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53.そっちはそっちで何とかしろ

side.トーラス


ゴブリンのコロニーを迂回しながら包囲していく。

6時位置を出発した冒険者パーティと順に別れながら、俺たちは12時の位置に到着する。


「何を撃つ?」


話しかけてきたのはうちの魔術師、レティスだ。

彼女は広範囲殲滅魔術しか(・・)使えない。

だが、何種類もの広範囲殲滅魔術を使えるものなどそうはいない。

かなり尖った力を持つ魔術師だが、有能なのは間違いない。

本当なら有能な女性と言うだけで俺と付き合う資格があるのだが、彼女は1歳しか変わらないのが信じられないくらいの幼女体型なので俺の守備範囲外だ。

表情も能面に近い無表情で、いつも他人に興味なさそうに喋るのもポイントは低い。


「トーラス?」


「っと、そうだな……」


俺は考える。

彼女が聞いてきている「何を」と言うのは、どの広範囲殲滅魔術を放つのかと言う意味だ。


「出来るだけ範囲が狭く、火炎系統で無いのを頼む。出来ればゴブリンロードを直に確認した上で仕留めたい。」


この言葉に嘘はないが、真意ではない。


今回の依頼を受けた俺の目的は2つ。

1つはレイドクエストを指揮し、ゴブリンのコロニーを壊滅させたという実績。

そしてもう1つはゴブリンロードの首を取ったという実績だ。


レイドクエストの指揮を任され、かつ敵の本丸へと先陣を切って攻め込んだとなれば『紅蓮の剣』の実力を疑う者はいなくなる。

今難航している新加入メンバーの補充も大量に応募が来るだろうし、そこからしっかり実力のある者を選別すればSランクも見えてくるというものだ。


そのため、レティスの広範囲殲滅魔術でゴブリンロードがやられて、その魔石を誰かに拾われるというのが一番厄介なのだ。

単純にゴブリンを排除しながら進むというだけならAランクの俺達がBランクパーティに劣るはずがない。

その辺に転がってしまった魔石を見落とすよりBランクパーティに先んじられる可能性の方が低いと見ての判断だ。

一応、『戦車騎士団』はAランクだが所詮は成りたて(・・・・)だ。

その実力はBランク相当だろう。


「じゃあ【黒雷戦鎚(トールハンマー)】でいくわ。中央に落とさない方が良いのね?」


「ああ、少し手前に落とそう。」


これなら俺達が突っ込む側の魔物の数が減る。

より早くゴブリンロードへ到達できるだろう。


「"其方の姿は眩耀にして不可視。天地を跨ぐ其方は戦神にして雷神。我が眼前には其方の力を信じぬ愚者が在り。絶対なる力を冒涜する彼の者に裁きを。悉くを打ち砕く戦槌を振り下ろさん。"【黒雷戦鎚(トールハンマー)】」


レティスの流れるような呪文詠唱と共に上空に黒雷の塊が現れる。

禍々しいとも表現できるその黒雷は呪文の詠唱が進むにつれ大きくなる。

そして、魔術発動のキーとなる言葉(ワード)と共にその黒雷は放たれ、コロニーに落ちる。

だが、【黒雷戦鎚(トールハンマー)】の攻撃はこの黒雷そのものによるものだけではない。

黒雷から放出される黒い稲妻が周囲に発散され、縦横無尽に建物を、そして魔物を破壊する。


この感じなら50位は削れているかもしれない。

いいくらいの調整だろう。

後はゴブリンロードの首を取るだけだ。


「よし、行くぞ!!」


俺は先陣を切ってコロニーへと突っ込む。

現れるゴブリンを切り捨て、ひたすら前へ、真っすぐコロニーの中央を目指す。


「トーラス!!前へ出過ぎよ!!」


アイラが叫ぶ声が聞こえる。

だが、俺は他の奴らより先にゴブリンロードを仕留めなければならない。


「トーラス!!出過ぎるな!!囲まれるぞ!!」


続けてガイアが叫ぶ声が聞こえる。


お前がもっと前へ出て俺をフォローしろよ愚図が。


俺はゴブリンを切り捨て、後ろを振り返る。

ガイアに文句を言ってやるつもりだったのだが、そこに居たのは複数匹のゴブリンだった。


なんでゴブリンが後ろに居るんだ?


ゲギャギャ


コロニーの中央からもまだゴブリンが沸いてくる。

俺はゴブリンに囲まれてしまっていた。


「トーラス!!お前が進んだ先、脇道からもゴブリンが現れているんだ!!先に行き過ぎるな!!」


ガイアが戦斧を振り回し、ゴブリンの包囲に穴を開ける。

アイラも脇道から出てくるゴブリンに切りかかっている。


「ちっ!!どいつもこいつも!!」


俺も周りにいるゴブリンを切り伏せる。


こんなのに囲まれたくらいでどうだというんだ!!


「トーラス?なんだその靄は?」


俺の異変に気付いたのはガイアだった。

言われて気付く。

俺の身体から湯気のように黒い靄が立ち上っている。


明らかにおかしな状況だが、俺の頭は反するようにクリアになっていく。


力が湧いてきている?

まるで能力向上(バフ)をかけられているかのようだ。


「きゃ!!」


短い悲鳴が聞こえたのでそちらを見れば、レティスにゴブリンが近づいていた。

俺が先行したのにガイアとアイラが追従したため、レティスが1人取り残されていたようだ。


レティスは広範囲殲滅魔術しか(・・)使えない。

近接戦闘能力も皆無だ。

たとえ相手がEランクのゴブリンでも、こと近接戦闘においては彼女に勝ち目はない。


「チッ」


「トーラス!?」


レティスに背を向け、コロニーの中心に向けて歩き始めた俺にアイラが驚愕している。


「ゴブリンロードを押さえるのが俺の役目だ。そっちはそっちで何とかしろ。」


「トーラス!!仲間の命が優先だろ!?何を言っているんだ!!」


ガイアは怒声を上げ、レティスに近づいているゴブリン目掛けて今来た道を駆け戻る。


仲間?

仲間ってのは俺に忠実で使えるやつのことだ。

足手まといは仲間じゃねぇ。


「こっちに来ないで!!」


悲鳴が聞こえて見ればレティスにゴブリンが襲い掛かるところだった。


あんなゴブリンに負けるような奴が仲間?


その光景を鼻で笑い、コロニーの奥へと視線を向ける。

再び駆け出そうとした俺だが、後方から膨大な魔力が練り上げられるのを感じて再度振り返る。

レティスが持っている杖を目いっぱい掲げて魔術を発動させようとしていた。

広範囲殲滅魔術しか(・・)使えないレティスが、だ。


「【黒炎噴火(ボルケーノ)】!!」


は?

黒炎噴火(ボルケーノ)】?


次の瞬間、俺の視界は黒炎に覆われた。

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