運命の一日の始まり(蒼太視点)
約束の時間。
玄関で靴を履きながら、何度も時計を確認した。
(……そろそろ来るよな)
今日は白咲さんが、僕の家まで迎えに来てくれることになっている。
インターホンが鳴る気配はない。
五分。十分。
胸の奥が、じわじわと不安に侵食されていく。
「……遅いな」
スマホを取り出してメッセージを送る。
『もうすぐ?』
既読もつかない。
(寝坊……? いや、まさか)
でも、昨日のことを思い出す。
冬休み中、白咲さんはいつも課題を頑張っていて、寝不足気味だった。
(……嫌な予感する)
気づけば、靴を履き直して外に出ていた。
「……白咲さんの家、行こう」
じっと待っていられなかった。
白咲さんの家に着いて、インターホンを押す。
――反応なし。
もう一度、少し強めに押す。
「……」
(やっぱり、何かあった?)
三度目を押そうとした、そのとき。
ガチャ、とドアが開いた。
「っ……!」
現れたのは、白咲さんだった。
でも――
「み、水守くん!? ご、ごめん!!」
パジャマ姿。
髪は寝癖で跳ねていて、目はまだ半分眠そう。
(……え)
一瞬、言葉を失った。
「わ、私……寝過ごしてて……っ」
インターホンの音で起きたらしい。
顔を真っ赤にして、慌てている。
(……すごい姿、見ちゃった)
でも、不思議と嫌な気持ちはしなかった。
「だ、大丈夫だよ。事故とかじゃなくてよかった」
「ほんとにごめん……すぐ準備するから! 家、上がって待ってて!」
「え、いや……」
断る間もなく、押し切られる。
結局、リビングで待つことになった。
数分後、ちゃんと身支度を整えた白咲さんが戻ってきた。
「……お待たせしました」
さっきとは別人みたいだ。
「ううん。行こっか」
家を出て、ショッピングモールへ向かう。
歩きながら、白咲さんは何度も小さくため息をついていた。
「……なんで今日に限って寝坊なんて……」
「そんなに気にしなくていいよ」
そう言ったけど、白咲さんの表情は少し沈んだままだった。
ショッピングモールに着くと、冬休みの影響もあって、人で溢れていた。
「……すごい人」
「だね……」
とりあえず、特に目的を決めずにぶらぶら歩く。
服屋、雑貨屋、キャラクターショップ。
ウィンドウを見るだけでも楽しいはずなのに――
(……人、多いな)
歩くうちに、足が重くなってくる。
気づいたのか、白咲さんがこちらを見る。
「……水守くん、ちょっと疲れてる?」
「え……あ、うん。少し」
「じゃあ、休憩しよ。どこか座れるところ探そう」
たまたま空いていたベンチを見つけて、並んで腰を下ろす。
人の流れを眺めながら、息を整える。
(……でも)
こうして隣に座っているだけで、不思議と落ち着く。
会話がなくても、気まずくない。
(……これって)
胸の奥が、じんわりとあたたかくなる。
(好き、ってことなのかも)
そう思った瞬間、自分でも少し驚いた。
そのとき。
「……っ」
小さな音。
白咲さんが、慌ててお腹を押さえる。
「……ご、ごめん……」
「……お腹、空いてる?」
「うん……朝、ほとんど食べてなくて……」
少し早いけど、昼ごはんにしよう、という流れになった。
フードコートへ向かう。
――が。
「……満席だ」
「……だね」
どこを見ても、座る場所がない。
白咲さんは、少し申し訳なさそうに俯いた。
(……楽しめてないって、思ってるのかな)
確かに、予定通りとはいってない。
混んでるし、休憩も多い。
でも――
(それでも、楽しい)
一緒にいる時間そのものが。
そのことを、どう伝えればいいのか分からないまま、
僕は人で溢れるフードコートを見渡していた。




