06 おすすめの景色
麻野響子は、美容院で新しい髪形に挑戦しようと思って座ったところだった。
鏡越しに自分を見る。美容院の拡張現実で、おすすめの髪型が立体投影され、それぞれ水平にくるくると回っている。彼女に合わせた肩ほどの長さの髪型で、多様なスタイルが投影されている。
「今日はどういたしましょう?」
体格の大きい男性でありつつも、お姉系の、いわゆるオカマちっくな店員は、似つかわしくないハサミをチョキチョキさせながら聞いてくる。
「うーん、ちょっと、イメージチェンジ、したいかなって」
「いいわねぇ。今どきだとこっちとこっち、でも、響子さんはこういうのもステキかもぉ」
「確かに」
「こういうのもどう?」
店員がお勧めしてきたのは、髪の毛をいくつか編み、後頭部でさらにまとめるものである。
「毎日は面倒かな」
「響子さん、ツーハンドのあるドローン持ってなかった? あれがあったら、アプリいれたらやってくれるわよ、こういうの」
その発言に応じて、髪を編むドローンの姿が投影される。
「だったらそれにする」
その後、髪が切られていき、髪が洗われ、ドライアーで髪が乾かされ、店員によって徐々に髪が編まれていき、後ろでくるっと飾り付けられると、見違えた姿になった。
「どうかしら?」
「とってもいい。サポちゃん記録とっといて」
その言葉を受けて、拡張現実から、サポートAIが出現しカシャ、パシャっといくつもの角度から写真を撮る姿が投影された。満足げに彼女は微笑んだ。
お店を出て、先ほどの写真を3D化表示してくるっと全体を見渡す。やっぱり、とてもいい仕上がりだと感じる。
「ねー、クレジットってどれくらい今月残りあるの?」
『表示します。ちょっと今日は奮発気味ですね』
むむむむ、と彼女は、数字を見て考え込む。できることなら、いっそ、服なども選んでみたかったが、その余裕はなさそうだった。
「はぁー、どこかいい仕事ころがってないかなー」
『探しましょうか?』
歩きながら、
「今日はいい」
拡張現実は帰りのルートを示している。
向かい側の道から、左腕が義手、背中にさらに二本の義手の四本腕の男性が歩いて来る。珍妙に彼女は思った。ツーハンドドローンなど、今どき、機械に腕をつけてしまえばよいことの方が多い。むしろその方が、自分でやらなくていいから楽である。
不思議に思いながらもその男性とこともなくすれ違う。
「あ、そうだ、サポちゃんアプリインストールしといて」
『確認、髪を編むやつですか?』
「うん」
『わかりました』
そうして彼女は帰り道をまっすぐ進んだ。
◇ ◇ ◇
駅前通りのドローン映像に、麻野響子と同じ格好をした人が映った。彼女自身ではない。
カフェを切り取れば、何通りかの格好に分かれていた。
キャンパスを切り取っても、同じ何通りかに分かれていた。
イベント会場も、別の駅前も。
場所は変わる。人も変わる。
麻野響子と同じ髪型の人、短髪の男性、ふくよかな女性といった顔ぶれは、どこもかしこも一緒である。
ビルの屋上に、黒猫がいる。展開した拡張現実のスクリーン群が、四方八方の街角を映し出している。
「僕たちは、もっといろんな選択肢を示しているつもりなんだけどな。なんでもっとカオスにならないんだい?」




