第37話 エレノフスク家
数日後。いよいよエレノフスク夫妻が日本にやってくる当日を迎えた。空港までのお出迎えに俺、紗彩、そしてフィルの三人で向かった俺たちはゲートを通ってくるひと際に異彩を放つ男女のペアを見つけた。
巨大な体躯は恐らく2メートル近くはあるだろう。見上げるほどの巨躯と筋骨隆々でブロンドヘアのナイスミドルの男性。
会社員というより軍人なのではないかと思いたくなる凄まじい巨体だった。いや、整った凛々しい顔立ちは北欧神話の英雄然としている、といったほうがしっくりくるかもしれない。
そしてさらに目を引くのは奥さんの方だ。
雪の化身なのではないかと思うほどに透明感のあるプラチナブロンドの髪を持ち、真っ白い肌。透き通るような美しさを持つ絶世の美女。
娘のフィルが彼女の遺伝子を一身に受け継いでいるのが分かる。髪の色は父親よりだがまさしくフィルリーナを長身にして色香を纏ったら丁度あんな感じだろう。
「初めましてエレノフスク支社長、そして奥方様。本社に勤めております篠宮と申します」
「初めまして篠宮君。出迎えご苦労だった。社長から君の噂は聞いている。かなり出来る男だとな」
「恐縮です」
聞いていた通りかなりの真面目な人物みたいだ。見た目の迫力も相まって威圧感が凄い。神力なかったらビビって萎縮していたかもしれない。
「フィルちゃんお久しぶりねぇ~」
「母も元気そう」
逆に母親の方はなんというか、凄くほわほわしてて甘ったるいしゃべり方の人だな。見た目が氷の彫像みたいな美人なだけにギャップが凄い。
「お初にお目にかかります篠宮さん。ゲオールグの妻、支社長秘書をしておりますアナスタシア=エレノフスクです。どうぞアナとお呼びくださいな」
「初めまして篠宮です。日本語がとても流暢でいらっしゃいますね。にわかで勉強したロシア語を使わなくても良さそうだ」
「ふふっ、面白い方ですね。ご覧の通り夫婦そろって日本にかかわることが多かったので言葉はすっかりこっちに慣れてしまいましたわぁ」
「そうでしたか。ではアナさんとお呼びすれば?」
「うふふ、女に向かって穴呼ばわりなんて あなたも相当な男ですわねぇ」
「奥方様、もしかして日本のアニメ大好きですか?」
「あらあら、このネタ分かっていただけるって向こうだとなかなかないんですのよ。篠宮さんポイント高いです」
「それは良かった」
どこかで聞いたことのあるやり取りだがなかなかコアなセリフだから分かる人にしか分からないぞそれは。
だがまあ、かなりフランクに接してくれたためこちらの緊張も解ける。支社長は堅物みたいだが見た目通り真面目な方なのだろう。
「そうそう、フィルちゃん」
「何?」
「とっても素敵なゲストを連れてきたわよぉ~」
「?」
「フィル姉さまぁーーー」
アナスタシアさんの後ろから飛び出して来たのはフィルそっくりの少女二人だった。
正確にいうとフィルをもう少し幼くしたような感じのそっくりの美少女たち。そういえば双子の妹がいるって言っていたな。フィルはブロンドヘアなのに対して彼女達は母親と同じプラチナブロンドで銀色だ。
「マリー、サリー久しぶり。元気そう」
「フィル姉さま会いたかったのですぅ!」
「姉さま、なんだかとっても綺麗になっています」
フィルに飛びついてハグしているサイドポニーにまとめた髪の少女は物凄く通る声で喜びを全身で表している。
一方で大人しそうな少女は物腰が柔らかく遠慮気味にフィルに寄りかかる。甘えん坊みたいだ。
「ほらマリー、サリー、本社の方々にご挨拶なさい」
ゲオールグ氏に促されて俺たちのもとにやってきた二人の美少女。片やニコニコ元気印な娘っ子でもう片方はしっかり者に見える。
「マリーシャ=エレノフスクなのです!日本の皆さんよろしくなのです!」
「サリーシャ=エレノフスクです。宜しくお願い致します」
「マリーと呼んで欲しいのです!」
「私も、サリーとお呼びください」
「よろしくね、マリーちゃん、サリーちゃん」
「おぉ、もしやもしやお兄さんは噂に聞く篠宮お兄さんなのです!?」
「噂になってるのか」
「篠宮お兄さん。聞いていたのよりずっとお兄さんなのです」
「ん?どういうこと?」
「はい、フィル姉さまからお噂はかねがね」
マリーもサリーもフィルより更に背丈が小さい。一瞬小学生くらいかと思ったら次の春から高校生として日本に留学する予定らしい。エレノフスク家の血筋は一体どうなっているんだ?
双子の言葉に戸惑っているとゲオールグ氏が少し笑いながら捕捉をしてくれた。
「ははは、フィルから君の事はよく聞いているよ。そしたらこの子たちも君に興味を持ったらしくてね。日本にいくといったら自分たちもついてくると聞かなかったんだ。聞いていたのよりずっと若いから驚いているのだよ」
「それは、なんとも恐縮なお話ですね」
「失礼だが、実年齢はいくつだね?」
「今年42歳になりました」
「まぁ、そんなに見た目がお若いのに、うちの人とさほど変わらないのですね」
「私が47歳だから5歳しか変わらないのに、随分と若く見えるね。是非秘訣を教えて欲しいものだよ」
「ほんとですねぇ。あなたがフィルを娶ってくださるなんて、とても喜ばしいことです」
「はい。フィルさんとはいいお付き合いをさせていただいております。そこら辺の詳しいことはプライベートのお時間にでも。落ち着いて食事が出来る和食のレストランを予約してあります」
「それは楽しみだ。やはり現地で食べる日本食が一番だからね。お言葉に甘えるとしよう」
俺たちはエレノフスク親子を連れて本社に向かうことにした。
そしてそんな中、後ろから聞こえてくる双子のやり取りを、神力で強化された聴覚はしっかりと聞き取った。
『……サリー、どうなのです?あの人……』
『ええ、凄いです。大きすぎて全体が分からないくらいの、ものすごい神力……』
『やっぱりなのです、マリーの眼に狂いはなかったのです』
『正確にはフィル姉さまの眼です』
双子の姉妹が密かに放った言葉に俺は固まりそうになる。二人を見た瞬間に顔に出さないように必死に堪えていたのだ。
『『見つけた。私たちのご主人様……』』
そう、二人には運命の光が放たれていた。




