15話
いつもならそこまで苦戦するはずも無くたどり着けるはずの二十九階で休憩しようと二人に声を掛けてセーフティーエリアに向かった。
ここに来るまでも多くのモンスターと戦う事にはなったけど、三人いた事や俺がアイテムボックス持ちだった事も有ってそこまで困るような事態にならなかった。もっとも、困るような事ではなくて、面倒事が有ったのは事実でそんな事はこれからの事を考えると一時的に忘れても良いだろうな。
「やっぱり多かったな」
「本当にそうね。私も勘違いかなって思いたかったんだけどね……」
「そ、その本当に大丈夫なんですか?」
「原因が分からないから絶対にとは言えないがな」
「まぁ、それでもここまで来てイリーガルに遭遇していないならそこまで心配するような事じゃないわ」
既に俺たちのいるのは二十九階のセーフティーエリア、しかも三十階に行く方が早いという位置だからこの階だともう脅威になるモンスターがいないと思う。
そして、次の三十階はボス部屋だからそこまで気にする事は無いだろう。勿論、この三人で挑んだ時に出てくるゴブリンの数がどうなるかでどれくらい苦労するかは分からないが。
「今日の稼ぎとしてはいつもの倍以上だからここら辺で帰るっていうのも一つでは有るんだけど……」
「そうね……」
そう、既にいつもの倍以上の稼ぎが有るんだ。これが幸太と上がった俺のステータス効果なのかは分からないけど帰るっていう選択肢を選んでも良いんじゃないかな。
そんな風に言葉と共に幸を見るとどうやら幸自身もそれを少しだけ考えていたのか顎に手を当てて悩み始める。
俺としては先に進むが6、帰るが4といったところだが、幸が帰るって言ったら反対しないで賛成するぐらいには気持ちが傾きかけている。
「……やっぱり、先に進みましょう」
「それで良いのか?」
「えぇ、幸太も良いでしょ?」
「えっ、あっはい」
「じゃあ、ポーションを先に渡しておきますね。流石にボス相手だと受け渡しや他人に使う余裕が有るか分からないんで」
色々有って途中で他のパーティーに恵んだとはいえ、まだまだ余裕は有るから恐らくボス戦は問題無いだろう。ただ、言った通りに戦い始めたら他にまで気を回す余裕は無いだろうからアイテムボックスからポーションを取り出して二人に渡す。
受け取った二人が使いやすい位置にポーションをしまっているのを見ながら俺は他に渡す物が無いかアイテムボックス内を確認する。
ゴブリン相手だとこれ以外で必要そうな物は無さそうかな……?
「じゃあ、行きましょう」
「そうですね。早めにボス倒して次の階層で休みたいですし」
「頑張りましょう!」
気合を入れて返事をする幸太の姿に俺も幸も笑みがこぼれそうになる。
そして、それから次の階に辿り着くまでの間、短い時間とはいえ一切モンスターと遭遇しないという事態に少しだけ安堵と疑問に思いながらも歩き続け、たどり着いた三十階は久しぶりに来た事も有ってが不気味な雰囲気を漂わせているように感じた。
「いつもこんな感じでしたっけ?」
「……たぶん、今回はボスに何らかの変化が有りそうだわ」
睨みつけるように目の前に有るボス部屋の扉を見つめる幸の視線には嘘が一切混じっていない事が分かる。
そうなるとこの不気味な雰囲気はかなりのレアケースって事になる訳で、その事からこの部屋の中にいるのは通常よりも強力なボスや取り巻きたちなんだろう。
正直言って嬉しくないな、本当に。
通常よりも強力なモンスターって事はドロップも良いんだろうけど、それ以上に苦戦する事が予想できるもんな。
「これはいつも以上に気を引き締めていかないといけないわね」
「大丈夫そうですか?」
「悪いけど、幸太には出来るだけ戦闘に混じらないでほしいわ。まだしっかりとは分からないけどこの感じだとサポートする余裕が有るか分からないから」
「それは良いですが……」
不安そうに俺を見てくる幸太に俺はアイテムボックスの中からいくつかの物を取り出して渡しておくことにした。
たぶん、幸がそういうって事は結構な激戦になりそうだろうし、それに合わせて俺も幸太にあまり被害がいかないように動く方が幸にとっても気が楽になるだろうから。
「とりあえず、幸太は一番後ろで俺が抑え損ねたモンスターを狩ってもらう事にしよう。ついでにそれに合わせてこれを渡しておく」
「はい、分かりました……」
「勿論、使い方とかは分かるだろうからヤバそうだったら俺か幸が指示するから使ってくれ」
受け取った物をしまう幸太を横目に俺は視線を幸に向けると渡した意味を理解しているようで頷いているのが見えた。
本当は俺が持ってた方が良さそうだけど、流石に今回は持っててもいざという時に使う余裕が無さそうだから。
「でも、ボス部屋って本当に分かりやすいっていうか、なんか強敵が待ち受けてるって分かるようになってるんですね」
「そうだな。俺も最初は同じようなことを思ったよ」
なんかゲームみたいですねと言いながら扉へと目を向けた幸太に出来るだけ不安を与えないように話を続ける。
「まぁ、実際ここまで定番というかありがちな感じだと有る意味がっかりするかもしれないけどな」
「そろそろ行くわよ」
睨みつけるように扉を見ていた幸が俺と幸太に顔を向けるとそそくさと扉に近づいて行く。
さて、俺も気持ちを切り替えないと。
目を閉じて深く深呼吸を数回して今まで考えていった事をすっぱりと忘れると幸に続くように足を進め、それを見ていた幸太も遅れないようにと駆け足で着いてくる。
不気味な雰囲気が似合う装飾の付いた扉は近づいてきた俺たちに合わせるように重々しくゆっくりと開いていくのだった。




