運命の一日の始まり(灯視点)
最悪だ、と思った。
目を覚ました瞬間、部屋のカーテン越しに見えた光が、やけに高くて明るくて。 嫌な予感がして、スマホを掴んで時間を確認した瞬間、頭が真っ白になった。
「……え」
約束の時間、過ぎてる。
心臓が一気に跳ね上がった。
(うそ……今日、デートなのに……!)
飛び起きたところで、インターホンが鳴った。 その音で、さらにパニックになる。
「……っ!」
まさか、と思いながらドアを開けると――
「み、水守くん!?」
そこに立っていたのは、蒼太だった。
パジャマ姿で、寝癖もそのまま。 最悪の状態を、全部見られてしまった。
(……終わった)
「ご、ごめん!! 寝過ごしてて……!」
顔が熱い。恥ずかしさでどうにかなりそうだった。
でも、蒼太は責めるような顔をしなかった。
「事故とかじゃなくて、よかった」
その一言に、胸が少しだけ軽くなる。
「すぐ準備するから! 家、上がって待ってて!」
勢いでそう言って、私は慌てて支度を始めた。
(なんで……なんで今日に限って……)
鏡に映る自分を見て、自己嫌悪が止まらない。
ちゃんとしたデート。 蒼太が答えを出す、大事な一日なのに。
どうにか外に出て、二人でショッピングモールへ向かう道すがらも、気持ちは沈んだままだった。
「……ほんと、ごめんね」
「大丈夫だよ」
そう言ってくれるけど、気休めにしか聞こえない。
(絶対、印象悪いよね……)
ショッピングモールは、冬休みのせいで想像以上に混雑していた。
「すごい人……」
人混みに紛れながら、色んなお店を見て回る。 本当なら楽しいはずなのに、私はずっと蒼太の様子ばかり気にしていた。
(……疲れてる)
歩き方が少し重い。
「ね、水守くん。ちょっと休憩しよ」
ベンチを見つけて、並んで座る。
そのときも、私は内心、焦っていた。
(寝坊するし、混んでるし……楽しめてないよね)
これは、デート失敗なんじゃないか。 そんな考えが、頭をよぎる。
(……もう一回、やり直したいな)
ちゃんと準備して、ちゃんと楽しめる日に。
その瞬間。
「……っ」
自分のお腹が、はっきりと音を立てた。
「……ご、ごめん」
恥ずかしさで顔が熱くなる。
「朝、あんまり食べてなくて……」
寝坊して、バタバタして。 余裕なんて、どこにもなかった。
少し早いけど、昼ごはんを食べることになって、フードコートへ向かう。
――でも。
「……満席」
「……だね」
座る場所が、どこにもない。
私は、思わず俯いた。
(……やっぱり、ダメだ)
段取りも、空気も、全部うまくいってない。
蒼太は何も言わない。 それが余計に、不安になる。
(今日で、結論を出すんだよね)
こんなデートで、本当にいいのかな。
それでも。
ベンチで並んで座っていたときの、あの静かな空気。 一緒にいるだけで、少し安心した気持ち。
(……それだけは、本物だよね)
そう信じたいと思いながら、私は混雑したフードコートを見つめていた。
この一日を、失敗で終わらせたくない。 せめて、蒼太にとって――
「楽しかった」と思える時間にしたい。
その気持ちだけは、はっきりと胸の中にあった。




