13話 魔都 準備フェーズ
●主人公視点
出発の日になりました。
どうも、修羅です。
現在、家の入口で荷物を確かめています。
水。
食料。
薬。
着替え。
武器の手入れ道具。
それから、街へ納める予定の薬草と保存食。
収納鞄の口を閉じて、肩へ掛ける。
前より荷物は増えた。
でも、重さには余裕がある。
「……よし」
顔を上げると、リィナさんが最後の容器を棚へ戻していた。
留守中、家へ残しておく分。
持っていく物と混ざらないよう、布の色を変えてある。
「こちらも、大丈夫です」
「ありがとうございます」
その横では、イトが自分の小さな鞄を抱えていた。
中身は、替えの服と布。
自分で持つと言ったので、軽い物を入れてもらった。
「イトも、準備できました?」
頷きが返る。
「できた」
「じゃあ、行きましょうか」
その前に、管理画面をもう一度開いた。
魔力供給は正常。
猪も、蜘蛛も、盾持ち蜥蜴兵も、指定した場所にいる。
留守中に来る村の人たちの登録も、確認済みだ。
俺は広間を見渡した。
机。
椅子。
掛けてある調理器具。
寝床。
ちゃんと、帰ってくる場所がある。
「……留守番、お願いします」
入口の壁にいた蜘蛛が、前脚を動かした。
猪は、床へ鼻をつけたままだった。
そこ、掘らないでくださいね。
〈いよいよ出発!〉
〈熊は留守番じゃなくて未召喚〉
〈ちゃんと帰ってこいよ〉
「はい。帰ってきます」
斧を持ち、入口をくぐる。
森の朝の空気が、顔へ触れた。
◇
集落には、既に荷車が来ていた。
二台。
前に帰ってきたときより、一台少ない。
ただし、積まれている荷物は、きっちり整えられていた。
村の人たちが作った革製品。
採集した素材。
乾燥させた薬草。
その横で、マルクさんが長老と話している。
「では、こちらの受け取りを確認しました。代金と次回分の品物は、帳面の内容で」
長老が頷く。
職人さんは、届いた針の一本を指で持って見ていた。
その顔が、少しだけ満足そうだ。
俺たちに気づいたマルクさんが、顔を上げる。
「おはようございます。間に合いましたね」
「おはようございます。すみません、待たせました?」
「いえ。こちらも、今終わったところです」
視線が、俺の肩へ向く。
黒い毛皮の外套。
補強された籠手。
背負った斧。
「……よく、お似合いです」
「ありがとうございます。ちょっと、暖かいですけど」
朝は、いい。
昼は、少し暑いかもしれない。
〈熊皮だからな〉
〈脱げるときは脱げw〉
荷車の向こうから、ドランさんが出てきた。
「積む物は、それで全部か」
「はい。納品する分は、別にしてあります」
収納鞄から、包みを出す。
リィナさんが、内容と数を書いた紙を添えた。
マルクさんが受け取り、確かめる。
「ありがとうございます。到着後、担当窓口で確認してもらいましょう。運ぶ間は、こちらで預かります」
包みが、荷台へ積まれていく。
その様子を見ていると、後ろから声がした。
「修羅」
ガドだった。
槍を片手に、俺の前へ来る。
「家は、見ておく」
「お願いします。何かあったら、無理せず連絡してください」
「お前もな」
俺は、口を閉じた。
ガドの目が、こちらを見ている。
「……はい」
頷くと、職人さんも寄ってきた。
俺の籠手を掴み、留め具を一度引く。
外套の紐。
腰の短剣。
足元。
一通り見てから、手を離した。
「壊れたら、直す」
「はい」
「壊れる前に、戻れるなら戻れ」
俺は、少しだけ笑った。
「分かりました」
子供たちが、荷車の周りへ集まってくる。
イトが手を上げた。
「いってきます」
小さな手が、何本も上がる。
「帰ったら、話して!」
「でかいの、いる?」
「また強くなるの?」
俺は、順番に頷いた。
「帰ったら、話します。何が来るかは、まだ分からないですけど」
できれば、怖い話ばかりにはしたくない。
俺は斧の柄を握り直し、荷車の横へ立った。
マルクさんが、先頭を振り返る。
「では、出発します」
車輪が、動き始めた。
◇
帰りと同じ道を、今度は東へ進む。
谷沿いの古い道。
細い橋。
荷車の車輪が落ちないよう、何度か先へ回って確かめた。
俺は、押す側に回る。
坂を越えたところで、ドランさんが声をかけた。
「力は余ってそうだな」
「このくらいなら」
「なら、前を見ろ」
俺は顔を上げた。
低い枝。
角へ、ぎりぎり。
「……ありがとうございます」
同じ注意を、前にも受けた気がする。
〈体は強くなっても枝には引っかかる〉
〈角の弱点〉
〈防衛前に森で装備壊すなよw〉
荷台では、リィナさんが納品する包みを見ていた。
揺れで位置が変わっていないか、時々確かめている。
イトは、その隣。
人の姿で乗っていたけど、長い移動の間は無理をしないことにした。
途中から蜘蛛へ戻り、荷台の端に敷いた布の上で休んでいる。
白い腹が、ゆっくり揺れる。
車輪の音。
護衛同士の短い会話。
前を歩くマルクさんの声。
同じ道でも、前より遠足のような気分にはならなかった。
荷車に積まれた物が、ヴァルグへ届く。
それを使う人たちが、待っている。
俺は、足元の石を一つ脇へ寄せた。
◇
黒角の峡谷では、短い休憩を取った。
砦の前には、前より多くの荷が集まっていた。
油の樽。
食料の袋。
縄で束ねられた槍。
兵士たちが、それぞれの行き先を確認している。
ガルゼンは、広場の端にいた。
俺たちを見ると、ゆっくり顔を上げる。
「街へ、行くか」
「はい。ヴァルグへ」
俺の装備へ、視線が動く。
熊の外套。
籠手。
最後に、斧。
「熊を、使ったか」
「はい。職人さんに作ってもらいました」
ガルゼンが頷く。
今日は、木の棒を渡されなかった。
それが少し意外で、俺は立ち止まったままになった。
「……あの」
「何だ」
「今日は、振らなくていいんですか?」
ガルゼンが、俺を見る。
少しだけ、口元が動いた。
「振りたいなら、持ってこい」
「いえ。今日は、移動があるので」
〈自分から訓練を求めかけたw〉
〈染みついてる〉
〈木の棒を見ると構える体になってる〉
ガルゼンは、背後の荷物へ顔を向けた。
「兵を出す。荷も、送る」
「砦からも?」
「ああ。ここを空にはせんがな」
俺は、並んだ槍を見た。
みんなが少しずつ、自分の場所から何かを出している。
ガルゼンが、こちらへ向き直った。
「力は、増えたな」
「はい」
「味方まで、殴るな」
俺は、背筋を伸ばした。
「気をつけます」
「周りを見ろ。振る前も、振った後も」
その言葉を、覚えた。
一人で熊と戦うときとは違う。
今度は、隣に誰かがいる。
「……はい。行ってきます」
ガルゼンが、短く頷いた。
◇
峡谷の先で、別の荷車と合流した。
ヴァルグへ薬と布を運ぶ、小さな商隊だった。
マルクさんが前へ出て、代表の人と話す。
行き先。
荷物。
休憩の予定。
護衛の人数。
確認を終えると、二つの列が一つになった。
荷車は、五台。
歩く人も、増えた。
「……一気に、商隊っぽくなりましたね」
「先ほどまでも、商隊でしたよ」
マルクさんに言われる。
「いや、そうなんですけど。見た目が」
前にも、後ろにも、人がいる。
声をかけ合いながら道を進む。
その横を、弓を背負ったプレイヤーの二人組が追い越していった。
一人がこちらを見る。
足が、止まりかけた。
「……え」
隣の人の袖を引く。
俺の顔。
斧。
荷台のイト。
全部を、順番に見た。
「あの……修羅さん?」
俺は、少し頭を下げた。
「はい。こんにちは」
「うわ、本物……!」
声が、裏返った。
連れの人も、慌てて頭を下げる。
「配信、見てます! ヴァルグですか?」
「はい。そちらも?」
「俺たちもです。今から登録に行くところで」
話しながら、二人が道の端へ寄る。
荷車を止めないよう、気をつけてくれているらしい。
俺も歩きながら頷いた。
「じゃあ、同じですね。よろしくお願いします」
二人の顔が、ぱっと明るくなった。
「こちらこそ!」
「俺、弓です。まだ、そんな強くないんですけど」
「俺、近くの人を斧で巻き込まない練習をしてきました」
そう答えると、二人とも一度黙った。
それから、笑った。
「それ、お願いします!」
「本当に、気をつけます」
〈この挨拶でいいのかw〉
〈大事な自己紹介ではある〉
〈同じ都市へ向かう仲間だ〉
二人は少し先まで一緒に歩き、分かれ道で手を上げた。
「街で、また!」
俺も、手を振り返す。
その後も、何組かとすれ違った。
荷車へ道を譲ってくれる人。
納品先をマルクさんへ聞く人。
俺に気づいて、小さく手を上げる人。
ヴァルグへ近づくほど、人の流れが太くなっていった。
◇
街が見えたのは、午後だった。
木々の向こう。
高い壁。
見張り台。
風にはためく旗。
俺は、少し息を吐いた。
「……着きましたね」
前に見たときも、大きいと思った。
今日は、その前にいる人の数が違った。
荷車の列。
荷物を背負った冒険者。
槍。
弓。
盾。
道端には案内板が増え、腕章をつけた人たちが声を張っている。
「物資搬入は左へ! 防衛参加の登録は、門を入って右の受付です!」
「大型の従魔を連れている方は、先にお声かけください!」
「荷車の前を横切らないでくださーい!」
いろいろな声が、重なる。
マルクさんが前を指した。
「私たちは、物資搬入の列へ。修羅さんたちも、まず一緒に通りましょう」
「はい」
荷車の横を歩く。
そのとき、門の近くで誰かが叫んだ。
「修羅だ!」
俺は、顔を上げた。
声を出したのは、さっき街道で会った弓の人だった。
受付を終えたらしい。
こちらへ、大きく手を振っている。
「あ、どうも――」
「修羅、来たぞ!」
別の声が、重なった。
近くにいた人が振り返る。
その人を見て、隣の人も振り返る。
視線が、次々にこちらへ向いた。
俺は、歩く速度を少し落とした。
マルクさんが、横で小さく笑う。
「……お待ちかねのようですね」
「え」
返事をする前に。
「おおおおおおっ!」
歓声が、上がった。
◇
思わず、足が止まった。
門のそば。
列の横。
荷物を下ろして休んでいた人たちまで、立ち上がっている。
「修羅ー!」
「待ってたぞ!」
「熊の人だ!」
「羅刹、見えた!」
「イトちゃんは!?」
いろいろ、混じっていた。
俺は、荷台を振り返った。
蜘蛛の姿のイトが、布の上で体を起こしている。
何が起きたのか分からない様子で、前脚を動かした。
その姿が見えた瞬間、また声が上がる。
「いたあああ!」
「でっかくなったな!」
「おかえり!」
俺は、しばらく口を開けたままだった。
大会の会場では、歓声を聞いた。
でも、あのときは戦う場所へ出ていた。
今日は、荷車の横を歩いていただけだ。
肩には鞄。
腰には、水。
移動で少し、足も疲れている。
そんな俺へ、何人も手を上げていた。
〈現地すごいことになってるw〉
〈歓迎されてる!〉
〈配信と現地の声が重なってる〉
〈俺もそこにいるぞ!〉
〈荷車止めるなよ!〉
最後のコメントで、我に返った。
「あ、すみません。進みます」
足を動かす。
すると、近くの盾持ちが両手を広げた。
「道、空けよう! 荷車通るぞ!」
「見たい人は端へ!」
「前から押すなって!」
人が、左右へ下がる。
できた道を、荷車が進んだ。
俺は、何度も頭を下げた。
「ありがとうございます。どうも……」
「頭、そんな下げなくていいぞー!」
「首、疲れるぞ!」
笑い声が混じる。
俺も、少し笑ってしまった。
籠を抱えていたリィナさんが、隣へ寄る。
「……すごいですね」
「俺も、びっくりしてます」
正直に答えた。
◇
門へ近づくと、見覚えのある兵士がいた。
前にマルクさんと来たとき、事情を聞いてくれた人だ。
俺を見るなり、口元を緩める。
「また、随分連れてきたな」
「一緒に、運んできただけなんですけど」
「そうか。ご苦労」
荷車の書類を受け取り、中身を確かめる。
その間にも、周囲から声が飛んだ。
「修羅さん! 同じ戦線になったら、よろしく!」
「俺、盾やるから! 後ろから斧当てないでな!」
「私は治療班! 怪我したら戻ってきて!」
「薬も、ちゃんと持った!?」
俺は、鞄を軽く叩いた。
「持ちました! 水も、あります!」
なぜか、そこで拍手が起きた。
〈準備しただけで褒められる男〉
〈普段を見守ってきた人たちだからな〉
〈みんな心配してるんだよw〉
俺は、少しだけ照れくさくなった。
兵士が、書類をマルクさんへ返す。
「通っていい。物資は奥の広場だ。防衛受付は、そこから案内する」
「ありがとうございます」
門の影へ入る。
音が、少し変わった。
石の壁に、歓声が響く。
その先で、明るい通りが開けた。
◇
街の中も、前とは違っていた。
店の前に積まれた、木箱。
壁へ立てかけられた、予備の盾。
道の中央は広く空けられ、端では兵士とプレイヤーが一緒に荷物を運んでいる。
高い場所へ、旗が増えていた。
大通りの先には、案内の看板。
【防衛参加者受付】
【物資受領所】
【治療・調理・修繕担当はこちら】
俺は、それを見上げた。
画面の中の告知が、街の景色になっている。
荷車が広場へ入ると、係の人が駆け寄ってきた。
「渡り鳥商会の便ですね?」
「はい。納品内容は、こちらです」
マルクさんが、帳面を開く。
その横へ俺も行こうとすると、広場の向こうから、また声がした。
「修羅!」
大きな盾を背負った、牛の獣人。
ガランだった。
人の間を抜け、こちらへ歩いてくる。
「来たな」
「お久しぶりです」
差し出された手を、握る。
大きな手だった。
ガランは俺の肩の毛皮を見て、片眉を上げる。
「また、強そうになったじゃねえか」
「装備、作ってもらいました」
「知ってる。熊のやつだろ」
見ていたらしい。
ガランが、肩を揺らして笑う。
「後で、一回合わせようぜ。俺が盾を出して、お前がどこまで斧を振るか」
「はい。俺も、それ、お願いしたかったです」
「よし」
話している横で、壁の上から声がした。
「糸の位置も、合わせられると助かります」
顔を上げる。
紫色の腹。
小型の蜘蛛。
ユズリハだった。
壁から下り、積まれた木箱の上へ移る。
イトが荷台から身を乗り出した。
二匹の蜘蛛が、向き合う。
脚が、動く。
糸が、一本だけ張られた。
「……こんにちは」
ユズリハの声に、イトが前脚を上げる。
「イトちゃん、大きくなりましたね」
俺は、その横で頷いた。
「はい。俺の頭には、乗れなくなりました」
「それは、少し寂しいですね」
分かってくれる人がいた。
〈蜘蛛組、合流!〉
〈糸使いが二人揃った〉
〈ガランと修羅も合わせるのか〉
〈準備配信が楽しみすぎる〉
視界の端で、布を頭へ巻いた蜥蜴人が片手を上げた。
カゲロウだ。
「無事に着いたようだな」
「はい。皆さん、もう来てたんですね」
「こっちは先に地形を見ていた。城壁の外も、門の中もな」
言いながら、広場の出口へ目を向ける。
「後で案内する。初めて歩く道で、いきなり戦うよりいい」
「助かります」
知っている顔が、同じ街にいる。
大会では、対戦相手として名前を見ていた。
今は、こちらへ道を教えてくれる。
俺は、その違いをゆっくり噛みしめた。
◇
物資の確認が始まり、俺たちの荷物も下ろされた。
リィナさんが担当者へ、薬草の種類と量を説明している。
保存食は、別の台へ。
包みの一つが開かれると、近くにいたプレイヤーが顔を寄せた。
「これ、熊肉?」
「はい。保存用に処理した物です」
「うわ、本当に持ってきたんだ」
リィナさんが、少し戸惑いながら頷く。
担当者が笑った。
「こちらで状態を確認して、受け入れを進めますね」
彼女が、自分の持ってきた物を渡す。
記録される。
数を確かめられる。
俺は少し離れて、その様子を見ていた。
ガランが、俺の横へ立つ。
「仲間か」
「はい」
「いいな」
短く言われた。
俺は、頷いた。
「はい。助けてもらってます」
◇
広場の外で、ざわめきが起きた。
また、こちらへ声が上がったのかと思って振り向く。
違った。
人の流れが、別の方向へ向いている。
黒い髪の青年が、係の人と話していた。
その足元には、大きな白線で囲われた図面。
青年が、両手を少し広げる。
係の人が、さらに白線を引き直す。
「……もう少し、幅が要ります」
聞き覚えのある声。
俺は、目を細めた。
「リュカさん?」
青年が、振り返る。
目が合った。
顔が、ぱっと明るくなる。
「修羅さん!」
こちらへ歩いてきて、途中で俺の斧を見る。
少しだけ足が遅くなった。
それから、また近づいてくる。
「お久しぶりです」
「はい。今、着きました」
リュカは、俺の装備を見た。
「……前より、強そうですね」
「そちらも、何か増えました?」
「いえ。僕は、まず着地する場所の相談をしていました」
さっきの白線。
あれは、そういう物らしい。
ガランが、横で笑った。
「龍の置き場所か」
「置き場所では、ないです」
リュカが、少し困った顔をする。
俺も、笑ってしまった。
〈リュカも来た!〉
〈本当に揃った〉
〈大会の準決勝組が味方!〉
〈地上と空!〉
リュカが、俺へ手を差し出した。
「今回は、よろしくお願いします」
その手を見る。
俺は、握り返した。
「はい。こちらこそ」
あのときは、どうやって近づくかを考えていた。
飛ばれたら。
火を吐かれたら。
尻尾が来たら。
今は、その力が同じ側にある。
何だか、心強かった。
「ブレスを使うときは、教えてくださいね」
「はい。修羅さんも、斧を振るときは」
「……気をつけます」
近くで聞いていたガランが、声を上げて笑った。
◇
その頃には、広場の端へ人が集まっていた。
仕事の手を休めすぎないよう、係の人が声をかけている。
それでも、こちらを見た人たちから、何度も声が飛んだ。
「みんな、頼むぞ!」
「同じ街、守ろうな!」
「俺らも準備してるから!」
俺は、そちらへ顔を向けた。
盾を持った人。
布を抱えた人。
包帯を巻いた箱を運ぶ人。
鍋の柄を肩へ担いでいる人までいた。
誰かが、武器を上げた。
別の誰かは、布を持ったまま手を振る。
歓声が、広場へ広がった。
「ヴァルグ、守るぞー!」
「おおおおおっ!」
俺の胸の奥まで、響いてきた。
ただ、歓迎されているだけではなかった。
同じ日に、同じ場所へ集まった。
これから、一緒に戦う。
その声だった。
俺は斧を持っていない方の手を、少し高く上げた。
「よろしく、お願いします!」
思ったより、大きな声が出た。
すぐに、何倍もの声が返ってくる。
隣でガランが拳を上げた。
リュカも、少し照れくさそうに手を上げる。
イトが、荷台の上から前脚を持ち上げた。
リィナさんは、受領書を手にしたまま、広場を見渡していた。
〈うおおお!〉
〈現地も配信も熱い!〉
〈まだ始まってないのに鳥肌立った〉
〈俺も準備する!〉
そのとき。
「よし。元気なのは、分かった!」
よく通る声が、歓声の上へ重なった。
人が、振り返る。
広場の奥から、大きな戦槌を肩へ担いだ女性が歩いてきた。
鬼。
太い腕。
迷いのない足取り。
近くにいた兵士たちが、自然に姿勢を正す。
彼女は集まった人たちを見渡して、にっと笑った。
「その元気、荷下ろしにも使ってもらおうか!」
笑い声が起きた。
人が、少しずつ持ち場へ戻り始める。
女性の目が、こちらへ向いた。
俺。
ガラン。
リュカ。
順番に見て、最後に俺の斧へ止まる。
「……あんたが、修羅だね」
俺は、頷いた。
「はい」
彼女が、戦槌を肩から下ろす。
地面へ、軽く置く。
ごとん、と。
妙に重い音がした。
「ようこそ、ヴァルグへ」
笑顔のまま、言う。
「ゼルガだ。戦える顔が増えて、助かるよ」
俺は、その手元を見た。
大戦槌。
それを軽々と扱う、腕。
画面越しでは分からなかったものが、目の前にある。
背筋が、少し伸びた。
「……よろしくお願いします」
ゼルガさんは頷く。
「まずは、飯と受付だ。その後で――」
俺たちを、もう一度見る。
口元が、楽しそうに上がった。
「どこへ立ってもらうか、確かめようか」
コメント欄が、一斉に沸いた。




