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「そういえば・・・今、何時なんだろう?」
ふと我に返り、俺は光学パネルを出現させ目をやった。
カオリたちの情熱的な『ライフプラン』に飲まれて、時間の感覚が麻痺していた。
「めぐりちゃんは、早く返さないと親御さんが心配するだろうしな」
俺がそう言うと隣で漸く此方を向いたシュウさんが、自身の光学パネルの時間をチラリと見て頷いた。
「フフッ・・・。リョウ君、君のその冷静さは美徳だよ。・・・確かに、若いレディを遅くまで引き止めるのは元大佐としても、一人の親としても感心しないからね」
「シュウさんが言うと、重みが違いますね・・・」
「お兄ちゃん、大丈夫だよ!ボク、今日は彼氏の家に、お泊りって言ったし」
「めぐりちゃん?それは、ちょっとマズいんじゃないかな?」
そんな事を言っていると、めぐりちゃんの魔導通信機から、前世の特撮物の懐かしいメロディーが流れて来た。
「・・・リョウ、此れって」
俺たち転生者なら、分かる。
リリーさんと俺の耳は、誤魔化せないぜ!
「もしもし?」
めぐりちゃんが、誰かと通話し始めた。
「え〜?だから、彼氏だってば。うん!・・・え、代われ?ちょっと待ってね。お兄ちゃん、お父さんが話があるって」
「ちょっと!? 俺なの!?」
嫌な予感しかしない。
めぐりちゃんが、ブレスレットを嵌めた手をこちらに突き出してきた。
彼女の魔導通信機はブレスレット型か、なんて呑気なことを考えていられたのは、そこまでだった。
『自分、どこの誰やゴラァ!ワシの娘をたらかしやがって! 今からそこ行ったるからな、首洗って待っとけよボケェ!!』
鼓膜を突き破らんばかりの爆音が響き、ブツリと一方的に通話が切れる。
・・・俺は、錆び付いた機械のような動きで、ゆっくりとめぐりちゃんの方へ顔を向けた。
「め、めぐりちゃん?お父さん、もの凄く・・・というか完全に殺る気、満々でお怒りなんだけど?」
俺が震える声で問い掛けると、めぐりちゃんは小首を傾げて、更にとんでもない爆弾を投下した。
「だって、仕方ないよ〜。ボクの『はじめて』を、お兄ちゃんにあげちゃったんだもん」
「ちょっと待って!?『はじめて』って何の話!?語弊しかないから!誤解を招く発言は、危険が危ないから今すぐ止めて!?」
俺の絶叫が、店内に響き渡る。
・・・刹那、周囲の空気が凍りついた。
店内の客たちが一斉にこちらを向き、その目は明らかに『凶悪な性犯罪者』を見るそれへと変わっている。
そんな刺すような視線にも気づかず、めぐりちゃんは頬を染めて追撃してくる。
「だってお兄ちゃんが、はじめてだよ? ボクのことを強引に引っ張って外に連れ出して・・・そして、あんなに熱く激しく・・・、叱ったの」
「言い方ぁぁ!!」
その言葉だけ切り取ったら、完全にアウトだ。
慌ててシュウさんに助けを求めようと隣を見ると、彼は『元大佐』の冷静さで、音を立てずに椅子を一つ分遠ざけていた。
と、取り敢えず、他に助けてくれる人は!?
珊瑚やカオリ、ミリィさんやユカさんたちを見ると、皆でお喋りしながらフードコートでお茶してる。
あれ?
なんでだろう、目から汗が出るよ?
まるで人間が個々に薄い心のバリアを持っていて、それを全開で使用すれば巨大なモンスターの攻撃すら止められる、あのフィールド!
それを使用して拒まれてる様な、この感じなんだろう?
監督は?
監督なら、俺を助けてくれるんじゃないか?
そう思い、周りを見渡すとセニョール監督の姿が無い。
「シュウさん?セニョール監督は?」
「彼なら、次の撮影場所を探しに行くと、此処から去ったが?」
『祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす。
おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。
たけき者もついにほろびぬ、ひとえに風の前の塵に同じ』
俺の脳裏に、平家物語が流れる。
「あっ!お父さん!この人が、ボクの彼氏!!」
「・・・ワレェ!ワシの、可愛いめぐりに・・・『激しいこと』をしたボケナスは・・・どこのどいつやぁ!!」
空気の振動だけで、窓ガラスが震えるような咆哮。
お父さんが、俺の目の前まで詰め寄ってきた。
「おい!?ワレか、ウチの娘をたらかしたボケナスは!覚悟はできとるんやろうな?指詰めぐらいじゃ済まさんぞ、ゴラァ!!」
「ひ、ひぃぃ!」
「そんな、どこの馬の骨かも分からんような奴、お父さんは絶対許さへんぞ!そもそもワレ、どこの誰やねん。ちゃんと仕事しとんのか?年収はナンボや?それにな、いきなり『彼氏』やなくて、普通は文通から始めるもんちゃうんか、ボケェ!!」
あまりの剣幕に、俺は反射的に首を横に振った。
「ち、違います!違うんです!」
「あ?違う?いま、違う言うたんか?ワシの聞き間違いやなかったら、勘弁したってもええわ。・・・もういっぺん聞くぞ。違うって、何がどない違うんじゃゴラァ!!」
懸命に、説明しましたよ。
それはもう、身振り手振りを交えて、時に英語や外来語を混ぜ、そしてこの世界の法律も交えて、めぐりちゃんにも、説明して貰いましたとも。
途中、めぐりちゃんから、また危ない発言が飛び出したけど、まぁ何とか誤魔化して。
「なんや、誤解やったんか。それやったらそうと、早う言うてくれたらええのになぁ、ホンマに困るわ。・・・けどな、もし今後ウチのめぐりに、手ぇ出すようなことがあったら・・・分かっとるやろな?」




