第75話 双子の帰化
――フィルの就任騒動が世界を騒がせた直後、俺たちはさらにインパクトのある出来事を迎えることになった。
それは、フィルの双子の妹――サリーシャとマリーシャが、日本にやって来たことだ。
「おじ様~! ついにサリーシャ、日本に来ました!」
「マリーシャも来た! 勉強する! でも遊ぶ!」
空港のゲートを抜けてきた二人は、フィルにそっくりの金髪碧眼の美少女。
そのうえ二人同時に抱きついてきたもんだから、俺は人目もはばからず押し倒されそうになった。
「うわっ!? お、おいおい……ここ空港だぞっ!」
「問題ない! 再会のハグ!」
「ニュースになる! でも気にしない!」
周囲からカメラのフラッシュ。
……はい、案の定次の日にはニュースサイトのトップ記事に載ってました。
◇◇◇
家に連れ帰ってからも、双子のドタバタは続いた。
「おじ様、これなんですか?」
サリーシャが指差したのは、こたつ。
「日本の魔法道具? 入ったら出られない……危険!」
「違う違う。ただの暖房器具だ」
「でも危険! マリーシャ、もう抜けられない!」
……すでに潜り込んだマリーシャがぬくぬくと眠りかけていた。
「こら、出ろ! 晩ご飯だぞ!」
「うぅ……ご飯よりぬくぬく……」
文化の違いってすごいな、と心底思った瞬間だった。
◇◇◇
さらに言語の壁もあった。
「おじ様、ニホンゴむずかしい。『おじ様』で合ってます?」
「合ってるけど……語尾がおかしいな」
「おじ様、すきすきラブラブ、で合ってる?」
「ちょ、ちょっと待て! 誰に習ったんだそれ!」
――後日調べたら、どうやらフィルが教え込んだらしい。
「フィル式日本語。問題ない」
「問題しかないんだよ……!」
◇◇◇
そんなこんなで、サリーシャとマリーシャの日本生活はドタバタ全開で始まった。
だけど、不思議なことに……その無邪気さと一生懸命さは、すぐに周りを笑顔にした。
「おじ様~、これからいっぱい日本を覚えます! だから一緒に勉強してください!」
「遊びもする! 文化体験! おじ様と全部する!」
「はぁ……仕方ないな。よし、一緒にやろう」
二人の輝くような笑顔に、俺は自然と笑みを返していた。
こうして双子の新しい日常が、日本で幕を開けたのだった。
◇◇◇
――サリーシャとマリーシャが日本に来てから数週間。
俺たちの生活は、まるで毎日が文化祭みたいなドタバタの連続だった。
そして、いよいよ二人は学園生活をスタートさせることになった。
◇◇◇
「おじ様~、見てください! これが日本のセーラー服ですかっ!」
「すっごいです! 可愛いです! おじ様もそう思うでしょう?」
鏡の前でくるくる回るサリーシャとマリーシャ。
金髪碧眼に真新しい制服。そりゃ絵になるどころじゃない。
あまりに似合ってるもんだから、正直、俺は言葉を失ってしまった。
「う、うん……似合ってる。似合いすぎてて怖いくらいだ」
「やったー! おじ様に褒められた!」
「マリーシャ、もっと回る! 見て! ひらひら!」
スカートをふわっと広げてポーズを決める双子。
……はい、俺、もう完全に保護者目線じゃなくなりそうでした。
◇◇◇
そして、学園初日。
「おはようございまーす!」
「はろー! グッモーニン! おじ様からの送り届け!」
大声で教室に入っていった二人に、クラス中がざわついた。
「え、だれ? モデル? アイドル?」
「すごっ……外国人? 金髪ツインテとショート?」
「っていうかテンション高っ!」
双子は言語の壁を物ともせず、持ち前の明るさでクラスメイトに突撃。
最初こそ驚いていた生徒たちも、あっという間に笑顔に変わっていった。
「おじ様の話したい! でも日本語、ちょっと変!」
「英語もできる! でもカタコト! 助けて!」
「えっと……ゆっくり話せば大丈夫だよ」
クラスの女子が親切にノートを貸してくれると、二人は目を輝かせた。
「ありがとう! お友達!」
「大好き!」
勢い余ってハグ。……はい、その日の昼には学園中に噂が広まっていた。
◇◇◇
放課後、俺は迎えに行った。
「おじ様! 楽しかったです!」
「日本の学校、最高! でも給食少ない! 足りない!」
どっと笑う生徒たちの輪の中で、双子はまるでアイドルのように囲まれていた。
その笑顔はまぶしく、俺も胸の奥が温かくなる。
「……やっぱり、来て良かったな」
そう呟くと、サリーシャがぱっとこちらを向いた。
「おじ様! サリーシャ、明日も頑張ります!」
「マリーシャも! 日本語もっと覚える! だからおじ様、宿題手伝って!」
「……はいはい。帰ったらな」
俺は笑って二人の頭を撫でた。
こうして、サリーシャとマリーシャの学園生活は、にぎやかに始まったのだった。
◇◇◇
その日の昼休み。
学食に向かった双子は、当然のように周囲をざわつかせた。
「これが……日本のカレーライス!」
「ごはんの上にルー! すごい! すごいです!」
目を輝かせてスプーンを突っ込むサリーシャ。
隣のマリーシャはサラダを指差し、真剣に眉をひそめていた。
「おじ様、これは……生の草? ヤギのごはん?」
「サラダだよ。野菜。体にいいんだ」
「に、苦い! でも食べる! 健康!」
涙目になりながらレタスをもぐもぐ食べる様子に、周囲の生徒たちがどっと笑った。
「ねぇ、サリーシャちゃん! マリーシャちゃん! 一緒に食べようよ!」
「うんうん! 席あいてる!」
すぐに友達ができるのは、この双子の才能だろう。
俺が心配するまでもなく、彼女たちは自然と輪の中心にいた。
◇◇◇
午後の授業――体育。
体操服に着替えた双子がグラウンドに立つと、男子の視線が一斉に釘付けになった。
「わぁぁ……運動場ひろい!」
「ジャージ、すごい動きやすいです!」
走り出した瞬間、二人は風のようにグラウンドを駆け抜ける。
運動神経は抜群。バレーもサッカーもテニスも、初挑戦でクラスメイトを圧倒してしまった。
「すごっ……あの二人、反則だろ」
「モデルでスポーツ万能って……チートキャラかよ」
男子生徒たちの嘆きが聞こえてくる。
でも本人たちは無邪気に笑っていた。
「おじ様~! 見ましたか!? サリーシャ、点取りました!」
「マリーシャも! 日本一のスポーツ女子になります!」
いや、もう十分目立ってるから……。
◇◇◇
下校時。
昇降口で靴を履き替えていると、双子はクラスの女子たちに呼び止められていた。
「ねえねえ、MINEやってる?」
「インストは? アカウント教えて!」
「えっと…… インスト?」
「写真? いっぱい撮る?」
慌てる二人に、俺は仕方なく助け舟を出した。
「SNSはまだ不慣れだから、少しずつ教えてやってくれ」
「えー! じゃあ私たちが先生になる!」
「明日から部活見に来てね! 一緒にやろ!」
気づけば、双子はすっかり人気者だ。
俺が迎えに来ると、またもや女子たちの輪の中で手を振っていた。
「おじ様っ! 楽しい! サリーシャ、日本の友達できました!」
「マリーシャも! 明日もいっぱい遊ぶ! 勉強も頑張る!」
その無邪気な笑顔に、俺も自然と口元が緩んでしまう。
「……やっぱり、あいつらは天性の太陽だな」
こうして双子の学園生活は、波乱と笑顔に包まれて本格的に幕を開けたのだった。




