ケイは縫い合わせた右の掌をひらくと傷口が化膿していた。
「まずいわね・・・! このままじゃ感染症にかかるかもしれないわ・・・」
ケイは大きめの木箱をあけた。その中には様々な瓶やガーゼがあり、細長い赤い瓶を取り出し銀鉢の中に注ぎ込む。
ティムと言う猛毒の木から抽出された、真赤なその薬品は毒性が強い。
次に、木箱から細めの瓶を二本取り出す、度数の高いジャムの実で出来た瓶だ。
単体では猛毒のティムも液体は、ジャムと一対ニで混ぜ合わせると強力な殺菌作用を持つ。
ケイは、木箱からピンセットでガーゼを取り出すと化膿した掌を丁寧に洗浄する。
何度も何度も、膿を取り除くと化膿した掌を洗浄していく。
一時間程、繰り返しなんとか膿が治まってきているようだった。
そこにリアが急いで入ってきた。
「ケイ様! 容態のほうはどうなりました!?」
ケイは、振り向いてリアに告げる。
「今の所は、なんとかなりそうよ・・・だけどまだ安心できないわ。リア悪いんだけど清潔なタオルとお湯を沸かして持ってきて頂戴。それが済んだら戻っていいわ、夕食の支度があるでしょうから、あとパーシヴァルから王に今日の晩餐には出席できないと伝えておいてくれないかしら?」
リアは頷くと直ぐにお湯を沸かしに厨房へ向かった。
リアと入れ替わるように扉からノックする音が聞こえてきた。
「入るよ、ケイ卿」
扉が開かれ、ベディヴィエールが入ってきた。
ケイは振り返り睨みつける。
「何か用なの?! ベディヴィエール!」
ベディヴィエールは、両手を挙げて顔をふると冗談ぽくおどけてみせた。
ケイは苛立ちを抑えきれない。
ベディヴィエールは、椅子に腰掛けると真面目な顔でケイに話しかけた。
「ケイ卿、お見舞いと一つ忠告をしておきたかったんだよ」
「何かしら!」
「君が、クロウ様に恋をしてしまったと言う事実は、まだ僕しか気が付いてないだろうけど自分に素直にならないと恋敵に持っていかれるよ?」
ケイはベディヴィエールの言葉に表情を硬くする。
「私が、クロウ様に恋してる? 何か勘違いしてるんじゃないかしら!?」
ベディヴィエールは、椅子から立ち上がると扉に向かい歩き出した。
「気づいているのか、気づいてないフリをしてるのかわからないけど、僕はクロウ様に君なら相応しいと思ってるよ。彼は危なっかしいからね。君の知識と美貌なら釣り合いも取れる、僕はお見舞いついでに君の背中を押しに来たのさ」
ケイにそう告げると、ベディヴィエールは出て行った。
入れ替わりにリアが、お湯の入った銀鉢と清潔なタオルをサーバーに乗せて扉から入ってくる。
「ケイ様、お湯と清潔なタオルをお持ちしました。ところで今、ベディヴィエール様をお見かけしたのですが何かあったのですか?」
ケイは背中越しにリアに言う。
「リアありがとう。そこのテーブルに置いたら夕食の準備にかかりなさい、こっちは大分落ち着いたから・・・」
様子が変なケイを心配しながらテーブルにお湯と清潔なタオルを置くと、静かに出て行った。
「クロウ様・・・」
切ない顔でクロウをみて呟いた。
立ち上がり、サーバーを抱えて清潔なタオルをお湯につけこみ絞るとクロウの額の汗をぬぐう。
傷口の消毒をしながら、何度も繰り返しつきっきりで看病をした。
気が付くと、部屋の隅にある時計は夜の八時前を示していた。
外から花火の打ちあがる音が聞こえてくる。
ケイはたちあがると、窓辺べに立ち花火を見上げて、窓に右手を沿え呟く。
「自分に素直になったほうがいいか・・・貴女はどうおもう?」
窓に映る自分に問いかけるように言葉を投げつけて、クロウの看病に戻った。
それから一時間程看病を続けて、ようやく容態が安定したクロウを確認したケイは、ベットのに顔を埋めて疲れて寝入ってしまった――――――。




