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第12話 鋭働會という組織 そしてあの日の医師

 拘束された江戸ティーンズの構成員は全員、柵で囲まれた駐屯地の一角に押し込まれていた。彼らの多くは自転車や鈍器での衝突のせいか、打撲や擦り傷、骨折の疑いまであるように見えた。兵士たちの顔には疲労と安堵が混じっている。俺は、あの竜巻で負傷した者が多いのだろうと直感した。


 負傷者の手当は迅速だった。誰かが詠唱して掌から球を出すと、負傷者の身体に当てた瞬間に切り傷は塞がっていく。球の効果で出血が止まり、腫れが引き、骨折の疑いのある箇所も何事もなかったかのように治った。治療は機械的で無駄がなく、兵士たちが淡々と動いているのを見て、ここが戦場ではなく復興の現場であることを改めて思った。江戸ティーンズの構成員たちも、治療を受けると表情が少し和らいだように見えた。彼らの恐怖や怒りは消えないだろうが、まずは生き延びることが優先だと俺は考えた。


 15分ほどして、遠くからパトカーのサイレンが近づいてきた。5台のパトカーがゆっくりと敷地に入ってきて、警察官たちが降り立つと、拘束されていた江戸ティーンズの構成員は次々に連行されていった。警察官の動きは手際よく、日の出とともに一連の手続きが淡々と進む。俺は、これで一件落着なのだろうかと胸の中で問いかけるが、答えはまだ見えなかった。


 日の出と同時に、夜勤の兵士から闇カジノ摘発の結果報告が行われた。


「闇カジノ摘発の結果報告だが、摘発チームは店員と客を含め全員逮捕し、兵士たちは全員無事に駐屯地へ帰還した。それと、江戸ティーンズの襲撃についてだが、あれは闇カジノ摘発に対する報復だろう。警察は、闇カジノと江戸ティーンズ本部の間で情報伝達を担う者が現場付近にいたのだろうと考えているようだ」


 俺はその推測を聞いて、闇のネットワークがまだ生きていることを実感した。


 続いて、夜勤の兵士から鋭働會についての説明があった。


「鋭働會は2009年ごろに結成された南関東地域を中心に活動する反社会的勢力で、若年層を組織化して勢力を拡大してきた。15歳から17歳の若者にチームと呼ばれる組織を組ませ、各チームに修行として、合法・違法を問わず様々な商売をさせ、18歳になる前日までに上納した金額が多い者ほど、高い役職を与えられた状態で正會員になれる仕組みで勢力を伸ばしてきた。鋭働會本体は上納金を元手にさらに大きな商売で利益を上げている」


 その言葉に俺は背筋が冷たくなった。若者を搾取する構造が、混乱の中でさらに悪化しているのだと俺は推測した。


 ここで説明を聞いた起輪二が言った。


「なんで警察は20年以上も鋭働會を潰せてないんだ?」


 すぐに夜勤の兵士は事情を説明した。


「鋭働會は少し前までは日本人主体の反社会的勢力で、政府は外国系の反社会的勢力の拡大を防ぐために、日本人主体の勢力に関しては、外国系の反社会的勢力の拡大防止に協力するなら、一定の条件の下で存在を許容する密約等を交わしていた。鋭働會もそのうちの一つだったが、今年1月の鋭働會本部爆破事件で先代會長が殺され、新會長に代わってから、鋭働會は政府も許容できないような悪事に手を染めるようになった。4月には暫定本部への摘発が行われたが、既に撤収済みで本部の所在は今も不明だ」


 この説明を聞いた俺はこの組織が根深く、追い詰めるのが難しいことを理解した。


 入浴と簡素な朝食を済ませた後、8時半ごろに兵舎の入り口付近に全員が集められた。勤務時間終了直前の兵士が、術師化施術後に引いた籤の話を始める。


「術師化施術の後、籤を引いて1から7の数字のどれかを引いたのは覚えているか?あれは出勤義務日と、体の検査を何曜日にするかを決めるためのものだ。詳しいことはこの紙に書いてあるから目を通しておけ」


 俺は紙を受け取り内容を確認した。俺があの日引いた数字は7だ。7を引いた者は出勤義務日が火水木金土で、検査日は日曜日になるようだ。今日が検査日の者は診察室から呼ばれるまで兵舎内で待機するように告げられたため、俺は兵舎内で待機することにした。


 9時ごろ、パドリグは日勤の兵士から、第1診察室に向かうように言われ、俺は直ちに第1診察室へ向かった。廊下の空気は朝の冷たさを含んでいて、俺の心臓は少し早鐘を打っている。何が待っているのか、期待と不安が混ざっていた。


 第1診察室の扉を開けると、男性の医師がいた。彼は俺を見て、英語で言った。


「あの日は自己紹介出来なくてすいません」


 この声で気付いた。あの日千葉市の病院で俺を診てくれた医師だと。俺はすぐに日本語で言った。


「気にしないでいいですよ」


 医師は驚いたように言った。


「パドリグさん、日本語話せるんですか!?」


 俺は正直に返答した。


「簡単な言葉と挨拶程度ならわかります」


 すると医師は名乗った。


「私の名は篠崎 刀一(とういち)です」


 俺は思わず口を挟んだ。


「国道1号線再調査チームに苗字が篠崎で名前が刀子という人がいるけど、親戚ですか?」


 刀一は短く笑ってから答えた。


「刀子は私の妹です」


 その言葉を聞いた瞬間、俺の中でいくつかの点がつながった。あの絨毯に乗って空を滑る女の母親のこと、講習での刀子の立ち振る舞い、そして今ここにいる医師の落ち着いた物腰。刀子の家族はただの一般家庭ではないのだろうと俺は推測したが、詳しいことは彼女自身に聞くべきだと考えた。


 刀一はすぐに表情を切り替え、仕事の顔になった。俺が話したいことがあるだろうと察したのかもしれないが、彼は手短に言った。


「パドリグさんも話したいことがあると思いますが、私は暇じゃないので、早速ですが検査方法と異常が発見された場合の治療について説明します」


 俺は椅子に腰掛け、彼の説明を聞く準備をした。そして検査内容の説明が始まった。


「検査内容ですが、まずは正常な細胞だけを一時的に透明化する球を使い異常のある箇所を特定します。異常のある箇所があった場合は、球に当たった人の時間の流れを一時的に停止する球を使って、パドリグさんの時間の流れを止めている間に、球に当たった人に対して、時間の流れが止まった人に干渉する力を付与する効果を持つ球を、オリハルコン製の手術用メスに使用し、異常のある箇所の切除をした後、傷を治す球を使って欠損箇所の再生や傷の完治をします。準備ができたら横になってください」


 俺は深く息を吸い、検査台に身を預けた。外の世界はまだ動いている。だが今、この小さな部屋の中で、次の一歩を踏み出すための準備が進んでいるのを感じていた。

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