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賑やかな旅立ち

 あれから3日たった。


 トーキョウはまさに蜂の巣をつついたような騒ぎが続いていた。

 それはそうだろう、国王が殺されかけ、その息子が乱心して近衛師団にも甚大な被害が出たのだから。


 結局、王は命を取り留めたがもう起き上がれる体ではなくなったとの事だ。

 あれ以来サリサとは会っていない。

 そんな中、ルチアと部屋で昼食を食べているとファリナが現れた。


「肩の傷はどうですか?」

「まだ痛いけど大丈夫だ」


 部屋に入る時に引っ掛けた傷は結構深くて、生まれて初めて傷口を縫われた。

 全く、この世界に来てからというもの生まれて初めてがすっかりインフレ状態だ。


「そうですか。……とりあえず現状を報告しに参りました。バルジは現在独房に監禁されています。いずれ死刑が執行されるでしょう。シグルト王は今回の責任を取って退位し、まだ成人していませんが特例としてサリサが王位を継ぐ事が決まりました。戴冠式が4日後に行われます」


「そっか。……そういや結局あの王さんはバルジと共犯だったのか?」


 少ないとはいえ、直接接した感じではバルジ程腐った人には見えなかった。


「共犯……であることには違いないと思います。犯行そのものはバルジが勝手に行い、それを知った王が露見しないように色々手を打っていた様です。まあどちらも糞野郎であることには違いありません……おっと、これは失礼」


 ファリナが上品に口を押さえた。

 結局、王もただの親だったという事か。

 子供を愛するが故。

 だけどそれでやった事が許される訳ではない。

 シグルト王が人として、親として間違っていた事は明白なのだ。


「あのバルジが連れていた刺青の奴らは何だったんだ?」


「彼らは忌諱の民と呼ばれる傭兵です。性質の悪い連中で一度係りを持つと骨の髄までしゃぶり尽される事で有名でしたが、幸い今回の件でほぼ全滅したので禍根を残す事は無いでしょう」


 幸い、ね。


 誰も死なないなんて都合のいい理想論だという事も分かっているし、命を狙ってきた連中ではあったが、素直にその死を喜ぶ事は出来そうに無い。

 ここは平和な21世紀の日本じゃない。

 そう割り切る、それが正解なのだろうが、いやな解だ。


「それともう一つ、あなたとサリサの婚姻ですが、全て前王殺しの犯人を見つけるための狂言で、そのような事実はないと通達されました」


 なるほど、それでやけに刺々しかった兵士達(特に男)の視線が無くなったのか。


「そりゃ良かった」


 なぜかこの返事にファリナが食いついた。


「良かった? それはサリサと結婚出来なくなって嬉しいという事ですか!? サリサが相手では不足とでも?」


 なんでこの人怒っているんだ?


「いや……そういう意味じゃなくて。そりゃ俺もちょっとは残念だなーとか思ってるし」


 今度はファリナの顔から表情が消えた。

 そして何故か剣の柄に手をかける。


「……やはり貴様、サリサの体を狙う不届き者か……」


 もう訳が分からん。


「ちょ、どっち選んでもバッドエンドしか無いじゃないか! どうすりゃいいってんだよ!?」

「じゃ、ルチアがおよめさんになってあげるー」


 とか叫びながら、ルチアが背中に抱きついてきた。

 その光景を見てファリナがふるふると体を振るわせ始める。


「ん? ちょっとファリナさん……顔が洒落にならないくらい怖いんですけど……」


 答える代わりにファリナが一気に剣を抜き放ち、零慈に突きつける。


「……貴様、サリサだけでは飽き足らず、こんないたいけな子供にまで手を出しておるとは……そうか、世界の滅びとはお前の事だったのか。よかろう、ならばこの剣の錆びになる事で世界を救うがいい」

「ちょっと待てー! ルチアとりあえず離れろ! って頭に上るな! じゃれ付いてんじゃねえ! だーーー、今お前本気で斬ろうとしただろ!? なんなんだよこれ! 世界を救う前に誰か俺を救ってくれーー」


 その後、救いの手が入る事は無くこの騒動は1時間程続いた。




 結局その後もサリサには会うことなく、戴冠式の日がやって来た。

 戴冠式は最初に零慈が前王に謁見した場所で執り行われている。

 赤い絨毯の両脇に並ぶ銅像の間に近衛師団が並び、王座に一番近い所にファリナが嬉しそうに立っていた。

 兵たちの後ろには、多くの人達が戴冠式を祝おうと詰め掛け、謁見の間は人で溢れかえっている。


 そして主役たる新たな王は古めかしい王座に座っていた。


「サリサきれい……」

「ああ……確かに」


 純白のドレスに身を包み、髪は綺麗に結わえられて後ろでまとめられているサリサの姿はまるで結婚式の花嫁だ。

 ある意味、国と結婚する様なものだから、その姿は最も相応しいのかもしれない。


 やがて戴冠式が始まり、金で刺繍された豪華なローブを来た白髪の老人によって、サリサの頭に王冠が載せられた。

 そしてサリサは立ち上がり、謁見の間に集った人々をゆっくり見回してから口を開く。


「告げる。我は第84代ミズガルズ王、サリサ・ヴァナ・神蔵。我が血はその一滴に至るまで民の物。我が肉体はその欠片に至るまでこの地の物。ゆえに我らが始祖、神人の名の元に誓約する。我は必ず我が民と我が始祖のこの地に栄光と繁栄と安寧をもたらすと!」


 大地が揺れるかと思えるほどの喝采。

 しかしそれは零慈にとって別れを告げる音。


「行こうルチア。まだまだ行かなきゃならないヴァルハラは一杯ある」


「え? でもサリサは? ルチアよんでこようか?」

「サリサはもう来ないよ」


「なんで?」


 ルチアが悲しそうな表情を浮かべる。


「サリサにもやらなくちゃならない事があるんだ」


 ルチアはそれ以上なにも言わなかったが、謁見の間を出るまで何度も何度も振り返っていた。



 

 謁見の間を出て、すぐに2人は気球の準備を始めた。

 お互い黙って黙々と作業を続けている。

 次に目指すヴァルハラの位置は教えてもらっていたし、紹介状も書いてもらった。


 元々、戴冠式を見届けたら出発する予定だったので、食料なども全て手配できている。

 作業は順調に進んだが、それに反比例して雰囲気はますます重くなっていった。


 分かっていた事とはいえ、心に大きな穴が空いたかのような喪失感。

 ルチアも同じ事を感じているのだろう、頭の猫耳もずっとだらんと垂れたままだ。

 零慈も本心はサリサに付いて来てほしいのだが、この国には王が必要なのだ。

 サリサはその責任をあんな小さな肩に乗せて果たそうとしている。

 それに比べたらこの旅はサリサが居なくても大丈夫なのだ。

 ついてきて欲しいなんて我儘、言える訳がない。


 準備が整った。

 世界の滅びについては、無用の混乱を避けるため一般には伏せられている。

 だから誰も彼らを見送る者はいない。

 今頃、街は新しい王の誕生を祝ってお祭り騒ぎになっているだろう。


「それじゃ行くか」

「……うん」


 力なく頷くルチア。

 だが次の瞬間、ルチアの耳がぴんと立つ。


 そしてそれは零慈の耳にも届いた。

 凛とした鈴のような声。

 王となる事を受け入れたはずの少女の声。


「ちょっと待ちなさいよ! もしかして私を置いていくつもり!?」


 駆け寄ってくるのは金を通り越して白に近い金髪を持つ少女。


「サリサだーー!」


 ルチアが嬉しそうに叫ぶ。


「置いていくもなにも、サリサ、王になったんだろ!? 来ちゃまずいだろ」


 バスケットまで走ってきたサリサが息を整えると、キッと零慈を睨み付ける。


「勝手に人の事決めないで。なんの為に私が1週間も部屋に閉じこもってたと思ってるのよ? あらゆる事態を想定してその時の指針となる指示書を作っていたのよ。それさえあれば私が居なくても問題ないわ」


 驚きの顔が次第にゆるんでくるのが自分でも分かる。

 その零慈の顔を見て、サリサが視線を逸らす。


「か、勘違いしないでね。あなたとルチアを2人っきりにしてなんかあったら大変だし、それにあなただけだと世界を救うの失敗しそうだからよ。この世界に生きる者の義務として付いていかなきゃ成らない訳。分かった? 別にただ付いていきたいとかそんなんじゃないんだから!」


 真っ赤になりながら、言葉をまくし立てるサリサ。


「ならば私もお供いたします。サリサをこの男の毒牙から守る事こそ我が使命と悟りました」


 いきなりなんの前触れもなく、ファリナが現れた。


 こいつの先祖は忍者に違いない。


「……ファリナ、お前、どんどんキャラ崩壊して行ってるぞ……」


「とにかく、次のヴァルハラへ向けて出発するわよ!」


 サリサが右手を突き上げる。


「「おー!」」


 零慈以外の3人の息がぴったりと合った。




 ゆっくりと気球がトーキョウの空に上がってゆく。

 目の前では3人が楽しそうに話している。

 何ともない光景、取り立てて語る事など無い一幕。

 だが何故かそれが、今の零慈にとって世界で一番価値が在る物に思える。


 それはついさっきまで感じていた心の穴を埋めてゆき、そこから溢れ出した物が安心感へと変って行く。


「貴様! いまサリサの事をいやらしい目で見ただろう! ……殺す」

「馬鹿野郎! 気球の中で剣を振り回すな!」


 訂正、危機感も加わっていた。

 全くこの先が思いやられる。

 だけどジウロの言った通りだった。

 いま零慈には頼れる仲間が3人もいる。

 そして場所は違えど、同じ志を持ってくれた人もいた。

 この世界を救えるかなんてまだ分からない。

 その事を考えると、未だに押しつぶされそうになる。

 だけどきっと大丈夫だ。

 俺は1人じゃない。

 そう思えた。


 ふと空を見上げる。

 青過ぎるまでに蒼い空。

 それは1万年経っても何一つ変わらない美しい光景だった。


ここまでが文章化できていた部分になります。

一応どう終わらせるかは考えているのですが、この作品が10年以上前に書いたもので正直はっきり覚えているのはラストの展開でそこまでのエピソードはほとんど覚えていないんですよね。

もし続きを読みたいという声がありましたら頑張ってみようかと思います。


私が初めて書いた小説の公開を始めました。


シュレディンガーの子供達チルドレン

https://ncode.syosetu.com/n8346mg/


よかったら読んでみてください。


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