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16話

 部屋に足を踏み入れた時、本来なら感じる視線や騒めきが一切聞こえない事に気が付く。そして、全員が部屋の扉が勢いよくしまった。

 ゴブリンジェネラルにその取り巻き達が待ち受けているはずの部屋の中は恐ろしいほど静まり返っていてゴブリンの一匹も見つける事が出来なかった。しかし、その代わりに部屋の奥で佇んでいる存在に気が付く。

 周りを覆うように漂う黒い煙が揺らめく度に見える姿から力強さを感じ、所々に赤黒い汚れと頭から生えた一本の角が見えた。


「ゴブリン、ジェネラルたちは、いない、ようだけど、それよりも、厄介なのがいる、わね……」


 まだ俺たちに興味を持っていないのか、それとも気が付いていないの何も反応を見せないそれ(・・)の姿に俺や幸太だけでは無く、幸もその強さを感じ取ったのだろう。


「幸、俺たちでアイツを倒せそうか?」


「……ふぅ、分からないわ。こんな階層で出てくるモンスターでは無いけど、もともとはオーガかそれに近いモンスターがイリーガルになったんだと思う」


「……オーガだったとして三十後半の階層から四十前半の階層のどこかにいたって事になるよな……?」


「えぇ、そうよ。恐らくそこからここにたどり着くまでにどれくらいかは分からないけど、ここのゴブリンジェネラルたちは確実にアイツに喰われてるでしょうね」


「あの、だったら早く逃げた方が良いんじゃ」


「残念だけどそれは出来なさそうよ」


 幸の言うとおりだった。どうやら俺たちに気が付いたソイツは俺たち三人を興味深そうに見ていた。

 そして、その視線を感じていると視界の淵にキラリと光る物が落ちている事に気が付く。


「どうやらゴブリンジェネラルたちだけじゃなくて何人かの人間もやられたようだ」


「そう。なら、油断は絶対にできないわね」


 幸がいたパーティーの最高到達階層は確か七十階を超えていたはず。その幸から油断できないって言葉が出るという事はかなりハードな戦いになりそうだ。


「たぶんだけど、あのモンスターはもっと深い所で出てくる鬼の一種だと思うわ。……ただ、本来ならその肌色や角の色から呪術の事も分かるんだけど……」


「じゅ、呪術ですか?」


「えぇ、私たちが魔法を使えるようになるようにモンスターも使える奴がいるのよ」


 幸太が驚いた風に聞いているのを聞きつつも俺や幸はその鬼から目を離せない。

 幸太よりは確実に格上の存在で恐らく俺も一人だけだとまず勝てない相手だろう。


「っと、そんな話をしてる場合じゃないわね」


「そのようだっ!!」


 ついにその鬼は俺たちを獲物と認識したようでまるで嬉しそうに顔を歪めると大きな唸り声を上げ、動き出した鬼はその体格からは予想できない速度で俺たちの前に来るとその拳を振り下ろす。

 その速度に驚きながらも俺たちはその一撃を避ける。


「は、早い!」


「ちっ、大丈夫か、幸太!!」


「なんとか!」


 振り下ろされた一撃は地面を砕き、拳自体を避けた俺たちにその欠片が襲い掛かってくる。

 だが、そんなことを気にするよりも鬼の行動を見ようと目を向けると既に体勢を立て直した幸が斬りかかっていた。


「幸太はあまり攻めるなよ!」


 返事も聞かずに俺は幸のサポートをする為にタイミングを合わせて鬼に斬りかかるがあっさりとそれは避けられてしまう。

 それでも追撃を掛けた幸によってその身体に無数の傷がつく。


「くっ、少し硬いわね」


「あの様子だとあまり効いていないようだな」


 お互いに鬼に対してうまく傷を負わすことが出来たとは言えない状況に焦りを覚えながらもどうにかして倒すために考える。

 幸のつけた傷からは青黒い血が流れだしているがその量は少なく、鬼の行動を妨げるような物でもない。しかし、幸の武器であの傷だと俺のナイフではまともな傷を負わせれるか不安になるぐらいだ。


「どうやら傷つけた事で怒ったようだな」


「そのようね。まぁ、どっちにしろアイツを倒さなきゃいけないんだから良いんじゃないかしら?」


「まぁ、なっと……」


 そう話している間にも鬼は俺たち―――特に傷つけた幸を狙って襲い掛かってくる。

 最初よりは隙の増えたように感じるその攻撃を避けながら何とか幸のサポートをする為にもナイフを振るう。

 俺が斬りつけようとすることで幸に攻撃できない事にイラつきを覚えるのか徐々に腕の振りや動き方が大きくなっていく。


「そこっ!!」


「行きます!」


 一瞬の隙を狙って幸が繰り出した攻撃は綺麗に鬼の目へと当たり、今まで以上の痛みを感じた鬼は幸への攻撃を忘れてその痛みに耐えきれず暴れまわり始める。

 そして、今まで離れた位置にいた幸太もその様子に俺たちと同じように攻撃しようと向かってきた。


「あんまり無理はするなよ!」


「分かってます!!」


 見えなくなった視界と感じる痛みに耐えきれない鬼はそれから逃げるように暴れまわるが見当違いな方向へと腕を振り回し、その間に俺たちが攻撃を与えていく。

 傷が増え、そこかしこから血を流し始めた鬼の動きは徐々にゆっくりとそして緩慢になっていくが、それでも未だに暴れる事を止めない。


「これでもダメなんですか」


「致命傷と言えそうなのは目のみだからな!」


「少し時間を稼いでくれないかしら?」


 やっぱり俺や幸太ではそこまで傷を負わす事が出来ずにいると幸が何か思いついたのかそんな事を言ってきた。

 このままではどんどんと辛くなるのは俺たちの方になる可能性も有ると思った俺はその言葉に頷くのだった。

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