4.能力低下専門の補助魔術師だ
スフィカの森を目指して迷宮都市オルティアの南門へ向けて歩く。
「しかし『黎明の光』リーダーが俺で良かったのか?」
俺は目の前を歩くイリアナとレイラに話しかける。
何か2人にリーダーをやるように言われ、ミリカさんまでそれが良いと言って受理してしまったのだ。
「問題なんてありませんよ!!というかレイラとあたしは新人ですから!!色々教えてください!!」
イリアナが屈託なく笑い、そう返してくる。
レイラも無言で頷いている。
まぁ1週間限定ではあるし、リーダーなんてその時に登録し直せばいいだけか。
「まぁ一週間だけだしな。」
そう呟くとイリアナは良く分からないと言った困惑の表情を浮かべる。
ん?
「そう言えば、オルカさんは補助魔術師なんですよね?どのような戦い方をされるんですか?」
レイラが振り返りながら問うてくる。
そう言えば自分の事を話していないと思い当たる。
チームを組んだのにそれはいかんよな。
「俺は能力低下専門の補助魔術師だな。というか能力向上が使えないんだが……あとは【治癒】だけだが回復術も使える。近接戦闘も少しだができるな。これまでは中衛ポジションを取っていた。」
「補助術師で中衛ですか?もういきなり養成所で学んだテンプレが崩れましたね……」
「まぁ確かに一般的には魔術師は後衛だよ。俺は例外だな。」
「補助魔術は能力向上の方が重要って習いましたけど、能力低下だけでAランクまで行ったんですよね?凄いですね!!」
誰だ?そんなこと養成所で吹き込んでるのは。
これは後でギルドに苦情を言っておかねばならんな。
俺はふぅっと一息つき、補助魔術師目線での能力向上・能力低下について説明する。
「能力向上・能力低下に明確な上下なんてないよ。一長一短だ。よく言われる能力低下の短所として、敵にかける以上、複数相手が居ると試行回数が多くなる事に加え抵抗される可能性がある事が言われるな。そこを見ると確かに能力向上は抵抗されることはないが、効果が切れると感覚が大きく狂うんだ。戦闘中に効果が切れようものならそれをきっかけに崩れる可能性がある位にな。しかも同じ能力向上でも人により効果時間が変わる。そう言ったことも含め、戦闘中は常に時間管理をしなければならないのが能力向上の短所だ。」
「そうなんですね。では補助魔術師はその保有魔力と時間管理を秤にかけて使う魔術を変えているという事ですか?」
「両方使える場合はそうだろうな。後もう一つ、有効な場面が違う事も挙げられるな。」
「有効な場面ですか?」
「例えば、イリアナの戦闘力を60として、階層ボスが戦闘力100だとしよう。ここに50%の能力向上と50%の能力低下を使った時のことを考えてみると、能力向上を使った場合は60の戦闘力が90に上がるが、ボスには届かない。能力低下の場合、ボスの戦闘力が50に下がり、戦力差が逆転する。」
「え?あ!!本当だ!!」
「これがイリアナの戦闘力が100で相手が戦闘力60の魔物だった場合、能力向上でイリアナの戦闘力が150になればその差は90に広がる。一方で能力低下の場合は相手の戦闘力が30になるがその差は70に留まる。」
「……格下相手には能力向上が有効、格上相手には能力低下が有効という事ですか?」
「そう言う事だ。まぁ両方使えて使い分け出来たり、同時に行使できればそれが一番なんだがな。」
俺はそう言って苦笑する。
こういった能力向上・能力低下の話を最後まで出来たのはいつだろう。
トーラスなんかは何度言っても理解しなかったし、最後には聞くこともしなかった。
「……格下に有効なのが能力向上だとすると、別に使わなくても倒せる相手ですよね?それより強敵に有効な能力低下が注目されないのは何ででしょう。」
見るとレイラが深く考え込んでいるようだ。
「それはやっぱり抵抗のせいだな。強敵には能力低下はかかりにくい……と言われている。」
「言われている?」
レイラが首をかしげる。
「いや、まだ俺がそんな抵抗されたことがないんだ。」
「え!?オルカさんAランクですよね?迷宮の40階層なんてすごく強いボスだったんじゃないんですか!?」
「んー。たまたま魔術抵抗の低い個体だったのかな?問題なく通ったんだよな。」
「話を聞いているとそれはすごいことのような気がしますが……」
まぁ俺も他の補助魔術師と仕事をしたことがないのでこの辺りは感覚のない所だ。
とは言えこれから冒険者のイロハを教える相手に常識無いんですという訳にもいかない。
ここは見栄を張っておこう。
とそんな話をしている内に南門に着く。
衛兵に軽く挨拶して門をくぐる。
街に入る時はチェックが入るが、出る時はフリーなのだ。
門を出るとすぐ目の前にスフィカの森が広がっている。
森に入る直前まで歩き、そして止まる。
「さて、初実戦……と行く前に憂いを断っておこうか。」
そう言って俺はマントを翻して後ろを振り返る。
「「え?」」
俺に続いて2人が後ろを振り返る。
そこには嫌な笑い顔の冒険者たちが立っていた。
数字的な所の多い回ですね。
今回は設定説明を丁寧にしていこうという気持ちがあるので、若干こういった回が多くなるかもしれません。
あまり文字数が多くなり過ぎない様にとは思っています。
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