第78話 豪邸落成式
ついに――。
桜子が密かに動かしていた「おじ様の王国」計画、その象徴たる大豪邸が完成間近となった。
完成式典を控えた日、俺は桜子に連れられて、屋敷の正門前に立っていた。そこには既に白いテントがいくつも張られ、式典の準備が急ピッチで進められている。
「ふふっ、いよいよですわね、おじ様」
「いよいよって……本当に、すごい規模だな。まるで城みたいだ」
俺の目に映ったのは、圧巻の光景だった。
邸宅は純和風の様式で建てられている。漆黒の瓦屋根が幾重にも連なり、漆喰の白壁とのコントラストがまるで古都の寺社を思わせる。木材は檜と欅をふんだんに使用し、香り高い風合いが外からでも漂ってくる。
広大な敷地は庭園として整備され、真砂土の小径が中庭へと続き、左右には手入れの行き届いた苔庭が広がっていた。池には錦鯉が泳ぎ、朱塗りの太鼓橋が水面を横切る。その奥には、季節を映すように植えられた桜並木が続き、春になれば花のトンネルとなるだろう。
門を入ってすぐの正面玄関は、どっしりとした檜の格子戸。重厚でありながら洗練されており、訪れる者に格式を示す。軒先には風鈴が下げられ、風が吹くたびに澄んだ音色が響いた。
「……これはもう、屋敷というより庭園付きの城だな」
「当然ですわ。おじ様の王国に相応しい、格式と美しさを備えておりますの」
桜子は得意げに顎を上げる。
その顔は、まるで姫が自分の城を臣下に見せるかのように誇らしげだった。
もっとも、マスコミ各社の取材依頼も殺到しており、当日はテレビ中継まで入る予定だ。奉龍院と水無月コーポレーションの合併効果、そして俺たちが新たに築く共同生活への注目度は凄まじい。
一方、ご近所対応も大変だ。
工事の騒音や車両の出入りに迷惑をかけてしまった地域住民に、桜子は何度も頭を下げていた。最終的には「立派な日本庭園になるなら楽しみ」「観光名所になるかもしれない」と好意的な声が増えてきたらしい。
「本当に……お前、抜け目ないな」
「当然ですわ。おじ様の王国にケチがつくなんて、許されませんもの」
俺は苦笑しつつ、再び視線を奥へ向ける。
まるで時代劇の世界から切り取ったような、和の威厳と静謐を兼ね備えた邸宅。
この巨大な舞台で、俺たちの新しい生活が始まる――そう思うと、胸が自然と高鳴った。
◇◇◇
落成式の日。
朝から雲ひとつない青空が広がっていた。まるで、この日のために天が用意した祝福の舞台のようだった。
式典会場は邸宅の正面庭園に設えられている。
巨大な門をくぐると、砂利道の両脇に紅白の幕が張られ、季節の花をあしらった生け花が点在していた。桜を模した枝が柔らかく風に揺れ、庭の苔と池の水面がその姿を映し出す。
正面の広場には舞台が組まれ、檜材の香りが漂う神殿風の設え。舞台の上には「水無月・奉龍院 合同落成式」と書かれた金文字の看板が掲げられている。横には琴と和太鼓の演奏隊が控え、式典の開始を今か今かと待っていた。
すでに会場には多くの人々が集まっていた。
スーツに身を包んだ経済界の重鎮たち、近隣住民、そして招待を受けたマスコミ各社。テレビカメラのレンズが一斉にこちらへと向けられ、スポットライトのように視線が集まる。
「すごい注目度だな……」
「当然ですわ。ここから未来の歴史が始まるのですもの」
桜子は白地に金糸を織り込んだ振袖を纏っていた。
裾を翻し、髪には桜の簪。まるで平安の姫君が時代を超えて現れたかのように艶やかだ。その姿にシャッター音が鳴り止まない。
招待客のざわめきも次第に大きくなっていく。
「なんという格式高い和邸宅だ……」
「この庭園、京都の名園に勝るとも劣らぬな」
「経済界と伝統文化が、まさかこういう形で融合するとは……」
驚嘆と賞賛が渦を巻く。
ご近所の年配女性は「まあまあ、まるで観光名所ねえ」と笑顔で手を合わせ、子供たちは錦鯉の泳ぐ池にはしゃぎ声を上げていた。
やがて、司会者の声が響く。
「それでは、水無月・奉龍院 合同落成式を開始いたします!」
和太鼓の音が空に鳴り響き、会場の空気が一変した。
俺と桜子、そして紗綾や深雪、他の恋人たちが壇上に並ぶ。
拍手が湧き起こり、テレビカメラの赤いランプが一斉に点灯した。
桜子が一歩前に出る。
その小さな体に似合わぬ堂々たる姿勢で、全員を見渡した。
「本日をもって――この大邸宅は、正式に完成いたしました!」
透き通る声が広がり、庭園の空気を震わせる。
「ここは、我が愛するおじ様と、そして家族たちのための場所! 奉龍院の過去を断ち切り、新たな未来を築く拠点です!」
振袖の袖を大きく広げ、満面の笑みで宣言する。
「――おじ様の王国、完成ですわ!」
その瞬間、背後で花火が打ち上がった。
昼空に広がる桜色の花火。舞い落ちる花吹雪の演出に、会場中がどよめきと歓声に包まれる。
「すごい! 本当に桜が咲いたみたいだ!」
「まるで時代劇の一幕のようだ……!」
拍手喝采の渦の中、桜子はくるりと俺を振り返る。
「おじ様。さあ、王国の主として、一言どうぞ」
差し出されたマイク。
俺は深く息を吸い込み、目の前にいる大勢の人々と、隣に立つ彼女たちを見つめた。
「――皆さん。今日からここは、俺たち全員の家です。血の繋がりも立場も関係なく、共に支え合い、笑い合える場所。これが、俺たちの王国です」
会場が再び拍手に包まれる。
俺は胸の奥で、確かに感じていた。
ここから本当に、新しい日常が始まるのだ――。
◇◇◇
翌朝。
落成式の熱気がまだ残る大邸宅で、俺は縁側に腰掛け、庭を見下ろしていた。
広大な日本庭園は、朝靄に包まれて幻想的な雰囲気を放っている。水面に映る紅葉の葉がゆらゆらと揺れ、松の枝には小鳥がさえずっていた。
「おじ様、おはようございますわ!」
桜子が白い着物姿で駆け寄ってきた。
「今日からが本当の始まりですわよ! おじ様の王国に、わたくし達みんなで暮らすのですから!」
続いて、ドタドタと廊下を駆ける足音。
「たかゆきサン! おはよーデース!」
金髪を揺らしながら、ミルフィが笑顔で飛び込んでくる。
俺の肩に無遠慮に抱きついてきて、ぎゅうっとハグ。
「HEY! 今日から毎日いっしょデース! ミルフィ、夢みたいデース!」
「ちょっとミルフィ! 朝からベタベタしすぎです!」
紗綾が慌てて制止に入るが、彼女の顔もやっぱり幸せそうだ。
深雪は涼しげな笑みを浮かべながら、お盆に湯飲みを乗せて現れた。
「隆行さん。まずはお茶でもどうぞ。新しい生活の最初の朝にふさわしい、一番いい茶葉を淹れてきました」
そんな彼女の落ち着いた仕草に、自然と心が和らいでいく。
縁側の反対側からは、双子のサリーシャとマリーシャが顔を覗かせる。
「おじさま! 朝ゴハンはドコですか?」
「ニホンの朝食、シンプルでヘルシーと聞きました!」
それを見て七菜香が勢いよく飛び出してきた。
「おじさんっ! すっごいんだぞ! この家、めちゃくちゃ広いんだぞ! 迷子になるんだぞ!」
「まったく……落ち着きなさい」
真理恵が娘をなだめながら、苦笑しつつ俺に視線を送ってくる。
「でも……本当に大きなお家ですね。これからみんなで住むなんて、夢みたいです」
縁側は一気に賑やかになった。
次々と集まってくる恋人たちの声、笑い、仕草――どれもが俺の胸を満たしていく。
桜子が立ち上がり、皆を見回して宣言した。
「さあ、これからが本当のスタートですわ! おじ様の王国、みんなで幸せを築いてまいりましょう!」
その言葉に、みんなが一斉に頷いた。
――俺は改めて思う。
これが俺の新しい日常なんだ。
愛する人たちと共に暮らし、支え合い、笑い合う。
どんな困難が訪れようと、この温もりがあれば乗り越えられる。
「よし、今日から始めよう。俺たちの新しい物語を」
秋風がそっと吹き抜け、庭の木々を揺らす。
その音は、まるで未来の祝福の鐘のように響いていた。
~第6章 完~
――――――――――――――――――
※後書き※
次回から駆け足気味だった展開の詳細版をお届けするために一旦時系列が戻ります。
ハーレム入りしたヒロイン達のエピソード、豪邸建設の詳細な経緯、CEO就任の詳細など。
是非お楽しみください。
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