第46話 フルーツサンドの味が分かりませんわ!
フロルの健康診断が終わり、シェルリンは孤児院の外へ出た。
いつもは食堂にある長机が外に出され、洗いざらしのシーツが机の木目を隠している。
シーツの上の小瓶には、小さな野の花が飾られていて、何とも可愛らしい。
机を見つめる私に、カリーナが「子供たちがどこからか摘んできたのよ」と言った。
「さぁ、シェルリンさん。紙芝居始まりますよ」
カリーナに促されて、皆が集まっているところへ足を運ぶ。
マクスウェルが紙芝居を持ち、その脇に東の孤児院担当メンバーが立つ。
マクスウェルがめくり、物語を語る。そのほかのメンバーはそれぞれ一人の登場人物の担当だ。
その登場人物のセリフに合わせて一歩前に出て、演技をする。
シェルリンも主役の女の子の役を持っていた。
急いでマクスウェルの隣に立つ。
地面に座り込んだ子供たちが、一体何が始まるのかという目で見ている。
その後ろで、ユリウス、カリーナ、アメリアにマリーも子供たち同様に楽しそうな目でこちらを見つめながら立っていた。
タイトルを読み、マクスウェルが最初の一ページをめくる。
語りが途切れるタイミングを見計らい、一歩前に出る。
絵に注目していた全ての視線がシェルリンに集まった。
この紙芝居をするといつもこうだ。自分のセリフの場面では、全ての目がこちらを向く。
これはどの役の担当者もそうで、セリフを受け持つシェルリンたちは、物語の語り部であり、実際に手に紙芝居を持つマクスウェルを羨んだ。
マクスウェルが語る間は、皆が絵に注目するからだ。
シェルリンはセリフを声に出しながら、一人だけ視線がこちらにむいていない子供がいることに気がついた。
トーマだった。
セリフを終え、一歩下がる。
再びマクスウェルが語り、今度はナターシャが一歩前に出てセリフを言う。
ナターシャが前に出た時もトーマはじっと紙芝居の絵を見つめていた。
その後もずっとトーマに注目していたが、誰かがセリフを言う時だけでなく、ふふっと笑いを誘う掛け合いの時もトーマは目をそらすことなく、じっと絵を見つめ続けていた。
紙芝居が終わると、食事だ。
アメリアがにっこり顔で、あれやこれやと材料を持ってきた。
それを一列に並べていく。
「さぁ、みんなお皿を持って並んで、並んで! 今から手本を見せますから、よーく見ていなさいよ」
スライスされたパンを一枚お皿にのせ、一歩進み、隣に置いてあるレタスを乗せ、トマトを乗せ、チキンを乗せた。
食材を乗せながら一歩ずつ進んでいったアメリアは最後に長机の端のアボカドソースをとろりとかけ、もう一枚パンを上にのせた。
そのまま机の反対側を歩き、一番端に腰を下ろした。
「はい、極上サンドイッチの出来上がり! 順番にとっていってね」
アメリアの言葉が言い終わるか否や、先頭の子供がパンを持って進み始める。
レタス、トマト、チキン。そしてソースにパン。
次の子も、次の子も。
パンの上に食材を乗せるだけなのだが、真剣な顔つきで食材を盛りつけ、長机に座るとパッと笑顔になった。
「ふふ。なんだか私たちも楽しいですわね」
子供たちの番が終わって、ミランダが自分のパンに食材を盛りつけながら笑った。
「あぁ、わかる。いつもはすべて用意されているからな」
答えたのはユリウスだった。
ユリウスが席に着くと、毒見役がサンドイッチの端をナイフで切って食べた。
「おじちゃん、まだだよ? ちゃんとみんな待っているのに駄目でしょう?」
毒見を知らない幼い子供が言った。
「そんなこと言っちゃだめだぞ。おっちゃんだって大人だからそんなこと知ってる。それでも美味しそうで食べちゃったんだ。指摘したら恥ずかしく思うだろ」
隣に座っていた子供がたしなめる。
子供たちは大まじめだったが、ユリウスも毒見役を務めた彼も、シェルリンたちも皆笑い声をあげないようにこらえるのが大変だった。
大人になんかならないと言っていた子供たち。
未来なんか、希望なんかないという風に生きていた子供たちの中に毒見を知らない優しい世界を見たようで、シェルリンはなんだか胸が温かくなった。
シェルリンたちはナイフとフォークで、子供たちはそのまま手づかみでサンドイッチを食べていく。
なるほど、アメリアは子供たちが手で食べられるように最後にもう一枚パンを乗せたのだなと納得する。
あっという間に食べ終わった後は、マリーだ。
「サンドイッチは美味しかったけれど、次のもすごいわよ。頬っぺたなんか落っこちてしまうほどね!」
そう言って、パンと持ち運び用の保冷庫に入れて持ってきた苺と袋に入った白いものを持ってきた。
小さめのソフトバゲットにはすでに切れ込みが入っている。
その切れ込みに向かって、マリーは白い袋を向ける。
中からするりと出てきたものを見て、それがケーキの上に乗っている生クリームだとシェルリンは気がついた。
生クリーム入りのパンをどんどん作り、大皿の上に並べていく。
全てのパンに生クリームを詰め終わると、マリーはその上に切った苺を並べていく。
あっという間に、見たこともない可愛らしいサンドイッチが出来上がった。
子供たちの顔もキラキラだ。
「はい!」
全員に配り終えた頃、先に食べたらダメだと注意した子がトテトテと毒見役に近づく。
小さくちぎった切れ端を毒見役に渡しているのだ。
「これも美味しそうなの。あげる」
「俺のも」
毒見役の彼は、どうしたらいいのかわからないという風に困り果ててユリウスを見た。
ユリウスは笑って、「私のも少しやろう」と言って、口に押し込んだ。
これもこれも! と次々に渡されるサンドイッチの切れ端用にマリーが予備の皿を持ってくる。
「では、私も」
シェルリンも楽しくなって、フルーツサンドの端を持って近づく。
毒見役の彼は「シェルリン様まで!」と必死に顔を横に振った。
その様子がまたおかしくてフフッと笑う。
悪ふざけはここまでにして、席に戻って食べようと思った時だった。
フルーツサンドを持った手が横からさっと手をすくい取られた。
その手はシェルリンが何かを言う前に、何事かと気がつく前に、ユリウスの口元にいざなわれ、手に持っていたフルーツサンドがユリウスの口に消えた。
え? え? えぇぇ?
一人満足げに言うユリウスに声が出ない。
頭の中はパニックで「なぜ」と「今何が」という言葉ばかりが頭の中を駆け巡る。
なぜこんなことになったのかと今の一瞬を思い返して、自分の指先がユリウスの口元に当たったことに気がついた。
シェルリンの体に一気に熱が駆け巡る。
指先が、動かせない。
驚きのまま、ユリウスを見つめていると、咀嚼し終わったユリウスと目が合った。
何か……何か言わねば……。
そう思うのに、口から言葉は何も出て来なくて。
「うん、美味しい」
そう言うユリウスを黙って見続けた。
皆様おはようございます。
いつも『面倒なので忘れますわ!』を読みに来てくださってありがとうございます。
今日は新作のお知らせをさせてください。
4/24夜から新作『名ばかり聖女の覚醒~聖女は生贄なんて聞いてません』の投稿を開始します。
こちらは完結まで書き終えていますので、完結まで毎日投稿予定です。
日本はもうすぐゴールデンウィークですね。
ゴールデンウイーク中は朝、昼、晩と三回投稿しますので、お時間ありましたら読みに来ていただけると嬉しいです。
では、また来週に。




