表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたの隣に……  作者: ほろ苦
5/5

あなたの隣に 5

読んで頂きありがとうございます!

最悪災のドラゴンとの戦場は焼け野原となっていた

数名の上位ハンターが取り囲み、後方から支援魔術が飛び交う

黒い炎と固い身体のドラゴンに攻撃するが、その傷はすぐに自己治癒能力で回復される

ハンター達は苦戦をしていた


「魔術も物理攻撃も回復してくるな」


アイヴァンがドラゴンに向かって大刀を構えて苦笑を浮かべ

その隣でレックスは回復薬をグビッと飲み干し、空瓶を後方支援に投げる


「アイツは傷の修復能力が高いのだろう。同じところを連続で攻撃し続けられれば」

「ゼノ、蘇生を遅らせる魔術を」


アイヴァンの言葉にゼノは眉間にシワを寄せた


「もう、すでにやってるに決まってるだろ」

「……そうか」


攻撃のスピードが足りない

レックスは太刀のカスタムを外し軽くした


「とにかく、アイツの体力を削らないと倒せない。モモ、攻撃ポインタをつけてソコを一斉攻撃だ」


モモとロッソ、アイヴァンは頷づいた。

ゼノは攻撃強化魔術と防御強化魔術を発動し、仲間にかけるとドラゴンに蘇生を遅くする魔術をかけ戦闘は再開した

モモのポインタに的確に攻撃が入るがドラゴンは暴れ炎を巻き散らかす

ドラゴンよりも、レックス達の体力の消費が激しかった。


「くっ……」

「距離をとれ!手を休めるな!!」


レックスの声が響いた瞬間、ドラゴンは旋回し尻尾がゼノを叩き飛ばす


「ゼノ!!!」


アイヴァンがゼノに気がとられるとドラゴンのブレスが直撃してアイヴァンも吹き飛ばされ、レックスはアイヴァンとゼノにターゲットがいくのを防ぐため、ドラゴンの正面にたち頭を攻撃した


「こっちだ!!!」


ドラゴンの振り払い攻撃を紙一重でかわしているレックスの動きは鬼神のようだ

しかし、このままではいつドラゴンの爪が刺さってもおかしくない状態だった

ナナンは後方支援から光玉をドラゴンに投げ当て、一瞬ターゲットがナナンの方向に移るが、すぐにレックスに戻った。

レックスはスタミナが切れて、一瞬よろめくとドラゴンの爪が振り下ろされる

太刀をガードの形にし衝撃に構えるとパンッと空気が止まりドラゴンの動きも止まった


誰かが時間を止める魔術をつかっている

ほんの数秒だが時間を止めている隙にレックスは後方に下がると、すぐに時間が戻りドラゴンはおもいっきり空振りをした

レックスは瞬時に周りを見回すと崖の上にいる少女に気が付いた


「ミリア……」


※※※


最悪災のドラゴンを見下ろしその大きさと禍々しいオーラに恐怖を感じた

こんな魔獣相手に退かずに戦う彼らハンターは本当に勇敢な方々だ

私は持っている魔力を全て解放して詠唱を始めた。

破滅魔術、回復を遅らせ、身体の耐久率を下げる恐ろしい魔術

大量の魔力消耗と長い詠唱を終えて、最悪災ドラゴンにその魔術を放つ前に一瞬だけレックスと視線が重なった

レックスは目を見開き私を凝視している


騙してて……ごめんなさい


私がドラゴンに魔術をかけるとレックス達は一斉に攻撃を開始した

最悪災のドラゴンは蘇生が追い付かず体力がみるみるうちに削られる

暴れもがくドラゴンを相手にアイヴァンは一歩も引かず、レックス、ロッソ、その他のハンターたちも攻撃を休めなかった

私は魔力を使いきり意識が朦朧としながらも、レックスたちの勝利を確信してその場を去った

しばらく歩くと流石に立っているのも辛くなり、よろめくと私の身体は支えられた


「ナナン……」

「ミリア……いや、リーリア姫、ありがとう。仲間を助けてくれて」

「国に……帰ります。これまで、ありがとうございました」


私は目にたまっている涙を堪えて、小さく微笑んだ。




サルレルド国に戻り、私はずっと城に軟禁状態となった。

常に監視兵がつけられ、自由に行動できない。

まあ、無理もない。

両親は結婚をはやまったせいもあると感じて、少しは同情してくれたが、

弟達はそうではなかった。

私の部屋に毎日代わる代わるやって来て、文句を言っている。


「お姉様は自覚が無さすぎる」


長男のレイドは私より2歳下で真面目な上、人望も厚く、私より何倍もしっかりしている。

国の将来を見据えて常に最善の選択をしてくれるだろう。

スッとした体格に一見クールなタイプに見られがちだが実は熱く、そして……しつこい。


「レイド……もう一週間も毎日あなたの説教を聴いているの……そろそろ……」

「いいえ、何度でも言います。お姉様がこの国にとってどれ程重要な人物か。我々一族で一番の魔力があり、子孫に伝承する力の影響を考えると即位放棄などあり得ません!」


頭が固い所もたまにキズだ……お付き合いする女性は大変だろう。

私は耳に両手を当ててネチネチと責めるレイドの声を遮った。

わかっている。

私の魔力は多分私の子供に引き継がれる。

私が逃げたら、その力が悪用されるリスクもあることも。

それでも、私はレックスの隣に立ちたかったのだ。

ハンターとして過ごした日々は私の一生涯の宝物。

扉をノックする音がして、次男のアレクが部屋に入ってきた。

アレクはレイドより一つ下で柔らかい雰囲気の爽やか青年

王族では国一番の支持率があるが……


「兄さん、そろそろ交代ですよ。今度は僕がお姉様とお話しする時間です。ねえ、お姉様」

「う……」

「僕たちだけにメンドクサイお国事を任せて逃げようなんて、最後まで僕達一緒ですよ?」


腹黒で心がやんでいる可能性がある。

ふふふと笑っているその表情にお姉さんは心配になる。

だれか、この子の心のよりどころになってくれないだろうか……

二人ともそれぞれ、とても優秀な弟達だ。


「そういえば、お姉様の婚約は白紙になったと聞きました」


アレクが侍女が入れた紅茶を飲みながら教えてくれた。


「なんでも、先方から正式にお断りがあったと。まあ、1年以上行方不明だったから当然ですがね」

「そうね。」

「アレク、お前が裏で手を回したのではないだろうな」


レイドが疑いの目をアレクに向けるとアレクは首を横に振った。


「やるなら最初からしてますよ。お兄さん、ほら公務に行かないと」

「くっ。わかった。お姉様、またきます!」


しばらくは来ないで欲しいと思いつつ微笑み手を振った。


「……婚約候補者に僕らではない他の誰かから圧力があったようです。お姉様、心当たり在りませんか?」

「?ないけど……」

「そうですか。まあ、今後誰かから申し出があった時にハッキリするでしょう」


アレクはまた優雅に紅茶を飲み出した


「あ、アレク。あなた呪いとかに詳しいよね?」

「ええ。僕の得意分野です」


呪いが得意って、お姉さん心配です。


「男の身体を女の身体にした特殊な呪いだけど、解き方わかる?」

「……かなり高度な呪いですね。興味があります」


私はナナンに少しでも恩返しがしたいと思い、アレクにナナンの呪いの解読をお願いした。

アレクは私に貸しが出来ると喜んで承諾してくれた。

私が城に帰って半月が経とうとしていたある日、風の噂でハンターレックスがジン国から称えられ称号を貰ったらしいと聞いた。

それと同時に令嬢との縁談が進んで近々婚約発表があるとかなんとか。

まあ、ドラゴンを討伐したハンターのリーダーだ。

当然の称賛と褒美だろう。

少し落ち込んでいる私を国王は呼び出して、縁談の申し出があった旨を伝えてきた。


「この縁談を受けるかどうかはリーリエ、お前にまかせる」

「お父様。大丈夫です。もう、私は逃げませんから」


国が選んだ相手と私は結婚する。

それが、王女としての務めである。

相手を誰とも確認せず、私は快承した。


それからしばらく経ったある日、夜会への招待状が届いた

我がサルレルド国と一番の貿易国家トマルク国王の誕生会である

本来だったら弟レイドとパートナーが参加して終わりなはずが、何故か私の指名があったのだ。

どうも、トマルク国王子の指名らしい

めんどくさいと思いながらも、レイドと相談して今回は私とレイドが参加することになった

滅多に夜会に参加しない私はこういう場が苦手である

必要最低限挨拶をしたのち、存在を消して会場の隅で楽しむ皇族貴族達をぼんやりと眺めていた

しばらくして、一際視線を集めている来賓が現れた

その姿を見た瞬間、私は固まった

黒と白の礼服をしっかり着こなし金色の髪はオールバックにして整った凛々しい顔がはっきりと見える

間違いない、レックスだ。

どうやらジン国の王族と共に招待されたようだ

周りにはきらびやかに着飾った美女か沢山集まり話しかけている

私は自分の存在がバレてはいけないとコソーっと視界に入らないように柱に隠れた

大丈夫、今の私はハンターじゃなく、一国の王女

それなりに化粧して、それなりに着飾っているのだ、いつも素っぴんボサボサ頭の冒険者服じゃないから、余程の事がないかぎりバレない!

心臓をバクバクさせながら隠れていたが、やっぱりどうしてもレックスを遠くからでも見たい

そんな挙動不審な行動をしている私に一人の男性が声をかけてきた


「どうかなさいましたか?」

「いえ!別に!」

「気分がすぐれないのであれば、二階で少し休みますか?」


二階!

それは好都合だ。

ここの会場は二階の部屋から見渡せる構造になっている


「では、少しだけ」


その男性の姿も礼服でどこかの貴族といった感じで純粋に親切だった

部屋に案内されて、近くのメイドに私の事を頼んで会場に帰って行った

私は部屋の窓ガラスから会場を見下ろすと思った通りレックスが遠目だけど見えた

代わる代わる美しい令嬢と踊り、少し疲れているようだ

ああ、あの中の誰かとレックスは婚約しているのかも……

私は胸がギュッと締め付けられた

夜も更けて、夜会の終わりが近づきレックスも帰る様子だ

その後を数名の令嬢が追いかけている

私も帰ろうとレイドを探しているとレックスと踊っていた令嬢が話をしていた


「レックス様素敵だったわ」

「ジン国で時期騎士団長を期待されているらしいわね」

「聞いたわ。現騎士団長の娘と縁談予定とか」

「ハンターを辞めて騎士になりたいと申し出てるらしいわよ」

「あんな野蛮なハンターのまま、終わりたくないわよね」


クスクスとハンターを侮辱する事を言っている令嬢たちに私は腹が立った

彼らハンターが依頼をこなすことでこの世界がどれ程助かっているのか知らないのだ

国や貴族が手をだせない見捨てた事まで、依頼を受けて彼達は命を懸けて挑戦してくれる

私はそんなハンター達を尊敬している

しかし、レックスはハンターから騎士になりたい……

真実は知らないが、正直ショックだった。

騎士になって、令嬢と婚約。

地位も名誉も手に入るチャンス

普通の殿方なら、迷わずそうするとわかっていても、やはり腹が立った。


月日は流れて私の婚約者さまとの面会の日がとうとうはやってきた。

いつもならうるさい弟達が最近妙に静かなのが気になるが、私は自分への被害が少ないので良しとした。

城の一室で婚約者さまが待っているので私付きの侍女と監視兼護衛兵ふたりと訪ねると、部屋の入り口に見覚えのある人物が立っていた。

大きな体格に濃いグレーの髪が特徴的なロッソがハンター服ではなく、騎士の装いをして扉前で待機していた。


「ロッソ?」


私に気が付くと小さく微笑み頭を下げた


「リーリア姫、ご無沙汰しております」

「どうしてここに?それに、その服装」

「申し遅れておりました。わたしクロエ・ロッソは貴族の次男でして、王子護衛についておりました。この度、配属が代わり要人の護衛としてこちらに」


つまり、私の婚約者さまの護衛ということか。

となると、私の婚約者さまはジン国の人なのね。

私は懐かしい顔に逢えて嬉しかった。


「そう……ナナンは元気?」

「……はい。とても」


ロッソはなぜか微妙な表情をしたが私は深く聞かない事にした。

ロッソが部屋の扉を開けると窓際に外を眺めている正装をした紳士の後ろ姿が見えた。


「お待たせして申し訳ございません」


私は頭を下げて挨拶をして頭をあげると目の前の紳士が振り返りその姿を見て固まった。

金色の髪はオールバックに整えられ、よく鍛えられた身体に白い騎士の正装がより彼の魅力を引き立てている。

透き通った青い瞳に私は捕らえられ目をそらせなかった。


「レックス……な、な」


なんで!?と聞きたいが頭の処理が追い付かない。

レックスは表情ひとつ変えず私に近付いてきた。

私の異変に気が付いた侍女がこっそり耳打ちをする


「リーリエ様、こちらジン国騎士特別隊長のタシャル・レックス様です」


私のすぐそばまで近付きレックスは右手を自身の左胸に置いて軽く頭を下げた。


「お目にかかり光栄です。リーリエ姫」

「こ、こちら……こそ……」

「少しふたりでお話しがしたいのですが、庭園を歩きませんか?」

「は……い」


紳士らしく手を差しのべ、その手をとった私をエスコートして庭園に向かうレックスに私はタラタラと変な汗が出てくる。

どうなっているのだろうか?

なんで、私の婚約者としてここにいるのだろうか?


「美しい国だな。サルレルド国は……」


さっきの紳士気取りと違い、ハンターの時のレックスの口調に戻っていた。

エスコートされている手汗を私は気にしながらな黙って頷く。


「この国をお前は捨てようとしていたのか」


その言葉にびくりと小さく怯えた。

するとレックスは添えていた私の手を大きな手で包み込むように力が入る


「ミリア」

「騙してて、ごめんなさい」


私はレックスの顔が見れず、うつむき小さな声で謝るとレックスのため息が聞こえた


「俺が怒っているのはソコじゃない。」

「え、でも」

「勝手に……いなくなったことだ」

「え……」


それからしばらくお互い無言で庭園を散歩して部屋に戻った

常に護衛兵と侍女が一定距離にいたので、あまり詳しい話が出来ず、レックスは本日夕食会にも参加してどうやら来賓客として城に泊まるようだ。

明日の夕方、ジン国に帰る予定らしい。

色々と話したい気持ちはあったが、何から話していいのかわからずにいた。


なんとかしてレックスとふたりっきりで話す時間を作りたいと部屋で考えていると、夜中に私の部屋の扉をノックする音が響いた。

扉を開けるとレックスがそこに立っており、私の監視兼護衛兵ふたりは複雑な表情だ


「話がある、中に入っても?」

「どどどどどうぞ!」


突然の訪問者に私はパニックになりながらも部屋の中に招き入れた。

やっぱりレックスの顔を見ることができず、俯いて部屋の中に案内すると背後から包むようにレックスに抱きしめられた。


「れ、レックス!?」

「なんで、勝手にいなくなった」

「だって……私は役立たずだし、それに……レックス私をチームから外したじゃないですか」


そして、レックスはハンターを辞めて騎士になっている

なんだかとても悲しくなって私を抱きしめた腕をほどくと、その手を捕まれ

体制を崩してそのまま床に押し倒された。

レックスに両手首を床に抑えられ、彼が覆い被さる形となり私は完全に逃げ場を失った。

あわせる顔もなく、その透き通った青い目を見る勇気もない私は、限界まで顔を横にそ向け苦痛な表情を浮かべて遠くを見た。


「おい、俺を見ろ」

「い、嫌です…」


レックスは私の左手首を抑えつけていた右手を離し、私の顎を掴み無理やり正面に向けさせた。

抵抗しようと力を入れたが、グギッと首に痛みが走り抵抗をすぐに止めると、今一番見たくない顔が目の前にしかもドアップである。

冷静を装っているが、確実に怒っている目だ。


「黙って俺の元を勝手に去って、そんなこと、俺が許すと思っているのか?ミリア」

「わ、私の行動にレックスの許可がいるの?魔術師が嫌いな……っ!」


私が喋っているのもお構い無しにレックスは自分の唇で私の唇を防いだ。

突然の口づけに自由になっている左手をレックスの顔に当て力いっぱい突き放すが、レックスの力に対して突き放す事が出来ない。

少し離れた隙に私は恥ずかしさと怒りで火をふきそうなくらい熱く真っ赤になった顔を横に背けた。


「な!なにするんですか!!無礼ですよ!」


一国の王女を押し倒し、突然口づけをするのは不敬に値する

それが、仮に婚約者でもだ


「お前キスも知らないのか?」

「知ってますよ!そのくらい!なんで」

「……好きだからだろ」

「からかわないで下さい!!」

「からかってない!」


レックスの瞳は少し悲しそうに愛しいモノを見る目に変わる


「お前を失うのが、怖くなった。今まで、ハンターをしていて、いつ死んでも後悔はないと思っていた。だけと、あのドラゴンとの戦いの時、本気で死を恐れた。自分が死ねばお前が悲しむ。お前が死ぬと俺は……耐えられない。そう思った。」

「っ……そんな……」


私を守るためにチームから外した。

信じられなかった。

レックスの言葉が思いが、私の想像では追い付かない。

心が締め付けられ、目が熱くなり涙が自然と溢れてくる。

レックスは押さえつけていた手を離し、私を優しく抱き締めた。


「ミリア……」


泣きそうになるのを我慢しながらも、レックスの温もりと呼吸を感じて胸が熱くなった

レックスの私を抱きしめている手は少し震えている

あんなにいつも堂々として、何に対しても冷静に対応しているのに、怯えて震えているなんて

私は本当に心配をかけたのだと心が苦しくなった


「っ……ごめんなさい。本当に……私は」

「言わなくていい。」


優しく囁くレックスの声に私は黙って私を抱きしめているレックスを強く抱きしめ返して静かに泣いた。


それから暫くお互い沈黙が続いてレックスが私を抱き起こす

よく考えたら、私はさっき無理やりキスをされたわけで……顔が火を吹くように熱くなりれっくに身構えた

そんな私にレックスは苦笑を浮かべた


「ミリア、いやリーリエ姫。どうかこの俺が貴方の婚約者になることをお許し頂きたい」


胸に左手を当て、正式に婚約を申し込んでいるレックスに私は「はひ!」とひっくり返った情けない声で返事をしてしまった……

レックスは笑いながら「またな」と言って軽く私の頭を撫でると足早に部屋を出て行った

私の心臓はドックンドックンとうるさく恥ずかしさと嬉しさでいっぱいいっぱいだ。

だって、あの、レックスが私の婚約者ですよ!

やっと実感が沸いて喜びと信じられないといった感情が溢れ出す

その日私は興奮して一睡も出来なかった


次の日の朝、私はひどい顔で朝食をとっているとレイドがやってきた。


「おはよう、レイド」

「……お姉様、なんですその顔」

「え?いつもの顔よ」

「ヘラヘラにやけているけど、目の下にクマが出来てます」


私のにやけ顔は昨日からずーと止まらない

そんなにひどい顔になっているのかと私は慌てて顔のマッサージをした。

酷い顔をレックスに見せるわけにはいかない

まあ、ハンターの時はほぼ毎日素っぴんだったが。

必死にマッサージをやりだした私に少し呆れてレイドは私の向かい側に座った


「そういえば、レックスと私の婚約、よく認めたわね」

「功績と能力を評価したまでです。お姉様が愚かな考えを起こす原因をこちらに抱え込むのが得策と思いましたから。外交的にも有利になりますし」

「?」

「お姉様は知らなくていいです。」


どうも国同士のやり取りもあるようだが、その辺りはすべてレイドにお任せしている

私が目を細めて紅茶を一口飲んでいると


「早く沢山子供を作って頂き、ゆくゆくは有能な人材を我が国に定着させるよう努めて」

「!ごほごほ」


子供を作ると聞いて私はむせてしまった

侍女がハンカチとタオルを急いで準備して私に駆け寄った

私はハンカチを受け取り咳き込む口を抑え涙目になる


「れ、レイド?!」

「当然です、挙式も早めますのでいつでも励んで下さい」


弟にそんなこと急かされても……

その日レックスを見送る時もレイドのせいでまともに顔を見ることが出来なかった。

優秀な弟レイドは有言実行とばかりに手際よく挙式までとんとん拍子で進めていった

そして、あっという間に結婚式当日

あの日初顔合わせからレックスと面会がなく、まさかの結婚式である。

今だにもしかしたら夢かまぼろしかもしれないと思っている。

花嫁として盛大に着飾られ、国のお姫様として恥じない花嫁が出来上がっていた

式場の準備など、あれやこれやはすべてレイドが仕切っているようだ。

式場はサルバトル国の神聖な森にある聖殿で行われる。

来賓客はより限られた関係者だけだ。

この後の城に戻ってからの披露宴パーティーはすごい人数らしいと言っていた

待ち時間、自分の姿を鏡で眺めてやっぱり夢かも……と考えていると扉のノック音が響く

私が返事をすると、そこに入ってきたのはオレンジ髪の高貴な雰囲気の青年とその側近、そして弟のアレクだった

ふんわりと微笑むオレンジ髪の青年を私は凝視する


「……もしかして……ナナン!?」

「ええ」

「え!?!?」

「アレク殿おかげで、こうしてもとの姿に戻ることが出来ました。本当にありがとうミリア」


少し涙目で微笑んでいるナナンいや、ナジル王子の仕草は間違いなくナナンだ。

私も心より良かった微笑み返すとナジル王子が突然私を抱き締めた

一緒にいた側近とアレクは顔を曇らせている


「リーリエ姫。結婚……おめでとう」

「あ、ありがとう」


ナジル王子は私の耳もとで小さく囁いた


「好きだったよ……ミリア」


え?

その言葉を聞いて私が赤面して固まっているとアレクがナジル王子の首根っこを掴んで私からベリッと離した。


「さあ、これ以上お姉様の邪魔をしてはいけないので、行きますよナジル」

「わかってるって。またね、リーリエ姫」


アレクに引きずられるようにナジル王子は控え室を出て行った。

それから少しして、私とレックスの結婚式が始まった。

レックスのタキシード姿に私は見とれてしまい、夢見心地のまま結婚式が進み、披露宴を迎え、あっという間に私とレックスの結婚式が終わった。

その間、あまりの忙しさに、私はまともにレックスと話をすることが出来なかったが、精悍なレックスのタキシード姿を目に焼き付けることが出来たので満足だ。


そして……


「……」


私は今、レイドに準備された新居の寝室のベットの上で正座をしている。

少し透け度が高い寝着を身に付けて。

いわゆる、これは初夜というやつでして……

顔を真っ赤にして俯いて、レックスが部屋に入ってくるのを待っている状態だ。

夢かも、いや、夢じゃないのよね。

これまでの事を思い出して私はまだ現実を信じきれてなかった。

憧れのレックスが私と夫婦……。

ガチャりと寝室の扉が開き、私はその音にビクリと怯えだ。

入ってきたのはガウン姿のレックスは私を見ると少し困った様子で頬を赤くして口元を手で隠していた。

そして、ゆっくりとベットに近づき腰を掛けた。


「あ、あの!」

「今日は疲れただろう。お疲れ様」

「いえ……レックスこそ、沢山の来賓者のお相手で大変だったと思います」

「そういえば、ハンター仲間たちも祝福したいと連絡があった。落ち着いたら、お忍びで行こう」

「え!本当に!」


私は嬉しくで俯いていた顔を上げると目の前にレックスの優しい瞳があった。

初めて出会ったあの日から憧れていた葵い美しい瞳だ。

その瞳に吸い込まれるように私とレックスは唇を重ねた。


夢じゃない……

私は幸せでいっぱいだ。


レックスは私と夫婦になり、ジン国とサルレルド国を繋ぐ絆として貿易警護を主体とする部隊の隊長となった。

私はというと、王族から離れて子育てに忙しい毎日を過ごしている

サルレルド国内にある屋敷には、訪問客が多くいつも賑やかだ。


そして、皆それぞれ私達の子供を狙っている。

それもそのはず、最強のハンターと治癒魔法が使える血統の子供なのだから。

なので、何事にも立ち向かえるよう今日も子供たちをバシバシと鍛えている。


おしまい

最後まで読んで頂きありがとうございます!

本編はこちらで完結です。

おまけ追加予定です!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ナナン…切ないねぇ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ