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10.『まぐまぐ亭』

冒険者ギルドを出てしばらく歩く。

冒険者向けの宿は基本ギルドに近い方が高くなる。

設備が整っていて安い所となるとギルドから離れるしかないのだ。


「ここがオルカさんの泊ってるところ?」


『まぐまぐ亭』と書かれた看板が掲げられた宿だ。

豪勢と言うよりかは質素と言った佇まいの宿だが、綺麗にしているのはポイントが高い所だ。


俺は玄関を抜けてエントランスに入る。

受付とソファがあるだけの簡素なもので、他に冒険者の姿は見当たらない。


そこに大きな影が近づいてきた。


「うわ!!おっきい!?」


「ベリルさん今晩は。」


「……ん。」


俺があいさつしたのはこの『まぐまぐ亭』のオーナーのベリルさん。

身長230cm、体重は150kgくらいあるだろうか。

人間と言うより魔物に近い強烈な体格をしている。

過去闘技大会で何度も優勝を飾るほどの実力者だ


俺がこの街で見た人間の中で、肉弾戦においてはおそらく1番だろう。

現役冒険者で言えば『戦車騎士団』のグレゴリオあたりは良い戦いになるかもしれないが……

過去にAランク魔物の【虐殺熊(マーダーグリズリー)】と素手で渡り合ったという逸話が残っているが、流石にそれは嘘だと思いたい。


「あら、オルカ君おかえりなさい。そちらの子たちは?」


続いて店の奥から出てきたのは身長150cm行かないくらいの可愛らしい女性だった。

ベリルさんの奥さんでリンカさんと言う。

こちらも元冒険者で魔術の心得があるとのこと。


この身長差100cm近い2人が経営するのがこの宿だ。


「実は、俺のパーティメンバーなんですが、この2人が宿を探してまして。空いてませんか?とりあえずは1週間程。」


リンカさんはそれを聞いて帳簿を確認する。


「2人部屋なら空いてますよ。あんた、問題ないかい?」


リンカさんがベリルさんに確認する。

ベリルさんは無言で頷く。


「よし。旦那の許可も出ましたんで行けますね。一泊銀貨6枚、7日で金貨4枚に負けときましょう。」


「助かります。」


そう言って俺は2人に支払いを促す。

2人はそれぞれ金貨2枚をリンカさんに手渡すと部屋へと案内されていった。

エントランスには俺とベリルさんだけが残される。


「……今時珍しい素直そうな子たちだな。」


俺は正直驚いた。

ベリルさんが話しているのを見たのが久しぶりだったからだ。

『紅蓮の剣』時代にもこの宿を利用していたこともあり、付き合いはそれなりに長いのだが。


「……ええ、俺もそう思います。」


「前のパーティのリーダーとは違う。大事にしてやれ。」


そう言ってベリルさんは店の奥へと消えていく。

同時に俺は以前この宿を叩き出された時のことを思い出していた。

『紅蓮の剣』リーダーのトーラスが酒に酔った勢いで暴れまわったのだ。


あの時は迷惑をかけたからな……


この宿の特徴的な所として、ベリルさんの見極めが入るという所がある。

要は素行が悪かったり問題を起こすような奴は泊めさせないというスタンスなのだ。

『紅蓮の剣』の時は部屋を借りる交渉は俺が行っていて、トーラスの奴を連れて行った時に難色を示されてひと悶着あった。

その点、イリアナとレイラは問題ないと判断されたようで俺は安心する。


そのまま待っていると3人が戻ってきた。


「遅くなりました!!」


「ふふ、オルカ君の前のパーティの時の昔話をしてたら盛り上がっちゃったわ。」


なんて話してくれてんだ。

俺の口から話した事も無いんだが……


「あいつらとももう切れましたからね。忘れてもらえると嬉しいです。」


「そう?まぁ今のパーティの方が良い雰囲気ね。オルカ君も母性かな?優しい顔つきになってるわよ。」


そうなのか?

あ、イリアナ今スッと顔を背けて笑ったな。


「まぁ保護者気分なのは間違いないですけど、今だけですよ。」


「?」


リンカさんは首をかしげるが、これはこっちの事情なので何のことか分からないだろう。


「よし、じゃ飯食いに行くぞ。」


「はーい!!」「はい。」


こうして俺達は『まぐまぐ亭』近くの食堂へと移動した。

一般大衆向けの食事処で酒の類を置いていないので冒険者はほとんどいない。

その分静かで落ち着いた店だ。

2人とも未成年だしこういった店の方が良いだろうという判断だ。

因みにこの国では18歳で成年と見なされる。

19歳の俺は立派な成年という訳だ。


個室に案内され俺たちは色んなことを話した。

だが、お互いに上辺の話ばかりだったように思う。

言っても『黎明の光』は結成初日のパーティだ。

しかも俺は引率と言う臨時メンバー。


お互いに距離感が掴めない中にしては気が合うのか話が途切れることはなかったが、最後の方は戦術理論とか硬い話を俺が披露しっぱなしになっていたのは反省だ。

今度は俺の方が話を聞く側に回らないとな。


その日はそのまま宿に戻り各々休むことにした。

翌朝の鍛練の時間だけ決めて2人と分かれる。


今日は色々あった。

昨日パーティをクビになったとは思えないほど濃く充実した1日になったので悲観的になる暇もなかった。

仕事を斡旋してくれたミリカさんにもまたお礼を言っておこう。

そんなことを考えながら俺は眠りに付くのだった。

ベリルさんの身長体重を書きましたが、人間じゃないですね。これ。

まぁファンタジー世界なので堪忍してください。

この後の展開を見ても良いと思われましたら是非評価・ブックマークをお願いいたします。

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