第36話 ご両親快諾
「というわけで、社長の公認をいただきましたので堂々とハーレム宣言をなさってくださって大丈夫です」
「何がどうなって『というわけで』なんだろうね」
話がいきなりすぎて訳が分からんだろう。
フィルと愛し合ったデートから始まって週の初め。フィルのご両親を説得するための下準備に社長を抱き込むという作戦を立てた俺たちだったが、父親の説得には紗彩がもっともアドバンテージを発揮すると本人が豪語したため任せていた。
それで翌日会社に出勤してみたならば、早速社長室に呼び出され、大目玉を喰らう覚悟でいったわけなのだが、どういうわけかにこやかに笑う社長と奥さんにお出迎えされある種の不気味さを覚えた俺は、恐る恐る事情の説明を試みた。
ところが紗彩から既に事情は聴いており、両親ともに紗彩、深雪、玲緒奈、そしてフィルと付き合うことに関して既に了承を取ったらしい。
「社長、自分で言うのもなんですが、本当によろしいのでしょうか」
「よいではないか。ハーレム、大いに結構。我が社を背負って立つ男であるならばハーレムの一つや二つやり切らないでどうすね。ん?」
社長も意外にノリノリである。奥さんも然り。一体どうなってるんだろうか。
「紗彩、一体どうやって説得したの?」
「認めないと全員揃って南の島に移住しますって言ったらOKもらいました。お母さんは知ってたみたいですよ♪」
「マジか」
「隆行さんは甲斐性のある殿方だと思っていましたからねぇ」
「うふふ、お母さまお目が高いですわ」
この娘にしてこの母親ありといったところか。最初に紗彩が言った通り義母君は深雪や俺たちの関係性を一発で見破っていたらしい。
そしてしばらくその様子を見て深雪や紗彩がとても幸せそうな様を確認したので容認することにしたとのことだ。
かくも義母の掌の上だったというわけか。やはり水無月家のカーストトップは伊達ではない。
「よかった。社長も偶にはいいこという」
「うん、フィル君、一応わたし、社長だからね。君の人事権握ってるからね」
「平気。フィルは隆行の恋人になれた。これで水無月に未練はない。いつも一緒に居られないのは残念だけど、些細な問題」
「大丈夫ですよフィルちゃん。貴女の身分は私が保証しますから」
「貴女が神か」
「母さん、社長は私……」
フィルもなんだかんだ義母と仲良しみたいだ。そういえば解決課の仕事はこの人と連携を取ってたんだから当然と言えば当然か。いわば解決課の真のボスは彼女だからな。
◇◇◇◇◇◇◇◇
━前の日、隆行がフィルとラブホテルで青春している頃━
紗彩、深雪、玲緒奈の三人は紗彩の両親のところを訪れており、三人そろっての話とは一体何なのかと紗彩の父親【水無月 幸太郎】は首をかしげていた。
その妻である【水無月 月夜】は何故だかニコニコと笑ってその場を見守っている。
「お父さん、お母さん、お話があるの」
「うむ、それでどうしたのかな?愛沢君は分かるとして、そちらのお嬢さんは?」
「どうしたのかしらねぇ」
「初めまして、篠宮隆行の元娘、柏崎玲緒奈といいます」
「元、とはどういうことだろうか?」
玲緒奈は隆行と自分との関係をかいつまんで説明する。
「なるほど、少し複雑な関係のようだ」
「それでね、いきなりなんだけど、いえ、本当はずっと前からそうだったんだけど、私たち、全員隆行さんの恋人なの」
「な、なんだと!?」
「あらあら。やっぱりそうだったですねぇ」
「一体、どういうことだ!?ちゃんと説明してくれ」
「それでは私から説明いたしましょう」
深雪は少し身を乗り出して自分たちと隆行の関係について解説を始める。混乱を極める幸太郎だったが、深雪の落ち着いた雰囲気と順序だてた解説。三人の確信に満ちた眼を見て、徐々に話しを真剣に聞いていくようになる。
「つ、つまり、彼はその神力という力の持ち主であり、普通の人間ではないと?そしてその彼の周りに集まっている君たちは全員彼の運命の伴侶であると?」
「はい、その通りです」
「あらあら、隆行さんってやっぱりすごい方だったんですねぇ。ますます見直しちゃいました」
「母さん、そういう問題ではないよ」
「あら。じゃあどういう問題なのかしら?彼女達の顔を見ていれば隆行さんが不誠実なことはせず真剣に彼女達全員を愛してることくらい分からないの?」
「そ、それは、分かるが」
「じゃあ問題ないですね。正直なところ、女性としては複雑な気分なのは否定しませんが」
「そこはご安心ください。彼は紗彩さんが一番であると私たち全員に宣言しています」
「あら、それはポイント高いですね」
「うーむ、それならいい、のか……?」
「あの、一つ、よろしいでしょうか」
「なにかな玲緒奈君」
「私、お義父さんとの関係を後悔していません。お義父さんは親としても男性としても誠実で立派な人です。それは娘である私が保証します。それに、紗彩さんも深雪さんも全員で一緒に過ごしてきて不満なことを言い合うことは一度もありませんでした。紗彩さんが私たちの中心であることは誰もが納得していますし、なにより、神力って、そういうのが問題にならないくらい私たちを幸せにしてくれるんです。心同士が繋がってるっていうか」
「うーむ、確かに篠宮君がいい加減な気持ちで女性と付き合う男でないことは分かっているつもりだが」
「お父さん、もし許してもらえないなら、それでもいいです」
「ど、どういうことだ?」
「私たち、全員で日本を出ていきますから」
「え?え?」
「とある場所の無人島を買い取って既に自治権を獲得しています。そこで国を作れば日本の法律は関係ありませんわ」
「あ、愛沢君まで」
「あらあら、いいですねぇ。私もそっちに乗り換えようかしら。私もまだまだいけるわよねぇ」
「か、母さん!!?」
父、涙目である。その場に誰一人味方がいないので慌てて肯定し始める。
「うふふ、冗談ですよ。そんな捨てられた子犬みたいな目で見ないでも見捨てたりしませんから」
「お母さん、その冗談はお父さんがかわいそうだからやめてあげて」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「と、いうようなことがありまして」
深雪の解説に俺は呆けてしまった。なるほど。そんな脅され方したら納得せざるを得ないのか。さっきの『大いに結構』はかなり無理してたのかな。社長、ドンマイ。
「それにしても出来る男だとは思っていたがまさかここまでとはな。この現代日本でリアルにハーレムなんて作れる度量がある男は初めて会ったぞ。なに。歴史を紐解けば権力者は愛人や側室を持つことは当たり前とされてきた。少子化対策にもなるし、結婚するのは紗彩と決めているというのもポイントが高いな」
多分それが本音のところなんだろうな。父親としては当然か。母親の方もそこは同意見らしく紗彩と結婚することが大前提であることを伝えたら話がスムーズに進んだらしい。
「来週の全社重役会議でエレノフスク支社長夫妻はやってくる。彼ら夫婦は、特にフィルリーナ君の父親、ゲオールグ氏は真面目で有名だ。私たちのように寛容に快諾とはいかないだろう。どうするつもりかね?」
それに関しては考えていることがある。俺は社長にそのことをありのままに伝えると、彼は声を上げて豪快に笑いだした。
「はっはっはッ!そうかそうか。さすが篠宮君だ。確かにその方法が一番いいかもしれんな。それでダメなら他に打つ手はあるまい」
「隆行……」
「心配ないさ。大船に乗ったつもりで任せておけ」
心配そうに俺の服の端を引っ張るフィルを安心させるため彼女の頭を撫でる。
「うん、任せる。隆行なら大丈夫」
「ああ、大丈夫だからな」
俺の事をすっかり信用しきっているフィルのためにも失敗は出来ない。もともと土台無理な話を通そうとしているのだ。奇をてらった小細工は通じないだろう。
俺たちは社長室を後にして仕事に戻ることにして社長室の扉を閉めた。
『ようし!では私も今日から早速ハーレムをつくっちゃおう』
『ほう?私の前でそれをいいますか?』
『じょ、冗談だよ母さん』
『信用できないわねぇ。この前も高級クラブで女の子とイチャイチャしてたみたいだし』
『あ、あれは部下たちとの付き合いで仕方なく』
扉の向こう側から聞こえてくるやり取りにどこかホッとする。奥さんが味方で本当によかった。
まあ普通は夫婦の関係って複数の異性と付き合うのは浮気とみなされるから、今みたいな反応が通常なんだよな。俺は誠実でいるように最大限努力しよう。
『私を愛してると言ってみろ』
『あ、愛します……』
『なぁにぃ!聞こえんなぁ!』
『愛しますぅ!一生どこへでも付いていきますぅ!!』
あの人は絶対、敵に回したらダメな人だ……。社長、尻に敷かれすぎだろ……いや、紗彩も同じ血が流れていることを考えると、俺も他人事ではない。
「お母さんは一途な人ですから」
「一途……か」
彼女達に不誠実なことは絶対にしてはいけないな。いつか刺されそうだ。
……奥さんが味方で本当に良かった。
そして、やっぱり「敵に回してはいけない人」だと痛感した。




