9.ハーレムパーティ作ってんのか
俺達はギルドの奥にある個室に通されていた。
部屋の真ん中には長方形のローテーブルが置いてあり、それを挟むように3人掛けのソファが置いてある。
その片方のソファに俺たちは座っている。
俺が真ん中、両隣りにイリアナとレイラが座っている。
2人との距離が近くて落ち着かない……
ミリカさんは俺達をこの部屋に通すと、座って待っていてくれと言って部屋を出て行ってしまっている。
何か準備が要るような事か?と思っていると部屋のドアが開いた。
「おう。中々おもしれー事になってんじゃねーか。Aランクパーティ抜けてハーレムパーティ作ってんのか?」
「ベンさん、勘弁してください。」
部屋に入ってきたのは禿頭の大柄な男で、この冒険者ギルドのマスターだった。
元Sランク冒険者で、『鉄壁』の二つ名を持つ重戦士だったそうだが、今なお衰えてはいないように見える。
ギルドマスターとは中々会う機会の無い駆け出し冒険者のイリアナとレイラが緊張するのが伝わってくる。
まぁこれは慣れるしかない。
がははと豪快に笑いながらベンさんは俺たちの向かいのソファに腰を下ろす。
ベンさんに続いて部屋に入ってきたミリカさんも同様にソファに座る。
「さて、早速だが何があったか聞かせてくれ。捕まった冒険者もウチの所属だからな。措置を決めなきゃならねぇ。」
俺は【録音】の魔道具をローテーブルに置く。
「これは衛兵に提出した録音のコピーです。」
「相変わらず周到だな。」
俺はそれには答えず、【録音】の魔道具の再生ボタンを押す。
今朝の応酬の内容が再生される。
それを聞くベンさんとミリカさんは難しい顔をしている。
そして【録音】の魔道具が全ての音声を再生し終わった。
「……何があったかはよく分かったぜ。まずは嬢ちゃんたち。危険な目に合わせてすまなかった。こういう問題を起こさないように養成所があるんだが……よりによってそこで目を付けられたんだってな。養成所には正式に改善令を出すことにするよ。」
ベンさんはソファに座ったままだが俺達に頭を下げる。
その弁から大体のあらましはミリカさんから伝わっていたということがわかる。
「いえいえ!!ギルドマスターのせいじゃありませんから!!頭を上げて下さい。」
ギルドマスターに謝罪された2人はどうしていいか分からず俺へと視線を投げかけてくる。
「冒険者の不始末はギルドマスターの管理不行き届きの面もあるから謝罪は受け取っておけばいいさ。だが、命を狙われたのに言葉だけでは誠意が足りないだろうから何か補填があると思うぞ?」
俺の言葉にベンさんが頭を上げる。
「人が下手に出りゃこの餓鬼が言いやがる。しゃーねぇ、嬢ちゃんたちに金貨10枚ずつでいいか?」
「俺にはないんですか?」
「お前は嬢ちゃんたちの護衛役だろうが。」
ですよね。
まぁあんなチンピラに絡まれたところで痛くも痒くもないからいいんだが。
「しかし金貨20枚、いいんですか?」
俺の言葉にベンさんがはぁ?と言う顔をする。
いや、俺は正直金貨数枚くらいでも補填があればいいな~と思っていたのだが……
「お前が金寄こせとか言うからだろうが。……まぁ今回の件ではちょっと揉めててな。捕まった冒険者の一人が貴族なんだよ。んで、その家の当主が抗議に来ててな。不当な罪をでっち上げられて名誉を傷つけられたと。」
「貴族家出身の奴がいたんですか。そりゃご愁傷さまでした。」
「他人事かよ。だが、こうして証拠があるからな。これを提示すれば向こうも黙るだろ。で、このことは街の外で行われた。」
「つまり、当事者とベンさん、ミリカさんしか知らない……と?」
「相変わらず察しが良いな。貴族サマは体裁を気にしているから口止め料が手に入るって寸法だ。」
「それにしたら金貨20枚は少ないのでは?」
「阿保言え。取り過ぎたら禍根を残すだろうが。こういうのはほどほどにしとくもんなんだよ。」
「そんなもんですかね。2人ともそれで今回の件は手打ちでいいか?」
俺が脇にいる2人に確認する。
「私はそれで構いません。」
「あたしも!!」
2人は頷きながら答えてくれた。
それを聞いたベンさんも頷き、ミリカさんがローテーブルへ金貨の入った麻袋を置く。
どうやらもう準備は終わっていたようだった。
っていうか俺が吹っ掛けるのも想定済みか。
恐ろしい人達だな。
「【録音】をコピーさせてもらうぞ?」
ベンさんが確認を入れてくるが俺は首を横に振る。
「コピーはもう一つあるのでそれはそのままお持ちください。」
「用意周到過ぎるだろ。」
「お互い様ですよ。」
俺とベンさんはにやりと笑う。
これでこの件は終わりだ。
ギルドの打ち合わせスペースに移動した俺たちは今後について話し始めた。
「俺としては2人の戦闘技術を高めていくべきだと思う。朝一から鍛錬を行い、昼前から依頼をこなしていくスタイルが良いと思うんだがどうだろう。」
「アタシはそれが良いと思う!!オルカさんの戦い見て練度が全然違うのが分かったから……」
「私も。弓もそうですけど近接戦闘についても自衛が出来るくらいにはなりたいです。」
「分かった。じゃあ2人の宿を教えてもらえるか?日の出に合わせて俺がそっちに行くからそこで鍛錬をしよう。」
俺の言葉に2人は顔を合わせる。
そして同時に俺の方を見る。
「……私たちは決まった宿を取ってないんです。その日空いている宿で安い所を転々としてます。」
「マジか。」
宿選びは重要だ。
金額が高ければいいという訳ではないが、特にセキュリティ面は気にしないと夜もゆっくり休めなくなる。
どの程度の安宿に泊まっていたかは分からないが、なかなか危ない生活をしていたようだ。
「まとまった金も入ったことだしまとめて借りた方が良いだろうな。同じ宿なら移動の手間も省けるし俺が今借りている所を紹介しようか?夜ゆっくり休めるくらいの安全性はある所だ。」
「オ、オルカさんと同じ部屋ですか!?」
何か勘違いをして顔を真っ赤にするイリアナ。
「いや、同じ宿だ。部屋じゃない。というか1人部屋に3人は無理だろ。」
そのやり取りを見ていたレイラが噴き出している。
結局安全面、時間効率面を見て俺と同じ宿が良いという事になり、空きを確認しに行くととなった。
住まい探し現実でも重要な要素ですよね。
安全・安心はしっかりお金を払って買いましょう。
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