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42歳バツイチ 神様になってイチャLOVEハーレムを作る!  作者: かくろう


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第83話 湯けむりの夜に

 湯上がりの夜。

 俺は、山奥にひっそりと佇む奉龍院所有の温泉宿の廊下を歩いていた。

 障子越しに灯る橙色の光と、どこか懐かしい畳の匂い。人里離れた秘湯で、政財界の重鎮すらもこっそり訪れる特別な場所――そんな施設を、今回は丸ごと貸し切りだ。桜子が手配したものだが、さすがは奉龍院。スケールが常識外れすぎる。


 浴衣姿でふらりと歩いていると、角を曲がった先で誰かと出くわした。


「隆行さん」


 声の主は紗綾だった。

 頬をほんのり染め、まだ湯気の残る髪をタオルで押さえながらこちらを見つめている。


「紗綾。随分顔が赤いな」

「お湯が少し熱かったせいかもしれません。でも……きっとそれだけじゃなくて」


 紗綾は小さく笑い、視線を落とす。俺は彼女に歩み寄り、タオルを受け取って軽く髪を拭ってやった。

 濡れた髪の水滴が落ちないようにそっと指先で拭き取ると、紗綾は肩をすくめる。


「ん……篠宮さんに髪を拭いてもらえるなんて、なんだか不思議です」

「不思議って?」

「こうしていると、まるで……夫婦みたいです」


 真っ直ぐな言葉に、俺は少し面食らった。

「それは……いい意味で言ってるんだよな?」

「もちろんです」

 紗綾はまっすぐな目で俺を見上げる。

「私はずっと、あなたと並んで歩いていたいんですから」


 その視線に、胸の奥がじんわり熱くなる。温泉の余熱ではなく、彼女の想いが俺を温めているのだと分かっていた。


 やがて二人で囲炉裏端に戻ると、深雪が待っていた。

「おかえりなさい。どうぞ」

 彼女は冷たい焙じ茶を差し出してきた。


「ありがとう、深雪」

 一口含むと、香ばしい香りと優しい甘みが口に広がる。

「やっぱり君は気が利くな」


 深雪は微笑んだが、すぐに視線を伏せる。

「……私は表に立つような存在じゃありません。支えるのが役目で、それで十分なんです」


「そう思うのか?」

「ええ。桜子や紗綾のように華やかな人が前に立つべきです。私は影で構いません」


 俺は湯呑みを置き、真剣に言った。

「でもな、俺からすれば誰が前で誰が後ろとか関係ない。深雪がいてくれるから、俺は安心して前に立てるんだ」


 その言葉に、深雪の瞳が揺れる。

「……ずるいですね。そんな風に言われたら……ますます、離れられなくなります」


 ほんのり紅潮した頬を見て、俺は微笑むしかなかった。


 廊下から賑やかな声が響く。

「たかゆきサーン! ミルフィ、もっかい一緒に温泉入りたいデース!」


 駆け込んできたのは、金髪ロングをタオルでまとめた褐色美女――ミルフィミー・アーガス。

 すでに頬は真っ赤で、手には徳利が握られている。


「おい、飲みすぎだぞ」

「ノープロブレム! むしろ酔って甘えたいデース!」

 彼女は俺に抱きつき、そのままハグをせがんでくる。

「たかゆきサーン! ミルフィを褒める! ハグする! チューチューする!」

「おいおい……」

 周囲の皆が呆れる中、俺は仕方なく彼女の頭を軽く撫でた。

「はいはい。よく頑張ったな、ミルフィ」

「イエースッ! ミルフィ幸せデース!」


「問題無い。フィルはもう寝る」

 今度はフィルが無言でやってきて、当然のように俺の膝に頭を乗せてきた。

「……膝、貸す」

「おい、勝手に枕にするな」

「のんびりするのがフィルの仕事」

 相変わらずのマイペースだ。けれど、その安らかな寝顔を見ていると、俺もつい笑ってしまう。


「おじ様、おじ様っ!」

 桜子が駆け寄ってきて、両手を広げた。

「明日の朝湯も一緒に入りましょう! 奉龍院特製の牛乳もご用意いたしましたわ!」

「桜子ちゃん、もう少し落ち着こうか」

「だって、これはおじ様のための旅行なんですもの! 奉龍院総出でおもてなししておりますのよ!」

 声を弾ませる姿に、俺は思わず笑ってしまう。


 そこへ、七菜香がタオルを頭にかぶったまま顔を出す。

「……おじさん、今日、すっごく楽しかったんだぞ!」

「そうか。それは良かった」

「七菜香、もっともっと一緒にいたいんだぞ!」

「そうだな。これからも、ずっと一緒に過ごそうな」


 屈託のない笑顔に、俺の心も和んでいく。


 夜が更けていく。

 縁側に腰を下ろすと、次々と恋人たちが並んで座ってきた。


 紗綾は俺の肩に頭を預け、深雪は控えめに隣で正座。

 桜子は堂々と膝に寄り掛かり、フィルは膝枕を確保。

 ミルフィは背後から羽交い締めのように抱きつき、双子は「わたしたちもー!」と両袖にぶら下がる。

 七菜香は小さく「おじさんの隣は七菜香なんだぞ」と言って、頬を膨らませながら隙間に入り込んできた。


 まるで、誰も俺を独り占めしたがっているみたいに。


 月明かりが差し込む縁側で、俺は胸の奥から実感する。

 ――ああ、本当に俺は幸せ者だ。


 その夜、温泉宿は笑い声と湯けむりに包まれていた。

 そして俺の心は、これ以上なく満たされていたのだった。


◇◇◇


 夜更け。

 温泉宿の奥、誰も使っていない露天風呂に足を運んだ。

 湯けむりが月明かりに照らされ、幻想的に揺らめいている。岩肌を伝う湯音だけが響き、静寂に包まれた空間はまるで別世界のようだった。


「……やっぱり来ていたんですね」


 背後から、控えめな声が届いた。振り向けば、浴衣を脱ぎかけの紗綾が、タオルで体を覆いながらこちらに歩み寄ってくる。


「紗綾……」

「少しだけ、お邪魔してもいいですか?」

「もちろん」


 そう言うと彼女は照れくさそうに微笑み、湯船へと足を踏み入れる。お湯が静かに揺れ、二人の間に柔らかな距離が生まれた。


「ふぅ……あたたかいですね」

 紗綾は肩まで浸かり、ほっと息を吐いた。頬はほんのり桜色に染まり、濡れた髪がうなじに張り付いている。


「最近は忙しかったからな。紗綾も疲れてただろう」

「ええ……でも、隆行さんが隣にいてくれるだけで、私は頑張れるんです」


 視線を合わせると、彼女はふっと笑みを浮かべ、寄り添うように少しだけ体を傾けてきた。肩と肩が触れ合い、温泉の熱よりもずっと熱い鼓動を感じる。


「……ねえ、覚えていますか? 最初に秘書としてあなたを支えると決めた日のこと」

「もちろんだ。あの時の真剣な眼差し、今でも忘れてないよ」

「私、あの日から決めていたんです。たとえどんな未来になっても、絶対にあなたの隣にいるって」


 彼女の言葉は真摯で、胸に響いた。

 気がつけば俺は、自然と紗綾の手を取っていた。湯の中で指先が触れ合い、絡み合う。


「隆行さん」

 名前を呼ばれる声が、夜気に溶ける。

「私にとって……あなたは、ただの恋人やパートナーじゃありません。生涯をかけて、支えたい人です」


 その強い眼差しに、俺は心から答えを返す。

「……ありがとう、紗綾。お前がいてくれるから、俺は前に進めるんだ」


 肩を抱き寄せると、彼女は小さく身を震わせ、でも拒むことなく俺に体を預けてきた。湯気の中で、互いの温もりだけが確かな現実として存在している。


 月明かりが白く照らす湯面。

 その下で、俺達は静かに寄り添い、未来を誓うようにしばらく言葉を交わした。


「……隆行さん、こうして二人きりで温泉に入るなんて、夢みたいです」

「夢じゃないさ。これからだって、何度でも一緒に来よう」

「はい……約束です」


 彼女の笑顔を見て、俺も自然と笑みがこぼれる。

 その夜の混浴は、誰にも邪魔されない、俺と紗綾だけの大切な時間となった。

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