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42歳バツイチ 神様になってイチャLOVEハーレムを作る!  作者: かくろう


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第94話 白いドレスの幸せ

 白いカーテンがやわらかに揺れる試着室。

 その奥から、ゆっくりと紗彩が現れた。


 ――純白のドレス。

 胸元に繊細なレース、腰から広がる流麗なシルエット。

 髪はアップに結い上げられ、シンプルなティアラが輝いていた。


「……どう、ですか?」

 恥ずかしそうに裾をつまむ紗彩の声は小さく、でも震えるように真剣だった。


 俺は思わず言葉を失う。

 秘書として何年も隣にいてくれた彼女が、今、目の前で“花嫁”という特別な姿になっている。

 いつもは冷静で仕事に隙を見せない彼女が、こんなふうに俺の反応を待っている。


「……紗彩」

「は、はい」

「……綺麗だよ。本当に」


 たったそれだけの言葉しか出なかった。けれど、嘘偽りなく、心の底からの感情だった。


 紗彩の瞳が潤み、ほんのり赤く染まる。

「……隆行さん。わたし……ずっと夢だったんです。あなたの隣で、こうして花嫁になることが」


 彼女の声は震えながらも、はっきりとした想いに満ちていた。


 思い返せば、会社を追われて孤独だった俺を、最初に支えてくれたのは紗彩だった。

 全てを失って絶望したあの時、誰よりも信じてくれたのも彼女だった。


「隆行さん……私は、あなたの傍にいられるだけで幸せです。けれど……今日だけは、わがままを言わせてください」

「わがまま?」

「……世界で一番、愛される花嫁になりたいんです。あなたに」


 その言葉に胸を突かれた。

 彼女はいつも、自分より俺や会社や仲間を優先してきた。

 だからこそ、今日くらいは――。


 俺は歩み寄り、そっと紗彩の手を取った。

「紗彩。約束するよ。今日も明日も、これからも、俺はお前を一番に愛していく。だから、安心して――世界で一番幸せな花嫁になれ」


 紗彩の大きな瞳から、涙が一粒、零れ落ちた。

「……はい……隆行さん……」


 その瞬間、試着室の外から小さな拍手が聞こえた。

「おーおー、すっかりラブラブだな」

フィルリーナがのんびり顔を覗かせ、後ろで玲緒奈がにやにやしている。

「お父さん、泣かせちゃダメだよ? でも……ちょっと羨ましいな」


 紗彩は涙をぬぐいながら笑い、俺の手をぎゅっと握った。

「隆行さん。……私、あなたと結婚できて、本当に幸せです」


 ――この人を、絶対に離さない。

 心に刻んだ決意は、白いドレスに包まれた彼女の笑顔よりも強く、熱く輝いていた。



 ドレス試着が終わったあと、俺たちは控え室で休憩していた。

 紗彩は落ち着いた笑顔で紅茶を口にしている。だが、その隣では――。


「隆行。次はフィルが選ぶ。花嫁ドレス、フィルが着る」

 フィルリーナがすっくと立ち上がり、試着室の方を指差した。


「えっ……ちょ、ちょっと待ってフィルちゃん! 今日はお母さん――じゃなくて紗彩さんのための日だから!」

 玲緒奈が慌てて止めに入る。


「問題ない。結婚式はお祭り。フィルもドレス着る。隆行の隣に立つ」

「だーめっ! そんなのズルい! もしフィルさんが先にお父さんの隣に並んだら……私の立場なくなっちゃう!」


 真剣な表情で叫ぶ玲緒奈に、フィルはのほほんとした笑みを浮かべる。

「なくならない。玲緒奈も隣に立てばいい。両側、バランス良し」

「な、なんで“バランス”とかで語っちゃうの!? こっちは恋人なんだからっ!」


 ふたりのやり取りに、紗彩はくすっと笑いをこらえ、俺は頭を抱えるしかない。

「お前たち……いや、ふたりとも落ち着け。今日は式の準備であって、お前たちの“誰が花嫁ドレスを着るか大会”じゃないんだ」


 俺が諭すように言うと、フィルはこてんと首を傾げてから、にっこり。

「わかった。じゃあ、フィルは“花嫁ドレス姿の練習”。本番じゃない。予行演習」


「だからダメだってばぁぁぁぁ!」

 玲緒奈の悲鳴が響いた。


 しばらくして――。

 結局、試着室からは真っ白なドレスに身を包んだフィルが現れ、堂々とポーズを決める。

「隆行、どう? 似合う?」

「……いや、似合ってるけども」

「でしょ。フィル、花嫁の才能あり」


 その横で、顔を真っ赤にしている玲緒奈がむくれた声を出す。

「お父さん、今度は私にも選ばせて! 私だってドレス着て、隣に立つんだから!」

「おいおい……お前まで張り合わなくても」


 紗彩は頬に手を当てて苦笑し、静かに俺の耳元で囁く。

「ふふ……でも、こうして賑やかに競い合ってくれるのも、幸せの証ですね」


 俺は深く頷いた。

 ――確かに。みんながこうして笑ってくれるなら、どれほど騒がしくても悪くない。

 むしろ、この喧騒が俺にとっての宝物なんだ。




 控室の大きな姿見の前で、俺は白いタキシードの襟を直していた。

胸に飾られた一輪の薔薇がやけに重く感じる。これから歩くのは人生で最も特別な道――。


「まさかアンタがこんなに立派になるとはねぇ……」


 背後から聞こえたのは母の声だった。

豪快に笑いながらも、目尻に滲む涙は隠しきれていない。


「日本経済を背負う社長だなんて! 私の息子ながら鼻が高いわ!」

「……話も聞かずに勘当したくせに、調子の良いこった」


 俺が苦笑気味に返すと、母は手を振ってケラケラ笑う。


「細かいこと気にしなさんな! あんたが幸せならそれで十分だよ」

「……ほんと、俺の母親だな」


 背中をバンと叩かれる。

力強さも、どこか温かいその感触に、俺は自然と笑みを浮かべていた。

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