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42歳バツイチ 神様になってイチャLOVEハーレムを作る!  作者: かくろう


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第71話 合併準備室、始動

 桜子との握手から三日後。


 水無月本社の大会議室は、まだ段ボールと書類の山が積み上がる“臨時合併準備室”と化していた。


 深雪がホワイトボードに大きく筆を走らせる。


「ここからが本番ね」


「水無月×奉龍院 合併準備室」


 横で紗綾が資料を配り、参加者たちの視線を一気に集めた。


 桜子が静かに口を開く。


「まずはキーパーソンの洗い出しから始めましょう。奉龍院側の幹部候補を」


 彼女は名簿を指で軽く叩きながら続ける。


「蓮井を筆頭に、財務を任せられる人材を数名。……ただし古参の中には“龍神派”だった者もおります。全ては洗い出す必要がございますわ」


 声にはまだ少女の柔らかさが残るが、言葉は当主そのものだ。


 俺は配られた名簿に目を落とす。数十名の名前の横に赤いチェックと青い丸。赤は抵抗勢力、青は信頼厚い――だが、その線引きすら不完全だ。


「私が直接、面談します」


 宣言すると、桜子の肩からわずかに力が抜けた。


「おじ様の眼にかければ、虚偽はすぐ暴かれるはず。……どうかお願いします」


「任せとけ」


 ◇◇◇


 その日の午後。


 準備室に現れたのは、奉龍院古参の会計責任者・江崎。白髪交じりの壮年が、細い目を細めて俺たちを値踏みしている。


「水無月の人間に、我らの帳簿を明け渡せというのか」


 低い声に挑発が混じる。


 だが俺の神力は、彼の胸奥に揺らぐ光を捉えていた。恐れと迷い。悪意ではない。


「あなたは龍神の呪縛を受けかけた。だが完全には堕ちていなかった」


 江崎の目が見開かれる。


「……なぜ、それを」


「俺には分かる。桜子のために働きたいんだろう? だが恐れている。奉龍院が外に飲まれることを」


 肩が震え、深雪が静かに言葉を継いだ。


「だからこそ“合併”なのです。奉龍院の誇りを守りながら、新しい経済を動かす。あなたの経験が不可欠です」


「……私が、まだ役に立つのか」


 小さな呟きに、桜子がゆっくり歩み寄る。


「ええ。江崎さん。わたくしは、あなたに残ってほしい」


 老幹部は沈黙し、やがて深く頭を垂れた。


 第一の抵抗は、溶けた。


 ◇◇◇


 準備室が静まり返った後、紗綾が俺の腕を軽く小突く。


「上出来ですよ隆行さん。……でも、これからが大変です」


「だろうな。信じられないくらいの量の仕事が待ってる」


 窓の外では、都心のビル群に夕日が沈みかけていた。


 なのに、心は不思議と軽い。


「桜子、深雪、紗綾……みんなでやれば、できる」


 三人はそれぞれ違う笑みを浮かべた。


 準備室の空気は、確かに熱を帯び始めていた。


 ◇◇◇


 熱気が上がってきたのも束の間、最大の関門が立ちはだかる。


 ――株主総会。


 水無月と奉龍院、両家の株主を一堂に集め、正式に合併を承認させる。


 これを突破しなければ、手を繋いだ意味すら消える。


 深雪が冷徹な声で告げた。


「問題は強硬な反対派株主です」


 ホワイトボードに大株主の名が並び、赤いマーカーで幾つかが強調されている。


「古参の財閥系、それから奉龍院の旧家系。龍神の呪縛が抜けても、“外様に権力を渡したくない”と考えている連中が多数います」


「要は、俺が信用ならんってことか」


「そういうことです」


 紗綾が困ったように眉を下げた。


「ただ、完全に敵対しているわけじゃありません。数字と実績で納得させられれば……」


 深雪が資料を掲げる。


「そこは任せて。経済計画を練るのは私の得意分野ですから」


 資産統合シミュレーションがびっしり書き込まれている。


「五年後の利益予測。両者の資産を一本化すれば、現状の倍以上に成長する見込みがあります」


「……これだけの数字を叩きつければ、無視はできまいな」


 俺は唸りながらページをめくった。


 だが、心の奥底に嫌な気配がわずかに漂う。神力の直感だ。


 ◇◇◇


 数日後。


 株主総会の前哨戦、非公式懇談会。高級ホテルの一室に、丸テーブルを囲む。


 俺と桜子、深雪、紗綾が並び、株主たちと向き合う。


 口火を切ったのは白髪交じりの男――旧財閥の御曹司、芦原。


 背筋を反らし、冷笑を浮かべて。


「水無月と奉龍院が合併? 笑わせる」


「血も歴史も違うものを無理に混ぜれば、必ず腐敗する。貴様らのような成り上がりに、奉龍院を任せられるものか」


 空気が凍りつく。


 桜子の眉がピクリと動いたが、彼女は沈黙を選んだ。


 代わりに深雪が静かに立ち上がる。


「芦原様。腐敗の危険を説くのは結構です。しかし、数字をご覧になってからでも遅くはないのでは?」


 資料を示し、一つひとつ冷静に説明していく。


 成長予測、国際競争力、株主配当の増加――


 他の株主たちが徐々にざわめき始めた。


「確かに……数字上は利益が倍増する……」


「株価も安定するな……」


 だが芦原は鼻で笑う。


「所詮は机上の空論だ。貴様らが龍神の呪縛を完全に払った保証など、どこにある?」


 その瞬間、俺は感じた。


 芦原の胸に残る、濁った影。龍神の残滓が、まだ燻っている。


「……保証なら、俺がする」


 立ち上がると、視線が一斉に集まる。


「龍神の残滓を感じる。芦原、お前の胸にいまだ潜んでいるだろう」


「な、何を……!」


 右手を掲げ、神力を解き放つ。


 青白い光が会場を包み、芦原の胸から黒い靄が立ち上った。


 目の前で、男の身体を蝕んでいた邪気が掻き消えていく。


「――これが証明だ。俺は龍神に抗い、退けることができる。奉龍院を守れるのは、俺と仲間たちだけだ」


 沈黙。


 次の瞬間、拍手が沸き起こった。


「す、すごい……」


「これほどの力を持つなら……」


「本当に新しい守護神になれるのでは……」


 空気が一変する。


 芦原は青ざめて椅子に崩れ落ちた。


 ◇◇◇


 懇談会を終えた帰り道。


 桜子が俺の袖をそっと掴む。


「おじ様……ありがとうございます。これで、きっと株主総会も」


「ああ。だが気を抜くな。まだ他にも“影”は潜んでいる」


 深雪と紗綾も静かに頷いた。


 戦いは始まったばかり。


 本当の勝負は、数週間後の株主総会当日――。

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