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42歳バツイチ 神様になってイチャLOVEハーレムを作る!  作者: かくろう


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第76話 ミルフィ、海外事業部長に

 ――その日、海外事業部の会議室には異様な熱気が漂っていた。

 新しい部長の就任を告げる貼り紙が張られ、若手社員からベテラン社員まで皆がそわそわしている。


「本日より海外事業部長を拝命しました、ミルフィミー・アーガスと申します。どうぞよろしくお願いいたしますわ」


 長い金髪を後ろで一つに結び、すらりと伸びた褐色の肢体をスーツに包んだ女性が静かに一礼する。

 堂々たる姿は女幹部そのもの。だが、その瞳の奥に秘められた情熱は、並の人間には決して真似できないものだった。


 ――元スパイとして培った観察力。

 人を疑い、見抜き、必要とあらば欺き、そして掴み取る。

 その技術を「正しい方向」に振り切った今のミルフィは、恐ろしくも頼もしい。


◇◇◇


 就任早々、大手フランス企業とのオンライン交渉に臨むこととなった。

 相手はしたたかなビジネスマンで知られる人物。だが、ミルフィは涼しい顔のまま画面越しに相手を見据える。


「――利益率、少し水増しされておりますね」


 低い声で告げた瞬間、相手の顔がひきつる。

 ミルフィの青い瞳は、わずかな瞬きや声の揺れ、指先の動きをすべて観察し、相手の嘘を暴いていた。


「え、ええと……それは……」

「商談の場で虚偽はご法度ですわ。訂正なさいますか? それとも、こちらは契約そのものを白紙にいたしましょうか?」


 突き刺すような微笑み。

 観察眼はすでに“尋問”の域に達していた。

 結局、相手は全面的に譲歩。交渉は水無月にとって有利な条件で決着する。


「さすが部長……!」

「相手を丸裸にした……!」


 若手社員たちが感嘆の声を漏らす。

 その場での彼女は、まさに理想の上司。冷静沈着、才気煥発。


◇◇◇


 ……だが。


 会議が終わった直後、俺が社長室に戻ると、ドアの影からぴょんっと飛び出してくる影があった。


「HEY! たっかゆきサーン!」


 さっきまでの冷たい美貌はどこへやら。

 満面の笑顔で飛び込んできたのは、さっきまで会議室で部長オーラを放っていたミルフィミー・アーガスだった。


「ミルフィ、今日もスパイ力で大活躍デース! ほめてほめて! ほめてチョンマゲッ! それからギューっと抱きしめてチューチューして欲しいデース!」

「……おい、社長室でそのテンションはやめろ。外での評価まで台無しだぞ」

「問題ナッシング! 部下には『部長はクール』で通してるデース。ここはラブリーなミルフィタイムだからオッケーオッケー♪」


 俺の膝に強引に座り込み、褐色の頬をすり寄せて甘えてくる。

 さっきまで契約相手を震え上がらせていた人物と同じだとは、とても思えない。


「リュウコーサン、今日のご褒美はハグ三回とチュッチュ五回で手を打つデース!」

「誰がそんな条件出したんだよ……」

「ミルフィミー・アーガス、契約のプロ! ご褒美契約もきっちり守ってもらうデース!」


 呆れながらも、結局は頭を撫でてやる俺。

 すると彼女は「にへへ……」と幸せそうに目を細めた。


◇◇◇


 翌日、社員食堂。

 昼休みにふらっと姿を見せたミルフィは、同じ部署の若手社員から自然に囲まれていた。


「部長、昨日の交渉すごかったです!」

「どうやって嘘を見抜いたんですか!?」

「声のトーン、瞬きの回数、視線の泳ぎ方……全部ですわ」

「ひぇえ……!」


 きらきらと尊敬の眼差しを向けられるミルフィ。

 褐色の肌にスーツ姿が映え、笑えば太陽みたいに場を明るくする。


「部長の下なら、どんな仕事も頑張れそうです!」

「ふふっ、ありがとうございます。ですが無理は禁物ですわ。皆さんが心身ともに健康でいてくださること、それが私にとって一番大切なのです」


 その笑顔に、社員たちの心はすっかり掴まれてしまったようだった。


◇◇◇


 こうして――。

 海外事業部は、フィルからバトンを受け取ったミルフィミー・アーガスの手腕によって新たな黄金期を迎えることとなる。


 凛とした女幹部の顔と、俺にだけ見せる甘えん坊な恋人の顔。

 そのギャップこそ、彼女の最大の魅力なのかもしれない。





 夜。

 仕事を終えた俺は、大邸宅の一角――広いリビングで休んでいた。

 ソファに腰を沈め、紅茶を一口。ふと窓の外を見ると、月明かりが庭の噴水を照らして幻想的な光景を作っていた。


「たかゆきーサーン! 発見デース!」


 元気いっぱいの声とともに、後ろから抱きつかれる。

 金髪ロングがふわっと肩にかかり、褐色の腕が俺の胸に回される。


「……ミルフィか」

「その通りッ! 今日も一日お仕事頑張ったたかゆきサンに、ミルフィからご褒美タイムをプレゼントするデース!」


 そう言って、彼女は俺の膝の上に当然のように座り込み、頬をすり寄せてきた。


「ほらほら、ナデナデして欲しいデース! あと、背中トントンも! 恋人タイムはお互いを癒す大切な儀式デスヨ!」

「……お前な、部下からは“冷徹な観察眼の部長”って呼ばれてるのに、その姿を見せたら威厳が全部吹き飛ぶだろ」

「問題ナッシング! だってここはミルフィとたかゆきサンだけの時間デース。恋人は外と内でギャップがある方が、燃えるってヤツなんデショ?」


 どや顔で胸を張るミルフィ。

 その顔があまりに得意げで、つい笑ってしまう。


「……はいはい。よしよし」

「んふふ……♡ やっぱりたかゆきサンの手は落ち着くデース。ミルフィ、幸せメーターがぐんぐん上昇中……!」


 頭を撫でてやると、彼女は目を細めて猫のように喉を鳴らす。

 昼間は海外相手に冷徹な取引をまとめる彼女が、今はただ甘えん坊な恋人。

 そのギャップに、俺の心も不思議とほぐれていく。


「……そうだ、たかゆきサン。ミルフィ、こないだ考えたんデス」

「ん?」

「スパイ時代はずっと“誰も信用しちゃダメ”って教わったデース。でも、今は違う。今は“たかゆきサンを信じれば大丈夫”って思えるんデス」


 彼女が小さな声でそう呟く。

 その顔は、いつもの陽気な笑みじゃなくて、ちょっとだけ寂しげで、でも温かい笑顔だった。


「……ありがとな。俺も、お前のそういうところを守りたいと思ってる」

「HEY! たかゆきサン、今のカッコイイ! 惚れ直したデース!」


 次の瞬間、彼女は勢いよく俺に抱きつき、頬にキスを落としてきた。

 褐色の頬が月明かりに照らされ、金髪がきらきらと舞う。


「たかゆきサン大好きデース! だからもっと甘やかして欲しいデース!」

「はいはい……今日は特別に、もうちょっとな」


 こうして、海外事業部長として辣腕を振るうミルフィミー・アーガスとの、静かで穏やかな恋人時間が流れていった。

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