14話
どんどんと下に降りて行くと何かいつもと違うような気がした。
「ねぇ、なんかいつもと違うような気がしない?」
「あぁ、確かに」
どうやら幸も同じことを思っていたようでそう言ってくる。まぁ、幸太はいつもがまだまだ分からないから首を傾げているようだったが。
それは良いとしてもホントいつもと何かが違うんだよね。その何かが分かればいいんだけど。
「いつもより戦闘が多いのか?」
「そうね。確かにそれは有りそうだわ」
ふと思い出した事を口にしてみると幸も思い当たるようだった。
ただ、今までダンジョンに潜ってきてこんな事に出会った事が無いだけになんでこんな事になっているか不思議に思ったが、ダンジョンなんて何が有ってもおかしくない。
「だから、途中で引き返す人たちもいたんですね」
「だろうな。流石に戦い続けるって結構辛いからな」
普通に何回も戦っていたら精神的にも物資的にも辛いだろう。それにどう考えても今日の様子がおかしい事ぐらいは余程の探索初心者じゃなきゃ気が付く筈だ。
直ぐにそう思ってしまう程にモンスターが襲い掛かってくるし、それにいつも以上に必死になっているような気がする。
そう考えている中でも通路の奥から数匹のラットが駆け寄ってくるのが見えた。
「また、来たよ」
「はい、また前に出ますね」
「分かったわ」
迎え撃つように前に出た幸太をサポートするように俺と幸は動く。
先頭を走っていたラットは幸太の存在に気が付くと立ち止まり、それに合わせるように他のラットたちも立ち止まって幸太を含めた俺たちを警戒するように鳴き声を上げる。
ここまで来るとラットが五匹でまるで通路を塞ぐように広がって俺たちと向かい合っている事が分かる。
そして、直ぐに真ん中のラットが気合を入れるように大きく鳴くとそのまま俺たちに向かって飛び掛かってきた。
「せいっ」
「そこっ!」
当然といえば当然の結果でラットは幸太に斬られ、最初のラットの影に隠れて飛び掛かってきた一匹はそれに気が付いていた幸が対応する事でその命を散らした。
幸太はそれを知ってか知らずか残りのラットを倒すために進み、残っていたラットたちもこのままではまずいと思ったのかそんな幸太にどうにかして傷を負わせようと動き始めた。
「あの様子だと大丈夫かな?」
「大丈夫でしょ、たぶん」
そう言いながらドロップ品を拾っていると直ぐに倒し終わったようで幸太が戻ってきた。
「終わりました。あと、奥も少し確認してきたんですけど、直ぐに襲われるって事は無さそうでした」
「ありがとう」
幸太が回収してきたドロップ品を受け取る。
相変わらずのドロップ品質と言えばいいのかアイテムボックスに入れながらその品質の高さに驚いてしまう。
いい加減に慣れないといけないのは分かっているんだけど、今までの経験とかからこうも良い物ばっかりというのはね。
「この階は特に寄り道するつもりは無いけど良いかしら?」
「別にいいとは思うんですが、良いんですか?」
幸の言葉に幸太が不安そうに答える。
まぁ、幸太の言いたい事も分かる。いつもと違うってのは警戒するのは当たり前だからね。ただ、そこまで気にするほどかと考えてしまうのは多いとはいえ、ダンジョンに慣れた人間からするとまだ許容範囲内だと思える経験が有るからだろうか。
「確かに幸太が思ってる事不安が無い訳じゃないけど何とかなるさ」
「そうね。進もいざという時用にリターンストーンは持ってるでしょ?」
「あぁ、必要経費として認められてるから買って持ってる。それに三十階までだったら特異進化種が出ても俺と幸がいるから大丈夫だろう」
「そうね。それにボス部屋を抜けて下の階層のモンスターが上がってくるなんてまずあり得ないからもう少しは大丈夫でしょ」
そう言った俺と幸の様子から少しだけ不安が無くなったのか幸太は再び笑顔を見せ始める。
この先の事を考えると今回の事で少しでも慣れてくれると助かるんだけどな。まぁ、いざとなれば幸と相談してモンスターハウスに突っ込む事も考えておくか。
「まっ、様子見ながら三十階まで行ってみてヤバそうなら引き返せば良いさ」
「そうね。さっきも言った通りボス部屋が有る限りは大丈夫なんだから」
後ろを歩く幸太にそう話しながら俺と幸は先に進んでいく。
取り合えず、あと一回くらいは休憩としてセーフティーエリアに寄ってからボスに挑みたいところだな。後で幸にも言っておくかな。
そんな事を考えながら俺は足を進めるのだった。その先に何が待ち受けているかも知らずに。
急げ、急げ、急げ。
早くしないと俺たち以外にも被害が出てしまう。
「リーダー、先行ってください!!」
どうやら誰かが遅れ始めたようだった。
俺は足を止めるか一瞬だけ悩んだが、言われた通りに先を目指す。
元々、今回の事は別に報告する義務はない。だが、それによって出る被害によってはダンジョンが一時的に立ち入り禁止になってしまう。そうなってしまうと俺たちとしても稼ぎが減るから報告する方がマシだった。
勿論、意図的にその状況を作り出していると判断されてしまえばその責任すら取らされる可能性が有るからっていうのも理由だ。だから、俺はダンジョンから戻った瞬間に動き出した。
協会に駆け込むように走りこんで俺たちは自分たちの格好も何もかも気にせずにカウンターへと向かった。
「すまない! 緊急事態だ!!」
どうやら俺たちが入ってきた様子からただ事じゃないと思っていたのか受付はすんなりと責任者と会えるように手配して俺たちを奥の個室へと案内してくれた。
「待たせたな。私が責任者の貞本だ、それで緊急事態とはいったい?」
「特異進化種が出た」
待つこと数分で来た貞本は俺たちを胡散臭そうな目で見ながらそう言ってきたが、直ぐに俺が答えた内容に一瞬だけ固まる。
「しかも、三十階のボス部屋に入ってきた!」
「嘘ではないんだな?」
黙り込んだままの貞本に追い打ちを掛けるように俺は自分たちがどこで遭遇したかを教えると強い目で睨みつけるように俺を見ながら確認してくる。
俺が頷くとようやく貞本も事態をしっかりと認識したのか扉の前に立っていた従業員に指示を出し始める。
「……報告、ありがとう。直ぐに対応させてもらう」
「あぁ、早くしてくれよ。じゃないと……」
慌ただしく出ていく従業員を見送った後、少し話して俺たちは協会を後にした。




