予備の勇者パーティーが魔王の首を持って帰ってきた。(1)
真夜中。叩きつけるような大雨が、王都の石畳を激しく打っていた。 門番は、湿気で重くなった外套の襟を立て、顔をしかめて空を仰いだ。「当番の日にこれかよ……」と毒づく声も、雨音にかき消される。
門番が顔を前に戻すと、闇の向こう、地平線の先に四つの小さな光が揺れているのが見えた。
目を凝らせば、泥濘を蹴立てて進む影が見える。雨に濡れそぼり、力なく垂れ下がった旗。しかし、そこに刻まれた紋様の見えた瞬間、門番は呼吸を忘れていた。
門番はゴクリと息を飲んだ後、ドラと共に大雨を打ち負かすほどの大きな声で叫んだ。
「ゆ、勇者達が帰ってきたぞー!」
勇者パーティーが帰還した。
門番の大声を聞いて、王都の人々は慌てて窓を開ける。通りを見ると、ボロボロになった姿の勇者パーティーがまるで葬式のような雰囲気で門をくぐり、王城につながるまっすぐな一本道を進んでいく。
民衆は、そんな雰囲気はお構いなしに、歓喜熱狂の声を上げた。
「勇者パーティーが…帰ってきた!!勇者達が帰ってくるなんて、建国以来一度もなかったじゃないか!」
「帰ってきた…ってことは魔王を退治してくれたんだよな…?!こ、これでもう誰も、犠牲にならないんだな!?」
「勇者様ー!ありがとうー!」
「さすがだぜ!勇者パーティーー!」
熱狂した人々が通りに溢れ出す。誰かが投げた花が泥の中に落ち、踏みつけられる。ある者は涙を流して隣人と抱き合い、ある者は亡き家族の名を叫んで膝をついた。熱気と歓喜が、冷たい雨の温度を一時だけ忘れさせていた。
しかし、誰かが言った。
「まぁ、私は彼らならやってくれるだろうと思っていたがな。『666期』は特に精鋭ぞ、ろ…って、おい…まて。あいつら、誰だ?」
「本当だ…勇者の髪の色が一緒だから気づかなかったが、よく見ると勇者様達じゃないぞ!?」
「で、でも勇者の旗は持っていますよ?」
「ど、どういうことだ!?」
歓喜の声は一転、困惑に変わった。
勇者パーティーの1人、屈強な体格をした戦士と思われる男が鉄の匂いを漂わせながら足を止めた。重厚な鎧の隙間からは、絶え間なく雨水が滴っている。
「俺たちは、第666.5期勇者パーティー…」
傷だらけの大柄な男が出したとは思えない、大雨にかき消されてしまいそうなほど弱々しい声でそう言った後、男はまた歩み出した。彼の視線は終始、下に向いていた。
「…666.5期って、ふざけてんのか?」
「そうだそうだ!それに勇者の出立式でお前みたいな顔は見たことがないぞ!」
民衆は、その一言だけを放り投げていった男に頭を抱えた。しかし、それを聞いていた1人の青年はどこかで聞いたことのあるようなその名前を、脳をフル回転させて呼び起こす。
「…『666.5期』…どこかで見たことがあるような…?あ!思い出した!『予備の勇者パーティー』!」
ハッと思い出して口を開いた青年を周りの人々が頓珍漢な目で見ている。
「よ、予備ぃ?なんだそれ…俺たちが一年前に見送った勇者パーティーは『666期』だけだぞ?」
「だから『予備』なんだよ!確か…聖武器に選ばれなかった勇者達…」
「聖武器のない勇者!?どういうこと?聖武器がないと魔物は倒せないじゃないの!」
「ぼ、僕もよく知らないよ…!僕が『666.5期』っていう名前を見たのは新聞のほんの小さな記事だったから、魔王を倒す本命じゃなかったんじゃないの?」
「…んで結局帰ってきたのは本命じゃなくて、予備の勇者パーティーだと。…つまりあいつらは魔王を倒してなんかいないんじゃねえのか?!」
その一言が決め手となって、人々は肩を落としてベッドへと戻っていった。紛らわしい格好をしやがって、とヤジを飛ばす者や、唾を吐きかけるものもいた。しかし、勇者パーティーは歩みを止めない。目も逸らさない。ただまっすぐ、淡々と王城へと歩みを進めていく姿に、人々はどこか異質な雰囲気を感じた。
「ねぇねぇおかぁさん。あのひとたちは勇者さまじゃなかたの?」
「えぇ。きっと本当の勇者さまはまだ戦っていらっしゃるんだわ」
「ふーん。でもみんなぼろぼろでいたそうだよ。だいじょうぶかな?」
「そうね…多分あのお兄さん達も勇者様になるための学校を卒業した人たちだから、きっと大丈夫よ。ほら、あなたは早く寝なさい」
「うーん…ねぇねぇ。おかぁさん。じゃあさ、あのまんとのおにぃさんがだいじだいじにもってるあの、あかのもじゃもじゃはなんだろう?」
「え?」
そう言って、少女が指をさした先。赤い髪の男が両腕で包み込んでいる、それは、彼の髪色ととてもよく似ているように見えた。




