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予備の勇者パーティーが魔王の首を持って帰ってきた〜なお勇者は〜  作者: 焼きそばこっこ


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アークライトとカイゼル(2)

国立勇者育成機関『エルディオン』。その心臓部ともいえる大広間には、千人を超える生徒たちの熱気と、それを冷まそうとする古い石造りの壁の冷気が混ざり合い、独特の重苦しい空気が停滞していた。

全学科が招集されたこの日。幾十もの足音が地鳴りのように響き、学科ごとの列が一切の乱れなく作られていく。三年に及ぶ過酷な訓練は、彼らの体に「規律」という名の本能を刻み込ませていた。しかしその荘厳な雰囲気とは反対に、背筋を伸ばして直立不動を守る彼らの内側では、期待と不安が濁流のように渦巻いている。


その理由は一つ。『エルディオン』に入学して3年…終了課程まで残り半分となったこの時期に行われる、パーティー編成だ。

各学科の生徒を1名ずつ、計4人で構成されるパーティーを作り、以降3年間はその4人が助け合い、支え合いながら勇者になるための修行をしていく。家族のような存在になる人間を自ら選ぶのだ。


しかし、各学科との交流は今年…つまり3年生になるまでは一切ない。そのため、周りにいる人間の4分の3は知らない人間のわけだが、やはり、学科ごとには一定の個性があり、それぞれの体格や顔つきでその者のジョブは容易に判断できる。魔法使い科の生徒は戦士や勇者に比べると筋力には劣っていて、それをカバーするほど大きな態度を持っている、要するに高飛車な者が多い。戦士科は言わずもがな、体は筋骨隆々という言葉では言い表せない…もはや岩のような奴らで、僧侶は戦闘力が低く、自己肯定感が低い傾向にあり、猫背で周りをキョロキョロしているような者が多い。そして、勇者は自分が正義だと思っている節が強く、いつでも笑顔で自信に満ち溢れており、常時剣を触っていないと死ぬのかというレベルでずっと剣を携えている。

そして、大概、このキャラクター性…職業性というべきか、それに沿った通りの人物像を持つ人間が強い傾向にある。つまりは周りを見渡せば、周りの人間の力量はおおよそ識別することができる。自らが勇者パーティーに選抜されるためには、そのメンバーは強くて然るべし、ましてやその核となる勇者なら尚更である。


――というわけで、勇者科の星…カイゼルとアークライトに視線が集中するのは当然の結果であった。


やはり勇者らしく、剣の柄を無意識に触りながら大広間にやってきたカイゼルは、足を踏み入れた瞬間に感じた視線に肩を跳ねさせた。殺意は感じないが、どこか獲物を狙っているかのような悪寒のする視線に、戸惑いながらも、勇者科の列に並ぶ。列は成績順だから当然一番前。アークライトはその後ろ。自分によく似た赤色の髪、しかし癪に障るカイゼルの頭部を見て、アークライトは教官に聞こえないほど小さな音で舌打ちを鳴らした。


「お~い、アークライトさーん。勇者はそんな舌打ちなんかしないぞ~?」

その小さな音を聞き取ったカイゼルが面白半分煽り半分に茶化すような小声を放つ。アークライトは視線を正面の教官に固定したまま、眉間に刻まれた皺をさらに深くした。


「うるさいぞ。そっちこそ、お前のその能天気なツラをリーダーに掲げたがるやつらが3人もいるか怪しいんだから今からでも猫をかぶっていろ」

ギャフンと言わされたカイゼルは口を尖らせる。そしてしばらく間を空けてからアークライトに顔を見せないままぽつりと言った。

「……まぁ、お前みたいな奴がいるとは思ってないよ。」

アークライトはその言葉に鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。常に冷静沈着な彼が、一瞬だけ防壁を崩されたようだった。やがて、アークライトは自分の動揺を隠すように一度だけ目を伏せると、再びに不敵な、それでいてどこか照れくささの滲む笑みを浮かべた。

「……フン。俺もだよ、相棒」


生徒が全員集まった頃、太陽に照らされて、煌びやかに光る頭部を持つ教官が、大広間の端から端まで届く野太い声を響かせた。


「ただ今よりパーティー編成を行う!これから最低3年間は付き合っていく仲間…いわば家族だ。成績だけで相手を見るのではなく、自分と性格が合うのかもよく考えながら編成を行うこと!」


令と同時に、怒涛のような足音が石床を鳴らした。 二人の元へは、我先にと生徒たちが押し寄せてくる。その熱気に押され、カイゼルとアークライトは自然と背中合わせになった。

「お前、なんで断るんだよ」 「そっちこそ」

背中に感じるアークライトの体温と、相変わらずの素っ気ない声。 カイゼルは詰め寄る志願者たちの熱弁を聞きながら、どこか他人事のような違和感を覚えていた。目の前の相手が弱いわけではない。ただ、彼らと目が合っても、自分の心の奥にある歯車がピクリとも動かないのだ。

(なかなか、いないもんだなぁ……)

カイゼルは口をへの字に曲げ、人壁を退けながら広間の隅へと視線を送った。 ふと、喧騒から切り離されたかのように、誰とも組もうとせずに点在する三人の姿が目に留まった。

カイゼルは群衆の隙間から頭を覗かせ、右手の親指と人差し指で小さな「輪」を作る。

「【観察サーチ】」


勇者特有魔法。輪の向こう側の景色が微かに歪み、文字情報が浮かび上がる。そこからわかる情報には個人の魔力量や技術力によって差があるが、カイゼルの観察(サーチ)できる情報はごく単純。強さ、自分との相性の(パーセンテージ)…以上。それだけ。only。


相手の名前も、出身も、年齢も…全て直接本人に聞けばいいやと彼は思っている。能天気…もとい単純なカイゼルにとってはこれくらいの情報量だけで判断するのがちょうど良かったのだ。

数値の指標としては、エルディオンの勇者科の生徒達の平均の強さが大体50%と表され、アークライトの強さが110%、相性は99%と表される。カイゼルは3年間アークライトという自分の実力に見合って相性もいい贅沢な男と一緒にいることができたのは奇跡だと思っているため、そこまでの度数は求めないものの、最低どちらの項目も80%以上の人間が欲しいと感じていた。


「って…え?」


3人の情報を遠目で確認したカイゼルは、驚きのあまり目を細めてもう一度その情報を凝視する。

全員の(パーセンテージ)が全て99で綺麗に並んでいる。


「っ…!」

カイゼルの口端が、抑えきれずに吊り上がる。 彼は押し寄せる群衆など、もはや目に入らないものとして一蹴した。石床を強く蹴り、人の壁を飛び越え、彼は迷わずその三人の元へと駆け出した。

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