3話 初日の反省と2日目
●主人公視点
はい、ログアウトした修羅こと柊 圭斗でーす!
今は布団で寝てます。
配信をしてみたが、どうもよくわからんというのが感想だ。
しかし、狩り自体は順調でいい初日だったと思う。
兎しかいなかったが、あれはあれで楽でよかったな。
「...夏休みでありがたいぜ...」
時間はたっぷりある。
「...通知?」
『登録者が10人を超えました』
「登録者?」
俺はスマホを開いてみる。
すると、配信した専用チャンネルで登録者が増えていた。
「...ちゃんと配信はされていたのか...」
なんか、すっごいうれしい。
明日は探索を進めよう。
ダンジョンもあるらしいし、やりがいでいっぱいだ。
そのまま眠りにつく。
~翌朝~
「...よし、いくか!」
起きて顔を洗い、身支度を済ませた俺はすぐにアビス・フロンティア・オンラインを起動する。
兎を狩りまくった森へ戻ってきた。
「...変わりなしっと」
配信も開始だ!
この配信、なんとコメント欄があったらしい。
一応誰か来たら挨拶しておこう。
それと、俺は少し遠くへ行ってみることにした。
昨日周囲を散策した結果、ある程度の地形は把握できていた。
北に山脈、西も山脈、南は水場、東には草原と岩肌だ。
今日は東の岩肌を散策だ。
「...せめて、兎以外のモンスターを...」
足元には石が転がっていて、歩くたびにかつかつ音がする。
ところどころ岩肌が段になっていて、小鬼の俺には登るだけでも結構な運動だ。
「……景色はいいんだけどな」
振り返ると、さっきまでいた草原が見えた。
こういうところに、洞窟の一つでもないだろうか。
できれば家主が不在のやつ。
そんな都合のいいことを考えながら進んでいると、岩の向こうから音がした。
ごり、ごり、と。
何かを削るような音だ。
「……ん?」
岩陰から、そっと顔を出す。
猪がいた。
ただし、知っている猪より一回り大きい。
背中には灰色の硬そうな皮膚が盛り上がっていて、遠目なら本当に岩に見える。口元からは、太い牙が二本突き出ていた。
そいつが鼻先で石を押しのけ、地面を掘り返している。
「岩背猪か……」
旧作にもいた魔物だ。
名前は覚えている。
背中が硬かったことも。
それ以外は、まぁ……戦えば思い出すだろう。
〈強そう〉
視界の端に、コメントが流れた。
「お、はじめましてですね。修羅ですー、今からこいつと戦います。まぁ、兎よりは強いですね」
返してから、棍棒を握り直す。
詳しいレベルもHPも分からない。
俺のほうはLv.5。
少しは強くなっている。
「一匹なら、何とかなるか」
近づいた瞬間、石を踏んだ。
かちっ。
猪の耳が動く。
掘るのをやめた鼻先が、ゆっくりとこちらへ向いた。
「……どうも」
挨拶は通じなかった。
鼻息を一つ。
次の瞬間には、走ってきた。
「早っ!」
横へ跳ぶ。
牙が腰のすぐそばを通り過ぎた。
そのまま背中へ棍棒を振り下ろす。
「〈打撃〉!」
”ガンッ!”
「いってぇ!」
手がしびれた。
石を殴ったみたいな感触だった。
猪は少し体を揺らしただけで、すぐに前脚を踏ん張った。
土が飛び、巨体がこちらへ向き直る。
「うおっ!?」
振り上げられた牙から、慌てて体を引いた。
間に合わず、左肩に頭がぶつかった。
体が横へ飛ぶ。
背中から地面に落ちて、息が詰まった。
「っ、は……!」
目の端で、HPが減っていた。
立ち上がる。
猪はもう、こちらを見ている。
「……兎と同じにはいかないか」
〈今の距離で曲がるのか〉
〈背中、全然効いてなくない?〉
「効いてないですね。俺の手には効きましたけど」
棍棒を握る指を開いて、閉じる。
ひとまず、手は動く。
猪が鼻を鳴らした。
俺はゆっくり下がる。
そいつも、歩いて距離を詰めてきた。
すぐには突っ込まない。
俺の後ろに岩があることを、見ているようだった。
「……挟む気か?」
周りを見る。
右側には、腰ほどの高さの岩棚があった。
その上は平らだ。左の端だけが低くなっていて、斜めに上がれる。
俺はそちらへ走った。
後ろで、蹄が鳴る。
「よっ、と!」
両手をついて岩棚に登る。
直後、足の下で牙が岩を擦った。
間に合った。
振り返って棍棒を構える。
猪は岩棚の下にいる。
ここなら上から――。
そう思ったところで、そいつが前脚をかけた。
「ッ登るのかよ!」
慌てて後ろへ下がった。
猪は後脚で地面を蹴り、体を持ち上げようとしている。
腹が見えた。
背中とは違う。
茶色い毛に覆われた、普通の皮膚だ。
「そこか!」
両手で棍棒を握り、下から突き上げた。
先端が、前脚の間にめり込む。
猪が鋭く鳴いた。
前脚が岩から外れ、巨体が下へ落ちる。
「……よし」
今のは効いた。
けれど、下で待っていたのは、さっきより低い鼻息だった。
猪は俺を見上げている。
もう登ってこない。
岩棚に沿って、左へ歩き始めた。
低くなっている場所へ。
「そうだよな。そっちから来るよな……」
都合よく同じ攻撃は受けてくれないらしい。
俺は岩棚の上を移動した。
猪も向きを変え、斜面を上がってくる。
正面からぶつかれば、こっちが負ける。
棍棒を持ち上げる。
猪が頭を下げた。
牙が狙っているのは、俺の腹。
俺は踏み込むふりをして、すぐに足を止めた。
猪の頭が跳ね上がる。
空を切った牙。
その横へ回り込み、前脚の内側を殴った。
「〈打撃〉!」
猪の体が傾いた。
崩れかけた足を、すぐに踏み直す。
俺は追い打ちせず、岩棚から飛び降りた。
着地した足が少しもつれた。
スタミナが減っている。
まずい。無駄に動きすぎた。
〈逃げたほうがよくない?〉
「……あと少しだけ」
猪が上から俺を見下ろした。
岩棚の縁を歩き、鼻先を下げる。
さっき殴った前脚を、少しかばっていた。
俺は岩棚のすぐ下から離れた。
一歩。
もう一歩。
棍棒を握ったまま、荒い息を吐く。
猪が前へ出た。
前脚が、岩棚の縁を越える。
降りてくる。
俺は構えた。
巨大な頭が近づく。
牙が近い。
まだ。
後脚が岩を蹴った。
「今っ!」
横へ踏み出し、落ちてくる体の脇へ潜る。
着地する前の、無防備な腹。
そこへ棍棒の先を押し当てた。
「〈踏ん張り〉……〈打撃〉!」
踏み込んだ足で地面を押す。
両腕を突き上げる。
重い。
一瞬、膝が折れかけた。
けれど、猪の体も横へ流れた。
傷めた前脚が地面を捉えきれず、そのまま肩から転がる。
腹が、こちらを向いた。
「もう、一発!」
振りかぶる余裕はなかった。
腰を落とし、短く、強くたたき込む。
猪が暴れる。
後脚が脇腹をかすめた。
「っ……!」
離れそうになった棍棒を、握り直した。
起き上がらせたら、また最初からだ。
俺は前脚の届かない位置へずれ、腹を狙った。
一発。
もう一発。
棍棒が、ぎしりと鳴った。
「頼むから、先に折れるなよ……!」
猪が体を起こそうとする。
俺は両手を握り締めた。
「〈打撃〉!」
鈍い感触。
その後、猪の脚から力が抜けた。
俺はすぐに二歩下がった。
棍棒を構えたまま待つ。
まだ、待つ。
【経験値を獲得しました】
表示を見て、ようやく息を吐いた。
「……倒した」
その場に座り込む。
腕が重い。
肩も脇腹も、じんじんしている。
〈おお!〉
〈倒せた!〉
〈最初、絶対無理だと思った...〉
「...俺も途中から、そう思いました」
足元に棍棒を置く。
先端は潰れていて、細いひびが入っていた。
背中ばかり殴っていたら、先にこっちが駄目になっていたな。
岩背猪へ目を向ける。
近くで見ると、ますます硬そうだった。
立ち上がろうとして、膝が笑った。
もう一度、座る。
「...休憩します」
〈はい〉
〈まず生きて帰ろう〉
俺は棍棒のひびを指でなぞった。
家も欲しい。
防具も欲しい。
そういえば、経験値の通知が来ていた。
どれくらい増えたのか、表示を開いて――固まった。
表示を開いて――固まった。
【Lv:5→10【UP!】】
「……十?」
五だった。
確かに、戦う前は五だった。
表示を一度閉じて、もう一度開く。
十。
変わらない。
「いや、五つも上がる?」
〈え?〉
〈一匹で?〉
〈何レベルだったんだ、あの猪〉
俺は、倒れた岩背猪を見た。
岩みたいな背中。
太い牙。
さっきまで、これに追いかけ回されていたわけだが……。
「お前、そんなに格上だったのか……」
倒した実感より先に、妙な冷や汗が出てきた。
首飾りで経験値は増えている。
でも、十%増えたくらいで五つも上がるなら、元の経験値からして相当だったはずだ。
「そりゃ、棍棒も壊れかけますよね……」
〈よく勝てたな〉
〈岩場なかったら危なかった〉
「ですね。平地で殴り合ってたら、俺が転がってました」
最初は、一匹なら何とかなると思っていた。
確かに何とかなった。
なったけど、次も同じように勝てるかと聞かれたら、ちょっと困る。
あの牙がもう少し深く入っていたら。
着地で足を滑らせていたら。
途中で棍棒が折れていたら。
けど、今一番欲しいのは――。
「もうちょっと、丈夫な棒だな……」
【レベルが上がりました】
【ステータス】
プレイヤー名:修羅
種族:小鬼〈こおに〉
種族Lv:5→10【UP!】
最大HP:93→121【UP!】
最大MP:20→25【UP!】
最大スタミナ:105→130【UP!】
筋力:19→24【UP!】
耐久:13→18【UP!】
敏捷:17→22【UP!】
魔力:5
器用:10
獲得経験値:+10%【装備】
※最大HP:基礎値110+装備補正11=121。
【種族特性】
〈怪力の芽〉
体格より大きな武器を扱える。重さに応じてスタミナを消費する。
〈健啖〉
食事によるスタミナ回復量が多い。
【スキル】
〈打撃 Lv.1〉
〈踏ん張り Lv.1〉
【装備】
右手:粗末な木の棍棒
防具:ぼろ布の腰巻き
首飾り:始祖鬼の首飾り
【始祖鬼の首飾り】
・最大HP+10%
・獲得経験値+10%
≪封印効果≫
???




