第63話 危ない危ない
「あ、ホンブチョー!今日もお元気ですかぁ☆」
今日も今日とて仕事にいそしむ。昼休憩の一服で自販機の紅茶を楽しんでいると、廊下の休憩用に設置されたソファに腰かけている俺に明るい声で話しかけてくる人物がいた。
「ああ、君はアーガス君だったね」
「イエース!ミルフィミー=アーガスでぇす。そんなお堅い言い方じゃなくて、どうぞミルフィと呼んでクダサーイ☆」
「そうか。それじゃあミルフィ。良かったらコーヒーでもどうだい」
俺は小銭を差し出して自販機で好きな飲み物を買うように促す。
屈託ない笑顔でそれを受け取った彼女は嬉しそうにコーヒーのボタンを押した。
「ホンブチョーさんとっても優しいデス。ワタシとっても嬉しいよー」
「コーヒー一杯でそんなに喜んでもらえるならお安い御用だよ」
話してみると彼女は天然系かと思いきや、かなり知識と知能に優れており、15分という短い時間にも関わらず非常に有意義な仕事の話をすることが出来た。
「ミルフィ君は仕事に対する姿勢がしっかりしているんだね。正直意外だったよ」
「気にしないヨー!ワタシこんな性格だから軽いオンナに見られがちネ。だからお仕事きっちりしてるヨ。フィルリーナ先輩もそこんとこ褒めてもらえるよ」
「ああ、そういえばエレノフスク専務の部下なんだよね」
「イエース。とっても厳しいけど優しい先輩ネ。ところでホンブチョー、今夜のパーティーは参加しますか?」
「パーティー?」
「飲み会ネ」
「ああ、各部署合同の奴ね。勿論参加するよ」
「OH嬉しいネ。ホンブチョーさんとじっくりお話してみたかったヨ」
そのあと、とりとめのない会話をした後、俺達は別れた。
さて、彼女とは奇妙な縁を感じるな。二日連続で会うことになったのだから。
◇◇◇◇◇◇◇◇
その夜。
俺たちは複数部署合同の飲み会のためオフィス街にある居酒屋を訪れていた。
「「「かんぱーい!」」」
俺は恋人たちとは離れた場所で元の部署の同僚たちと酒を酌み交わしていた。
フィルや紗彩はそれぞれ女友達たちとおしゃべりに興じており、俺は久しぶりに男同士の酒の席を楽しんでいる。
「ホンブチョー、飲んでますカァ?ワタシ、お酌させてクダサーイ」
「ああ、ありがとうアーガス君」
「ノンノン!気軽にミルフィと呼んでクダサーイ」
と、そこへミルフィミーが隣にいる元同僚の間に割って入ってきた。
「ああ!ズルいっすよ本部長!俺らのアイドルミルフィちゃんまで手籠めにしないでください」
「酷い言われようだな」
俺の評価は会社内でどうなってるのだろうか。
営業部時代の同僚からバッシングを浴びつつミルフィを見やる。
既にかなりお酒が入っているようで、胸元がはだけて無防備な爆裂ボディが露になっているではないか。
俺が童貞だったら一発でアウトな案件だ。女に耐性がついててよかった。
「おいおいミルフィ君、胸元がはだけてるゾ」
「オーNO!ホンブチョーさん、ミルフィの事エッチな目でみてまーすかぁ?」
「誤解を生む発言はやめタマエ」
眼福なのは間違いないわけだが、腕を絡めて引っ付いてくるため非常に下半身の健康に良くない。いいぞもっとやれ。
「なーなーミルフィちゃん、本部長ばかりじゃなくて俺達にもお酌してくれよ」」
「イエース!任せてクダサーイ」
「おお!ミルフィちゃんのお酌で飲めるなんて幸せだ。ついでに一晩付き合ってくれよぉ」
「ノーノーッ、私のヴァージンは、一番大切な王子様に捧げるのでース!ワタシそんな軽いオンナじゃありませーん」
「ミルフィちゃんヴァージンなのか!」
ミルフィはセクハラ発言を巧みに躱しながらも男性諸君を手玉に取っている。
太陽のような明るさで周りを巻き込む彼女の魅力は端から見てもレベルが高い。
気が付けば会場はすっかりミルフィの独壇場だった。
そして……。
「ウップス……もう飲めませんデース」
「ほら、しっかりしろ」
俺は酔い潰れたミルフィの世話係を任されていた。
紗彩たち恋人組は同僚の女子たちと二次会のカラオケに行っている。
残った俺達は二次会に行こうと思ったのだが、フラフラになったミルフィを放置は出来ず俺が引き受けることにした。
あとで合流するからと同僚に伝えダウンするミルフィの背中をさする。
気が付けば俺達は二人きりになっていた。
酔いどれサラリーマンの闊歩する飲み屋の片隅に放置するわけにもいかず、仕方なく肩を貸してタクシーに乗せて家まで送ることにした。
やむを得ん。彼女から住所を聞いて住まいまで送るしかなさそうだ。
「ミルフィ。送っていくから住所いえるか」
「えへへへ、ホンブチョー、ミルフィのことイタダキマスしちゃうつもりデスカー?」
「人聞きの悪いこというな。酔い潰れた部下に手を出すほど飢えてねぇ」
「ホンブチョー、ミルフィね、一人暮らしで寂しいデェス。お酒入ると凄く寂しぃんデス。ミルフィが眠るまで一緒にいてくだサイ。ホンブチョーのおうち行きたいデース」
「イヤイヤ、それは色々とマズいだろう?」
「お願いしマス。一生のお願いデース」
そこまで言ってミルフィは俺に寄りかかって寝息を立て始めてしまった。
住所が分からない以上は彼女の住まいに連れていくことも出来ない。
アパートに寝かせて俺は深雪の部屋に退避しよう。
タクシーで俺のアパートに移動し、彼女を部屋まで上げる。
端から見ると酔い潰れた女性を連れ込んだクズ男の構図だが、如何わしい行為をするつもりはない。
ないからな。
しかし、はだけた胸元から零れ落ちるボンバーメロンが寝返りによっていっそう露になってしまう。
煽情的な紅色のブラジャーがこれでもかと深い谷間を作る。
慌てて衣服を直そうとするが、身をよじって彼女が抵抗するため完全にむき出しになり、手のひらに吸い付いてしまった。
「OH、なんというけしからん感触であろうか」
「ん……ふぅ」
いかんな。あまりにも無防備過ぎるぞ。これも神力の恩恵なのか。それとも彼女が油断しすぎなのかは分からないが、こんなところを誰かに見られたら俺が酔い潰れた彼女を手籠めにしようとしているみたいではないか。
しかし、この手がおっぱいから離れてくれない。鋼の意志をもってしても強力な磁石の如く素肌に吸い付いてしまう。
まあアパートの中なので見られることもないだろうけど。誰かに見られたら誤解を生むこと必至だ。
「そうだ、神力で治療してみよう」
からだの健康状態を回復し状態を良い方向へ持っていく力を持つ神力なら泥酔状態も回復できるかもしれない。
俺自身神力に目覚めてから酒に悪酔いすることはなくなったことから神力にはそういう力があることは想像に難くない。
俺はミルフィに神力を流し込むため力を込めた。
ガバッ!
「うおっと!?」
突如彼女の腕が俺の首に回され引き寄せられる。
「えへへ、ホンブチョーさん。つーかまえました♡」
「もしかして初めからうちに上がり込むつもりで酔ったふりしてたのか?」
「前からホンブチョーのこと気になってたんでーす。ワタシのおっぱいそんなにいいですかぁ?」
「随分積極的だな」
「イエース!キセージジツ作りに来ました!」
「よしなって。酔った勢いで初めてを捧げるもんじゃないよ」
「マジメですネー。据え膳食わぬは男の恥デスヨ」
どストレートな誘惑に思わず苦笑した。
彼女から感じられる雰囲気には邪気がない。
「分かった。それじゃあ、据え膳をありがたくいただくとしよう」
「え!?ふぁあ、ぁあ、ぁあ、あぁあああああああああッ!!!こ、これは、な、なんですかァ!?」
俺は彼女の身体を強く抱きしめて神力を思い切り込める。
全開になった蛇口から流れ出た水の如く、彼女の心はあっという間に俺色に染まっていった。
これがアナさんから言われた女性を魅了する力。思い切り神力を当てられた異性は抗うことなく俺の魂の本質に触れて、ほぼ例外なく惚れてしまう力があるらしい。
俺は自分で虜にした女性に対しては責任を持つ義務があると思っている。
彼女が俺に対してどのような感情を持つにせよ、彼女が幸せな人生を歩んでいけるように取り計らうつもりだ。
「ふぁあ、ぁああん、ぁあああああ、何か、入ってキマスッぅう。ホンブチョーの温かいのがミルフィの中でドクドクいって、ぁああああん」
表情がすっかり蕩け切り、赤みの刺した顔は欲情のそれであった。
俺は最初から彼女を警戒していた。とはいえ、彼女には邪気がない。
俺に敵対する存在から発せられる気配が感じられなかったのだ。
だから、深雪からの忠告が無かったら気が付かなかっただろう。




