40.僕たちにできること
双子のエルフと一緒に屋内に入ったと思って振り向いたら、二人はいなかった。
状況理解に数秒。
脱ぎかけていたギルド職員のマントが手元から落ちる。
後、玄関開放。
周囲確認。
ギルド前の直線道路右奥に、走るふたつの影視認。
「……ココちゃん! ロンくん!」
声かけに振り向いた二人は躊躇した様子だったが、再び走り出す。
慌てて追いかけると、ココちゃんが振り向きながら声を張る。
「シオ、来ないで! すぐ戻るから!」
「やっぱり現場に向かうつもりなんだね⁉︎ 待ってるって約束したじゃないか!」
エルフの身体能力は人間よりも優れているが、身長差もあって僕の方が早い。徐々に距離が詰まる。
母親を助けたいという気持ちは尊重する。
それはそれとして、待っているという約束を速攻破ったことは怒らなければならないし、誘拐事件の実動部隊の邪魔になる行動は避けないとならない。
「止まりなさい!」
「わわわ、ど、どうしようロン……! 追いつかれちゃうよ!」
「シオ……! ……っ、ごめんなさい!」
急にロンくんが踵を返し、こちらに向かって駆け出した。
戻ってきた? にしては勢いが……ぶつかる、え? 一体何を……。
「ロンく——、ちょ、うぉあああぁぁっ⁉︎」
全速力で体当たりでもされるのかと、腹に力を込めて腕を前に出す。
が、予想は外れ。
————スパァン‼︎ といい音を出しながら、ロンくんの足払いが炸裂した。
体重を前側にかけて構えていたので、前面から足を払われると当然前に倒れる。
なんとか両手をつくが耐えられず、胸にこさえた脂肪がグニュリと潰れる。
……おっぱいって柔らかいのに痛いんだぁ……そりゃそうか、神経は通ってるんだもんなぁ……。
だがおかげで、胸骨を打つことは避けられた。骨折するよりはマシだろう。ついでにスラジャーがクッションになったのかもしれない。ありがとうスラジャー。今やすっかりジョニーに変わる相棒だ。
「う、うぐぐぐ、ぐぐ……」
とはいえ痛みで即時起き上がれるわけではなく。
その間にロンくんは素早くUターンしココちゃんと合流している。
「ごめんなさいシオ……! 後でいっぱい謝るから!」
「ごめんなさーい‼︎」
そうしてまたバタバタと走っていく二人。
擦りむいた手を払い、胸を払い、立ち上がる。まだ見失ってはいない。行ける。
「すみません、ギルド『グラウンディ』に通報を……! 『ウインドコット』のシオからだと伝えてもらえればわかるので!」
「わ、わかったわ。お嬢さん大丈夫なの?」
「大丈夫です! ありがとうございます!」
居合わせたご婦人に伝言をお願いしつつ、鬼ごっこを再開する。
全くもう、叱る内容が増えたぞ。
しかしこのまま追ったところで同じことを繰り返し、やがて潜伏場所に着いてしまう。
近くで騒ぐのも危険だ、なんとか街から出ないうちに止めなくては。
アジトの場所は、以前キャミルさんと薬草採取に出かけた森にある。
あの時は道中安全だと言われたが、今は夜だし。そもそも誘拐犯が潜む森なんて危険どころの騒ぎじゃない。
二人の母親が攫われたのは魔力が高いからだけでなく、二人を守るために囮になったからだ。
ココちゃんとロンくんの魔力の高さが知られれば……彼らもまた、攫われる側になる。
それだけは絶対に阻止しないとならない。
「二人とも待って! 一回止まって!」
「ダメなの、ママのところに行かないと!」
「見てくるだけだから! そうしたら、ちゃんと戻るから!」
僕は、二人を力づくでは止められない。
魔法が使えない。魔力の流れも感知できない。冒険者のように鍛えた能力があるわけでもない。この世界の知識に乏しい。
人攫いと対峙したって、きっと戦えない。
だけど。
「————僕も行くから! だから待って‼︎」
ペンダントを、強く、握る。
戦えなくても。
時間を稼ぐことは、できるはずだ。




