↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
34/143

22話 大会初日と抽選

●主人公視点


 はい。起きました、圭斗です。


 アラームが鳴る、十分前でした。


 ……こういう日だけ、目覚めるの早いんですよね。


 スマホを見る。


 遅刻してない。


 日付も合ってる。


 大会は、今日。


「……よし」


 顔を洗い、朝飯を食べる。


 いつもより、ちょっと味が分からなかった。


 水を飲んで、部屋へ戻る。


 机の上には、ネクサス。


 昨日、ちゃんと確認したはずなのに、もう一度手に取ってしまう。


 問題なし。


 俺は布団へ横になった。


「……いくか」


     ◇


 目を開けると、拠点の天井があった。


 起き上がる。


 体を動かし、装備を身につける。


 胴当て。


 籠手。


 脛当て。


 短剣を腰へ。


 黒角の大戦斧は、背負い紐へ固定した。


「……全部、ありますね」


 足元で、イトが待っていた。


 手を差し出すと、いつもどおり登ってくる。


 肩へ。


 そのまま、頭の上へ。


「あー……今日は、そこまでです」


 そっと受け止めて、手へ戻した。


 角につかまろうとしていた前脚が、空を切る。


 ちょっと、心が痛い。


「夕方には戻るつもりです。留守、お願いしますね」


 入口のそばの岩へ下ろす。


 イトは少し歩き、こちらを向いて止まった。


 俺は、その前へしゃがんだ。


「……行ってきます」


 指先へ、小さな脚が触れた。


     ◇


 配信を開始する。


 すぐに、コメントが流れた。


〈おはよう!〉

〈大会だ!〉

〈起きられたか〉

〈応援してるぞ!〉


「はい。おはようございます。ちゃんと起きました」


 声に出すと、少し落ち着く。


 いつもと同じ配信だ。


 行き先が、ちょっと違うだけ。


 俺は大会の案内を開いた。


【第一回アビス闘技大会】


【選手受付を開始しました】


【専用会場へ移動しますか?】


 装備を、もう一度確かめる。


 右手。


 左手。


 腰の短剣。


「……じゃあ、行きましょうか」


 決定へ触れた。


 足元に、白い輪が広がる。


 景色が、光へ溶けた。


     ◇


 最初に聞こえたのは、人の声だった。


 笑う声。


 誰かを呼ぶ声。


 足音。


 どこかで、金属が鳴っている。


 俺は目を開けた。


「……うお」


 広場だ。


 真っ白な石畳。


 高い旗。


 その向こうに、大きな円形の建物がそびえていた。


 何層も重なった観客席。


 外壁には、大会の紋章が掲げられている。


 そして、その手前。


 屋台。


 屋台。


 さらに、屋台。


 焼いた肉の匂いが、風に乗ってきた。


〈すげえ!〉

〈祭りじゃん〉

〈人多っ!〉


「……本当に、多いですね」


 転送地点から、一歩出る。


 そのすぐ後ろへ、別の光が現れた。


 中から出てきたのは、背の低い、ひげの立派な男。


 厚い腕。


 背中には盾。


 ドワーフだ。


 俺を見るなり、少し顔を上げた。


「おっと」


「あ、すみません」


 慌てて道を空ける。


 その横を、長い耳を持つ女性が通り過ぎた。


 エルフ。


 さらに、狼。


 狼が、普通に歩いている。


 首の横へ、小さな袋を下げていた。


「……おぉ」


〈修羅、立ち止まるなw〉

〈後ろ詰まってるぞ〉


「はい。移動します」


 広場の端へ寄り、改めて周りを見た。


 角のある人。


 尻尾を揺らして歩く人。


 腰に何本も道具を下げた小人。


 小さなゴーレムが、石畳をこつこつ鳴らしている。


 少し先では、翼を畳んだ竜が、同行者へ頭を下げていた。


「尾、そっち出てる」


「あ、ごめん」


 尻尾が、ゆっくり引っ込む。


 ……普通に、会話してる。


 いや、プレイヤーだから当然なんですけど。


 こんなにいろんな姿の人を、一度に見たことがなかった。


     ◇


「焼き串、焼きたてだよ!」


「冷たい果実水、こっちだ!」


「選手の方もどうぞ! 持ち帰りできます!」


 屋台の前を歩くだけで、次々に声がかかる。


 肉を焼く店。


 丸いパンを積んだ店。


 大きな鍋から湯気を上げる店。


 その間には、砥石や革紐を並べた道具屋まであった。


「……見るだけで、時間なくなりそうですね」


〈まず受付〉

〈肉は後〉


「分かってますよ」


 ただ、さっきの串は気になる。


 あの赤い粉、何だろう。


 辛いやつだろうか。


 目で追っていると、少し先から声が聞こえた。


「あれ、修羅じゃない?」


「え、どこ」


「斧背負ってる鬼」


 俺は、そちらを見た。


 二人組の人間プレイヤー。


 目が合った。


 片方が、固まる。


 ……どうしよう。


 ひとまず、軽く頭を下げた。


「どうも」


「あっ、こんにちは!」


 相手も、勢いよく頭を下げた。


 もう一人が、小声で何か言っている。


 小声なんですが。


「でか……」


 聞こえました。


「……進化して、大きくなりました」


「すみません! 悪い意味じゃなくて!」


「大丈夫です。俺も、結構びっくりしたので」


 相手が、少し笑った。


 俺も、つられて笑う。


「いつも配信見てます。猪のころから」


「ありがとうございます」


「今日、応援してます」


 そう言って、右手が少し上がった。


 途中で止まる。


「あの……握手、お願いしても?」


「え? あ、はい。もちろん」


 俺も手を出した。


 握る。


 力は、入れすぎない。


 そこだけ、妙に意識した。


「頑張ってください!」


「ありがとうございます。……出場されるんですか?」


「いえ、今日は観戦です」


「じゃあ、いい試合できるように頑張ります」


 手を離す。


 二人が去っていく。


 少し離れたところで、片方がもう片方の肩をたたいていた。


「握手した」


「見てたよ」


 俺は、前を向いた。


「……こういうこと、あるんですね」


〈そりゃあるだろw〉

〈二万人だぞ〉

〈手の力、気をつけてて草〉


「いや、だって……」


 人を握りつぶす趣味はないので。


     ◇


 歩き出すと、背中のほうでまた声がした。


「今の鬼、誰?」


「修羅。鬼将と戦ってた人」


「ああ、あの斧の?」


「近くで見ると、斧もやばいな」


 聞こえる。


 思ったより、聞こえる。


 俺は無意識に、背負い紐を持ち直した。


 刃が人へ当たらないよう、少し向きを変える。


 前から、小さなゴーレムが来た。


 すれ違おうとしたところで、そいつが止まる。


「あの」


「はい?」


「斧、少し見せてもらってもいいですか」


 低い声だった。


 姿は、俺の腰より少し高いくらい。


 腰の帯には、金槌や小さな道具が下がっている。


「俺、鍛冶やってて。刃の付け根が気になって」


「ああ。構いませんけど……」


 周囲を見る。


 人通りのない、壁際へ寄った。


 紐を外し、両手で斧を下ろす。


 刃先を地面へ近づけ、柄を支えた。


 ゴーレムが、顔を寄せる。


「……おぉ」


 指で触れる前に、こちらを見る。


「触っても?」


「どうぞ」


 石の指が、補強の輪へ触れた。


 刃の厚み。


 柄との接合部。


 順番に見ていく。


 すごく、真剣だった。


「これ、自分で手入れしてます?」


「普段は。細かいところは、職人に頼んでますね」


「ですよね。ここ、きれいに直ってる」


 俺には、何が分かるのか分からない。


 でも、作ったり直したりする人には見えるらしい。


「……ありがとうございました。これ、いいですね」


「はい。俺も、気に入ってます」


 言うと、ゴーレムが顔を上げた。


 石の顔なのに、少しうれしそうに見えた。


「いつか、俺のも見てください。まだ、こんなの作れないですけど」


「ぜひ」


 連絡先を交換する。


 ゲームを始めてから、こういう知り合いができるのは初めてだった。


〈職人とつながった〉

〈大会、もう得してるな〉


「ですね」


 斧を背負い直す。


 今日は戦いに来たはずなのに、もう少し歩き回りたくなっていた。


     ◇


 選手受付には、列ができていた。


 人間。


 エルフ。


 ドワーフ。


 俺の前には、黒い毛並みの狼。


 後ろには、長い槍を持った獣人の女性が並ぶ。


 狼が、ちらりと振り返った。


 俺を見る。


 背中の斧を見る。


 それから、前へ向き直った。


「……近接の組、別だといいな」


 小さく、聞こえた。


「俺も、初戦から速い人は嫌ですね」


 思わず返してしまった。


 狼の耳が、ぴんと立つ。


「聞こえてた?」


「すみません。少し」


「いや、こっちこそ」


 狼が体ごと向きを変えた。


「配信、見たことある。修羅だよな」


「はい」


「俺も出る。よろしく」


「こちらこそ」


 手を出しかけて、止まった。


 狼の前脚を見る。


 相手も、俺の手を見る。


 少し間があった。


「……こうか?」


 前脚が、上がった。


 俺はかがみ、その足先へ軽く手を添えた。


「よろしくお願いします」


〈握手できたw〉

〈お手じゃないぞ〉

〈種族交流〉


 後ろで、獣人の女性が笑った。


「いいな、それ。私もお願いしていい?」


「あ、はい」


 今度は、普通に手だった。


「鬼将戦、見たよ。あの最後の鬼震、よかった」


「ありがとうございます」


「当たったら、あれは食らわないつもりだけど」


 握った手が、少し強くなる。


 顔を上げると、笑っていた。


 俺も、つい笑った。


「……じゃあ、当てられるように頑張ります」


     ◇


 受付を済ませる。


 名前の確認。


 参加規則への同意。


 装備の確認も終わると、選手用の印が表示された。


【選手受付が完了しました】


【予選組み合わせの発表まで、会場内でお待ちください】


「……よし。間に合いましたね」


〈間に合ったというか、まだ余裕ある〉

〈飯見に行けるぞ〉


「いや、食べすぎるのはちょっと」


 でも、一つくらいなら。


 俺は、さっきの屋台のほうを見た。


 赤い粉の串焼き。


 まだ、煙が上がっている。


 足を向けかけた、そのときだった。


 高い音が、広場へ響いた。


 続いて、弾むような声。


『皆さん、お待たせいたしましたー!』


 周りの顔が、一斉に上がる。


 広場の中央にある壇上。


 そこへ、鮮やかな上着を着た女性が立っていた。


 片手には、声を広げる道具らしい、小さな球。


 頭の上には、狐のような耳。


 大きく手を振っている。


『第一回アビス闘技大会へ、ようこそー! 本日の進行を担当します、ミナでーす!』


 拍手が起きた。


 口笛。


 低い遠吠えみたいな声も、混ざっている。


 俺も、つられて手をたたいた。


『いいですねー! いろんな声が聞こえますね! 今日は会場を歩くだけでも、初めて見る種族に出会えるんじゃないでしょうか!』


 すぐ隣で、ドワーフが俺を見た。


 俺も、そちらを見る。


 目が合ったので、軽く頭を下げた。


 相手が笑って、片手を上げる。


『選手の皆さん、受付はお済みですか? まだの方は、この声を聞きながら受付へお願いします! 屋台は逃げませんからねー!』


 俺は、動きを止めた。


〈言われてるぞ〉

〈修羅、受付済ませててよかったなw〉


「済ませましたよ」


『なお、観客の皆さん! 大きな翼や尻尾をお持ちの方は、お隣の方にひと声かけてください! お互い、気持ちよく応援しましょう!』


 少し先で、大きな翼がきゅっと畳まれた。


 その横の人間が、親指を立てている。


 いい会場だな。


 俺は、少し笑った。


『そして選手の皆さん!』


 ミナの声が、広場へ通った。


『二週間、それぞれの場所で育ててきたキャラクター。それぞれの戦い方。その成果を、今日はぜひ見せてください!』


 周りの空気が、少し変わった。


 笑っていた人が、壇上を見る。


 槍を持つ手が、握り直される。


 俺も、自然と背筋が伸びた。


『優勝するのは、人族の剣士か! 森を駆ける射手か! 強大な力を持つ魔物か! それとも、まだ誰も知らない挑戦者か!』


 歓声が、広場を満たす。


 胸の奥が、少し熱くなった。


 配信のコメントが、速い。


 でも、今は読みきれなかった。


『間もなく、予選の組み合わせを発表いたします! 皆さん、準備はいいですかー!』


 声が上がる。


 俺も、小さく息を吸った。


「……はい」


 背中の斧が、重い。


 腰の短剣が、脚へ触れる。


 昨日、全部確かめた。


 今日も、確かめた。


 あとは。


【予選組み合わせが決定しました】


 視界へ、通知が浮かんだ。


 俺は手を伸ばす。


〈来た!〉

〈初戦誰だ!?〉

〈見せてくれ〉


「……じゃあ、確認しましょうか」


 広場の喧騒の中、俺は表示を開いた。




●主人公視点


 表示を開く。


 大きな文字の下に、四つの枠が並んでいた。


【予選組み合わせ】


【第一組:32名】


【第二組:32名】


【第三組:32名】


【第四組:32名】


「……四組?」


 さらに、その下。


【予選形式:バトルロワイヤル】


【各組、最後まで残った4名が本戦へ進出します】


 俺は、少し黙った。


「一対一じゃ、ないんですね」


〈囲まれるぞ〉

〈逆に鬼震使えるな〉

〈まず四人に残ればいい〉


 そうか。


 全員を倒す必要はない。


 三十二人の中で、最後の四人まで残ればいい。


 ……言葉にすると簡単なんですけどね。


 周りでも、声が上がっていた。


「うわ、こっちレオンいる!」


「四人通れるなら、まだいけるだろ」


「いや、残り三枠って考えたらきつくない?」


 俺は、自分の名前を探した。


 第三組。


 一覧の中ほどに、見慣れた二文字。


【修羅】


「ありました。第三組ですね」


〈三組か!〉

〈誰と一緒?〉

〈下、ヴァイスいるぞ〉


 指で、表示を送る。


 確かに、いた。


【ヴァイス】


「……知ってる人ですか?」


〈狼の有名な人〉

〈めっちゃ速い〉

〈群れで狩ってる白い狼〉


 狼。


 速い。


 俺は、さっき受付で会った黒い狼を思い出した。


 あの人も、走ると速そうだった。


 白いほうは、さらに速いんだろうか。


「なるほど。……見失わないようにしないとですね」


 斧を背負う紐へ、手を添える。


 足元へ潜られると、振りづらい。


 ガドにも、短剣を使えと言われた。


 出番、早いかもしれない。


     ◇


『さあ、組み合わせが発表されましたー!』


 壇上から、ミナの声が響く。


 広場の中央へ、大きな光の板が浮かんだ。


 そこにも、四組の名前。


 周囲の人たちが、顔を上げる。


『本日の予選は、三十二名によるバトルロワイヤル! 各組四名、合計十六名が決勝トーナメントへ進みます!』


 ミナが、指を四本立てた。


『撃破数が多くても、先に倒されれば予選敗退! 最後の四人に残ることが、勝ち上がりの条件です!』


「……なるほど」


 強い相手を一人倒しても、その後にやられたら終わり。


 逆に、戦わず残るのもあり。


 俺が考えていると、横から声がした。


「ずっと隠れてても、いいのかな」


 さっきの黒い狼だった。


 耳を動かしながら、光の板を見ている。


「どうなんでしょう。……あ、続きありますよ」


 案内へ目を落とす。


【経過時間に応じて、戦闘可能エリアが縮小します】


【指定エリア外にとどまった場合、継続ダメージを受けます】


「ずっとは、難しそうですね」


「まあ、そうだよな……」


 狼が、少し肩を落とした。


 肩、でいいんだろうか。


『予選会場は、林、岩場、廃屋のある専用フィールドです! 開始位置はそれぞれ離れた場所へ割り当てられますので、転送された瞬間、目の前に三十一人、ということはありません!』


 周りから、安堵の声が上がった。


 俺も少し、ほっとした。


 さすがに、開始直後から全部の方向を見るのは難しい。


『また、HPがゼロになった選手は撃破判定となり、安全に場外へ転送されます! 降参も可能です。試合終了後には、消耗した状態と装備が参加前の状態へ戻ります!』


〈喰命の扱い確認しよう〉

〈詳細にあるかも〉


「ああ、そうですね」


 俺はルールの詳細を開いた。


 撃破時の効果。


 武器やスキルによる回復。


 そこまで読んで、うなずく。


「大会の撃破判定でも、発動するみたいです」


〈よし〉

〈集団戦なら生きるな〉


 ただし、倒せればだ。


 回復するつもりで追いかけて、横から刺されたら意味がない。


 俺は、案内を閉じた。


     ◇


『それでは、各組の選手をご紹介しましょう!』


 光の板に、第一組の一覧が大きく映る。


『まずは第一組! 王国領から参戦、剣士レオン選手!』


 広場の一角から、歓声が上がった。


 そちらを見る。


 人間の男が、片手を上げていた。


 青い布を巻いた剣の鞘。


 派手すぎない金属の防具。


 思っていたより、普通の人に見えた。


 ただ、立っている姿勢がきれいだった。


 人混みの中でも、腰の剣に誰もぶつからない。


『対人戦の配信でもおなじみですね! ですが今回は、背中を守ってくれる味方はいません! 得意の剣で、この乱戦をどう抜けるのか!』


 レオンが、少し笑った。


 近くの誰かへ何か言って、周りも笑う。


 余裕が、ある。


「……あの人がレオンさんですか」


〈そう〉

〈剣うまいぞ〉

〈修羅と見たいカード〉


 俺も、見てみたい。


 同じ舞台へ残れれば、戦えるかもしれない。


 そのためには、まず予選だ。


     ◇


『続いて、第二組! 魔法使いセレネ選手!』


 今度は、屋台の近くから拍手が起きた。


 銀色の髪をした女性が、杖を持つ手を少し上げる。


 もう片方には、紙の包み。


 何か、食べていたらしい。


 呼ばれたので、慌てて口元を拭っている。


〈セレネ飯食ってたw〉

〈ちゃんと補給してる〉


『炎だけではありません! 相手を止め、進む場所を選ばせる魔法にも注目です!』


 俺は杖を見た。


 先端に、淡い色の石。


 あそこから、魔法が出るんだろうか。


 手で使う人もいた気がする。


 どこを見れば、発動が分かるのか。


 考えているうちに、第二組の別の名前が強調された。


『そして、大盾と槌を携えて参戦! バルド選手!』


 転送地点で見かけた、ドワーフだった。


 あの盾、やっぱり大きい。


 本人の体を、ほとんど覆えそうだ。


 バルドは背中へ手をやり、盾の縁を軽くたたいた。


 低い音がする。


 近くにいた人が笑って、拳を差し出す。


 バルドも、拳を合わせた。


「第二組、硬そうですね」


〈魔法と盾〉

〈同じ組に二人いるのか〉

〈バルドがセレネ追うところ見たい〉


 俺は二人を、交互に見た。


 魔法を撃つ側。


 盾で近づく側。


 どう戦うんだろう。


 ……観戦する時間があって、よかった。


     ◇


『第三組は、こちら!』


 自分の組だ。


 俺は、顔を上げた。


『鋭い嗅覚と、四本の脚を生かした狩り! 白狼のヴァイス選手!』


 人の間から、白い背中が見えた。


 狼。


 大きい。


 さっき会った黒い狼より、少し体が長い気がする。


 ヴァイスは顔を上げ、一度だけ短く吠えた。


 歓声が返る。


 その後、まっすぐこちらを見た。


「……あ」


 目が合った。


 白い耳が、少し前へ向く。


 俺は、軽く頭を下げた。


 相手も、わずかに顎を引く。


 挨拶、できたと思う。


『そして!』


 ミナの声が、一段高くなった。


『小鬼から鬼へ! 大戦斧を携えてやって来ました、修羅選手ー!』


 自分の名前が、広場へ響いた。


 ……うわ。


 近くの人が、こちらを見る。


 さらに、その隣の人も。


「……どうも」


 とりあえず、手を上げた。


 拍手が聞こえる。


 少し離れたところから、「頑張れ!」と声が飛んだ。


 俺は、もう一度頭を下げた。


『鬼将との戦いで見せた、あの重い一撃! 接近戦で期待を寄せる視聴者も多い修羅選手ですが、果たして相手は近づかせてくれるのか!』


〈紹介された!〉

〈手の振り方ぎこちないw〉

〈応援してるぞ!〉


「ありがとうございます。……これ、緊張しますね」


 小声で配信へ返す。


 前を向くと、白い狼がまだこちらを見ていた。


 ヴァイス。


 同じ組。


 近づかせてくれるのか、と言われたばかりだ。


 たぶん、簡単にはいかない。


 俺は手を下ろした。


 そのすぐ後ろで、声がする。


「やっぱり第三組、あの二人いるのか」


「四枠だろ。二人とも残るとは限らないって」


「分かってるけど、あの斧見たら考えるじゃん」


 ……俺も、目の前にあの斧が来たら考えると思う。


 持っている側なんですけどね。


     ◇


『そして第四組! 森から参戦、エルフの射手フィーネ選手!』


 長い耳を持つ女性が、弓を持ち上げた。


 最初に転送地点で見かけた人だ。


 腰には矢筒。


 肩へかけた弓は細身で、先端が大きく反っていた。


『木々の間を抜く射撃は、乱戦でも届くのか! 姿を見せずに戦える林もありますから、ほかの選手は上も横も、気が抜けません!』


 フィーネは周りへ手を振ってから、光の板へ視線を戻した。


 自分の組の名前を読んでいる。


 俺と同じように、相手を確かめているんだろう。


 大きな板へ、四組がもう一度並んだ。


【予選・主な出場選手】


【第一組:レオン ほか31名】


【第二組:セレネ/バルド ほか30名】


【第三組:修羅/ヴァイス ほか30名】


【第四組:フィーネ ほか31名】


 どの組からも、声が上がっていた。


 知っている名前を見つけた人。


 同じ組の友人を探す人。


 一覧を見たまま、黙っている人。


 俺も、第三組をもう一度開いた。


     ◇


「……知らない名前、多いですね」


〈無配信の人もいるからな〉

〈紹介されてない人にも注意〉


「ですね。そこは、同じです」


 名前だけでは、武器も種族も分からない。


 配信で見たことのない相手が、何をしてくるのか。


 大会には、そういう人もいる。


 一覧を、ゆっくり送る。


 そこで、声をかけられた。


「修羅さん、ですよね」


 顔を上げる。


 人間の男だった。


 茶色い革の防具。


 腰に、短い剣。


 背中には、弩のようなものを背負っている。


「はい」


「第三組で、一緒です」


「ああ。よろしくお願いします」


 相手が笑い、手を差し出した。


 握手する。


 指の付け根に、厚い革が縫いつけられた手袋をしていた。


「配信、少し見ました。斧、すごいですね」


「ありがとうございます。……そちらは、弩ですか?」


「はい。近づかれたら、勝てなさそうなので」


 穏やかな口調だった。


 俺は、少し笑った。


「じゃあ、近づかないとですね」


「その前に、何本か当てたいところです」


 手が離れる。


 男は軽く頭を下げ、人混みへ戻っていった。


〈同じ組に弩か〉

〈ちゃんと見てきてるぞ〉


「……ええ」


 さっき握った手を、開いて閉じる。


 あの人も、準備してきた。


 俺の斧を知っている。


 俺が近づこうとするのも、分かっている。


 それを相手に、戦う。


 胸の奥が、落ち着かなくなってきた。


 怖い。


 でも、楽しみでもある。


     ◇


『なお! ただいまご紹介した選手だけが、見どころではありません!』


 ミナが、大きな板を振り返った。


 百二十八人の名前が、光の中へ並ぶ。


『配信では見せていない技もあるでしょう! 今日初めて、その名前を知る選手もいるでしょう! ぜひ、皆さん自身の注目選手を見つけてください!』


 歓声が起きる。


 名前を呼ばれていない人たちも、顔を上げていた。


 俺は、さっきの弩の男を探した。


 もう、人の間に紛れて見えない。


『そして、出場者の皆様へ! 試合中は、配信コメントの閲覧および外部との通話ができなくなります! 観客席からの助言も、選手には届きません!』


 MCの声に合わせ、目の前へ案内が表示された。


【試合開始から終了まで、コメント表示・外部通信が停止されます】


「……なるほど。誰かに相手の弱点を教えてもらう、とかはできないわけか」


 視界の端では、まだコメントが流れている。


〈修羅、前見ろって言えなくなる〉

〈いつも大体見てないから変わらん〉

〈頑張れ!〉


「見てますよ。……たまには」


 そう返してから、闘技場へ目を向けた。


 試合が始まったら、頼れるのは自分の目と判断だけだ。


『予選は第一組から、順番に開催いたします! 第一組の選手は、案内に従って準備エリアへお進みください!』


 広場の端で、扉が開いた。


 係員が旗を掲げる。


 人の流れが、そちらへ動き始めた。


 レオンも、歩いていく。


 その前へ、小さなゴーレムが声をかけた。


 二言、三言。


 レオンが笑い、拳を下げる。


 石の拳と、軽くぶつかった。


 それから、扉の向こうへ消えた。


〈まず第一組観戦だな〉

〈レオンの動き見よう〉

〈修羅、串食うなら今〉


 俺は、屋台を見た。


 まだ、赤い粉の串が焼かれている。


 ……一つだけ。


「買ってから、観戦しましょうか」


 そちらへ歩き出す。


 途中で、もう一度だけ自分の組を確認した。


 三十二人。


 残れるのは、四人。


 ヴァイスも、さっきの男もいる。


 知らない名前が、まだたくさんある。


 俺は表示を閉じ、背中の斧を持ち直した。


 今のうちに、よく見ておこう。


 自分の番が来るまでに、一つでも。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。