契りの夜
感想、指摘など、気軽にご意見頂ければありがたいです。
この物語はフィクションであり、作者自身、初めて書く作品ですので読んで下さる皆さんの意見をお聞かせ下さい。厳しい指摘も歓迎しております。
俺は、輝く光の中で、白銀のドレスを身に着けた、背中にはえた六枚の翼を惜しげもなく広げた金髪の女性に話しかけられていた。
右手に持つ剣を胸もとで抱き、左手にはユリの華を一輪。
抱いた剣のうえに交差するように立っていた天使だった。
天使は、俺に何か告げていたが上手く聞き取れなかった。
「盟約を交わしなさい・・・」と、だけはどうにか聞き取れた。
ゆっくりと遠のいていく天使を、必死に追いかけて質問を問いかける。
「待ってくれ! 貴女は誰なんだ!? 俺は、誰と盟約を交わせばいい!?」
遠のいていく天使は、白い大地から翼を優雅に広げて飛び立つと、澄み切った空へ浮遊し、俺を一瞥してみると目が眩むほどの光を放ち消えた。
まばゆい光を、俺は左腕でかばう、光が治まったのと同時に腕を下ろし、静かに瞼を開いて、視界を取り戻すと、石作りの天井が目に飛び込んできた。
「今のは、夢か・・・夢にしてはリアルだったな」
目覚めた俺は、体を起こそうとしたが、左腕と右掌に激痛が走る。
余りの激痛に、俯き顔をゆがめた。不意に左手に視線がいく。
握りこんだ左手をゆっくりと開いて見ると血で真紅に染まったリボンが顔を覗かせた。
「ああ・・・そうか。俺は戦ってたんだったな」
記憶を辿りながら思い出そうとした、ふいに甘い香りが鼻を刺激する。
傍らに目を向けるとケイが、ベットのシーツに銀髪を豪快にまきちらし寝ていた。
「ずっと、俺の看病をしてたんだな・・・きっと疲れてるだろうに」
自覚の無いまま、優しい笑顔を浮かべて微笑むと、白い布で覆われた右手で頬を撫でて一言、つたえる。
「ありがとう。ケイ」
俺は、何とか体を起こすと、ケイを起こさないようにベットから出る。
ケイの体を心配して、ベットからシーツ抜き取り体を覆い、静かに部屋から出た。
蝋燭で照らされた、赤い絨毯がまっすぐ伸びた広い廊下を進んでいく。
突きあたりを右へ曲がると、豪奢な大広間が姿をあらわす。
大広間は、中心部分が四角い吹き抜けになっていて、吹き抜け部分をふちどる手すりは、金で装飾を施されていた。
手すりから、眼下に中庭が見えた。
もう誰もが寝静まった。闇の深い時間帯に俺はある場所へ静かに歩みを進める。
「なんだか、いつもより静かな夜だ。夜の香りがして心地いい」
手すりに沿って階段を下へ降りていくと中庭へと足を踏み入れる。
「初めてここを、ランスロットとガウェインと共に謁見の間へ向かったんだったな・・・」
俺は、階段に挟まれた謁見の間の扉を一瞬見て、懐かしそうに微笑む。
そして、中庭に美しく咲き乱れる木々や花達へと顔を向ける。
「こんなに静かで寒い夜でも、しおれる事なく立派に咲き乱れてる。ガラハドが瞳を奪われるのもわかる」
中庭を惜しみながら出ると、階段の隅にある牢へと続く道を降りていく。
薄暗い道を、微かな温かい光を頼りに下へ、一歩ずつ、確実に歩んでいく。
確かな一歩を踏み出すたび、髪は背中で揺ら揺らと、ユラメク。
やがて、地下牢の入り口へと辿りつくと、鉄格子に目を向ける。
鉄格子は、二等辺三角形のようにポッカリと牢への道を開けていた。
「俺が斬ったままだな。当然か、母さんと対峙した時から数日しかたってないもんな」
俺は瞼を閉じて、母さんを思い出す。
本当に、この世界に来たことは、今思えば幸運だったのかもしれない。
幼い時から、運命を翻弄されてきたけれど、俺はここで大切な人を見つける事ができた。
きっと何か、意味があってこの世界に来たんだろうと、今は確信している。
それが、あの漆黒の者の計略のだとしても―――――。
鉄格子の棚にある毛布を手にとり、俺は鉄格子をくぐると、突き当りの幽閉されていた牢屋の前で足を止めた。
「ここで初めてパーシヴァルが泣いて、リアに会って、その晩にケイと話をしたんだよな」
数ヶ月も前の事だけど、昨日の事のように思い出す。
突き当たりの格子窓をみて、
「そして・・・ここで、綺麗な沢山の蛍のように輝く光を見たんだ。そしてソレは。」
俺は、言葉を止めて牢へと入り、壁に背中を預けると毛布に包まり、握り込んだ左手をひらいて考える。
盟約とは、誓いの証。
本来なら、俺はアーサー王に誓いを立てないといけないんだろうな、円卓の騎士になるんだから。
でも・・・俺は騎士じゃない。
騎士と武士、確かに似通っている、理念も、信念も・・・だけど俺は―――――!
自らの血で真紅に色を変えたリボンを見つめながら、独り静かに語りかける。
「盟約を・・・か。そんなの関係ない。もう俺の中で誰と結ぶかなんて決まってる。怒りっぽくて、ちょっと泣き虫で頼りになって、でも、漆黒の者に追われる不安の日々を過ごしてるのに、ヤセ我慢して強がってる。不思議な瞳をしたキレイでカワイイ女の子。俺は彼女を守りたい! それが今の俺が望む事だから・・・」
口に出した言葉は、まっしろな吐息となって静かに昇ってゆく。
顔をあげ、視線を吐息に注ぐと、目の前に、温かで包み込むような優しい光が溢れ出す。
光の中から、少女は現れて俺に話しかける。
「待ってたわ・・・クロウ」
「待ってた?」
「ええ・・・きっと来てくれると信じてたから・・・」
「寒いのに、こんな所で待ってるなんて、風邪を引くと大変だよ。ヴェルフィーユ・・・」
俺は、自分の纏ってる、毛布を少女の肩に掛けた。
少女は、色の違う左右の瞳で、俺を上目使いで不安そうに見つめて質問を投げかける。
「クロウは、ずっと私を守ってくれる?」
「死んでも守るよ」
俺の言葉に少女は、頬を膨らませて怒り出す。
「クロウは死んだらダメ! ずっと私と一緒にいるの! それに死んだら私を守れないじゃない!」
確かにそうだと俺は、心の中で笑う。
「ああ。ずっと一緒にいて、君を守り抜くよ。神とこのリボンに誓う」
俺は、左手を開いて、リボンを少女に見せた。それを見て嬉しそうに微笑むと毛布のマントから右手を差し出す。少女は声を震わせて、緊張した声で俺に言う。
「盟約を・・・証を立ててほしいの・・・」
俺は夢を思い出した。ああそう言うことか、これでここに来た意味が出てくる。
かつて少女がこの場所で運命を口にした時から、運命とは決まって通る道なのだ。この先どんな困難がまちうけていようと、かならず少女を護ると決意した。
俺は、覚悟を決めて膝を付くと、少女のまっ白で綺麗な手をとり誓いのキスをする。
その姿を見た少女は、嬉しそうに顔を火照らせて、左手で十字を切ると左手を掲げる、手から水が溢れ出しクロウに降り注ぐ、そして力強く言葉を紡ぐ。
「聖ジョージと熾天使ガブリエルの盟約に基づき、今、証は立てられた! ここに聖ヴェルフィーユを守護する聖騎士が誕生した事を、神々に宣言する!」
少女が宣言すると、頭上から神々しい光に包まれた。
光の中で俺達は、数人の人影に囲まれた、女性のようなシルエットの人物は、盟約は交わされたと告げた後、光と共に去って行った。
薄暗い牢に月明かりが射しこみ、少女を照らし出す。
不意に小さな白い雪が、少女の上に降り注ぐ。
小さな鉄格子の窓から、まるで祝福するかのように雪が漂ってくる。
少女は、金糸の髪をなびかせ、赤と碧の瞳に涙を滲ませて嬉しそうに優しく、見た事もない貌で微笑んだ。
その光景は、神秘的に綺麗で心を鷲づかみにされる。
鼓動が尋常じゃない速さで高鳴る。
少女は、左手の掌を差し出して、
「クロウ。リボンを私にくれない? 宝物にするから・・・」
俺は血で染まったリボンを少女に渡し、告げた。
「ヴェルフィーユが望むなら」
少女は綺麗な瞳を閉じて涙を流すと、大事そうにリボンを抱きしめる。
ふたたび、静か瞳をひらくと、さくらんぼのように、ほんのりと頬に色をまとわせる。そして―――
「ありがとう。クロウ・・・それから・・・実はね。ずっと前からね・・・クロウの事が・・・」
少女は、口ごもっていつもと違い、歯切れが悪かった。
何を言うかは、予想できた。なぜなら俺も、そう伝えようとしたからだった。
「ああ・・・ヴェルフィーユ。それは俺から言うよ・・・」
少女は、真剣な顔で俺の言葉を待っている、視線はどうやら俺の口に注がれてるようだ。
俺は立ち上がり、男は損だなと思いながら優しく微笑んで言葉を紡ぐ。
「俺は、ヴェルフィーユを愛してる・・・」
青年から紡がれた言葉は、少女の心に清らかな水のように染み渡っていった。
涙を浮かべる瞳は、まるでルビーやサファイヤのように輝いていて、瞼をとじると真珠のような涙が少女から溢れ出た。
わっ、と泣き出すと毛布を投げ捨て、青年の胸に顔を埋めて号泣した。
青年は、包み込むように抱きしめると、痛んだ右手で優しく少女の金色に輝く髪を撫でる。
「ヴェルフィーユ、もう独りで無理をしないで。君が傍に居てくれたように今度は俺が、君を支えるから」
少女は、青年の言葉を聞き、一段と声を張り上げて泣くと恥ずかしいのか悪態をつく。
「クロウ貴方の主は誰!」
ヴェルフィーユの声にクロウは素直に応じる。
「ヴェルフィーユだけど? 君以外俺の主はいないよ・・・」
「じゃぁ・・・もう一度誓いのキスをして!!」
クロウから離れるとヴェルフィーユは右手を差し出す。
クロウは、右手を掴むと困った顔でヴェルフィーユを引っ張り左手で腰に手を回すと誓いのキスをヴェルフィーユの唇にかわした。
咄嗟の事にヴェルフィーユは反応できず、顔から蒸気を発して顔を赤くした。
「俺の初めてだよ・・・ヴェルフィーユに捧げるつもりだった」
「クロウの!・・・バカ!!」
ヴェルフィーユは黙っていた。実は2回目だなんて言えなかったからだ。でも、ヴェルフィーユは心の底から嬉しかった。だって初めてには変わりないのだから---。
こうして二人だけの時間は、粉雪が闇を白く染めるかのように、深深と降り注ぎ終わる、明け方まで静かに、おごそかに、雪が溶けるように過ぎ去って行った。




