♥ 嗚呼っ、婚約破棄!! 7
トゥヱにお願いをして、シモベさん達にワタシの婚約者である殿方の動向を偵察してもらいました。
殿方は誠実な方でした。
“ でした ” なので過去形です。
ワタシと会わない間、殿方はワタシ意外の独身女性と仲睦まじく過ごしているという報告をトゥヱを通じて聞きました。
殿方と貴族令嬢は、とても親しそうに笑い合い、楽しそうにデートを繰り返しているという報告もトゥヱを通じて聞きました。
これはまたしても殿方から婚約破棄をされる流れとなる予感がします。
ワタシはトゥヱにお願いをして、ワタシに婚約を申し込んで来ている全ての殿方の身辺調査をシモベさんにしてもらう事にしました。
ワタシは殿方がどのような方なのか一切知りません。
殿方の情報は何1つ、ワタシに入って来ないからです。
トゥヱはワタシの “ いけない ” 我が儘を聞いてくれました。
新しいシモベさんを呼び出して、殿方達の身辺調査をしてくれる事になりました。
トゥヱ
「 トレス、気を落とすな。
人間の男に拘る必要もなかろう 」
トメリロレンス
「 トゥヱ…? 」
トゥヱ
「 トレスへ婚約を申し込んで来た男共の資料だ。
トレスが読めるように大陸語に翻訳したぞ 」
トメリロレンス
「 有り難う、トゥヱ 」
ワタシはトゥヱが用意してくれた資料に目を通す事にしました。
どの殿方も真面目で誠実で、女性とは縁のない男性である事が分かりました。
彼等ならば、ワタシ意外の貴族令嬢と婚約しても上手く行くと思えてしまいます。
何故その様な彼等が、揃いも揃って伯爵令嬢のワタシと婚約をしたがるのでしょうか??
トメリロレンス
「 トゥヱ…分からない事があるの 」
トゥヱ
「 何が分からぬのだ、トレスよ 」
ソファーの上に座り、資料に目を通して読んでいるワタシの左横に座っている人型をしたトゥヱが不思議そうにワタシを見下ろしながら聞いて来ます。
トメリロレンス
「 過去にワタシの婚約者だった殿方達の資料を読ませていただいているのだけど……、ワタシと婚約する前の殿方は女性と一切関わりがないのに、ワタシと婚約をして婚約者となった日を境目にして、嘘のように女性との関わりが増えているのです。
これはどういう事なのかしら??
資料を読む限り、ワタシと婚約前の殿方を好いている女性の事が一言も書かれていないの。
それなのに、ワタシと婚約をした途端、翌日には嘘のように殿方に関わろうとする貴族令嬢が日に日に増えているの。
今まで見向きもしなかった殿方へ積極的に近付いて親しくなろうと攻めているみたいです。
これはどういう事なのかしら?? 」
トゥヱ
「 ふむ…確かに妙ではあるな。
女共に全く見向きもされず、女共から相手にもされなかった冴えない男共が──、トレスの婚約者となった途端に女共の方から男共へ近付き積極的に関係を求めるようになる──か。
何かあるのやも知れんな 」
トメリロレンス
「 …………やはりワタシは何かに取り憑かれているのかしら…?? 」
トゥヱ
「 トレス、それはない。
心配するな。
我が気に食わんのは、男共が我のトレスにばかり求婚を申し込んで来る事だ。
他にも求婚の出来る女共は居ると言うに、何故トレスにばかり求婚して来るのか…。
気に入らん 」
トメリロレンス
「 トゥヱ… 」
トゥヱ
「 この屋敷に居る限り、トレスは婚約を受け続ける事になる。
逸その事、屋敷を出て暮らしてはどうだ? 」
トメリロレンス
「 え? 」
トゥヱ
「 屋敷を出て行くのだ。
長女も嫁いで出て行ったであろう。
トレスから略奪した婚約者と交際している妹が居るのだ。
屋敷の全てを妹へ任せ、トレスは我と屋敷を出ればいい 」
トメリロレンス
「 …………そんな事…考えもしなかったわ…。
屋敷を出るなんて……。
でも…此処に居なければ、殿方と婚約をさせられる事はないわね。
トゥヱ、屋敷を出た後はどうするの? 」
トゥヱ
「 我に任せよ。
連れ戻されても困る故、他国へ行く。
他国で自由を謳歌すれば良い 」
トメリロレンス
「 トゥヱが居てくれたら心強いわね。
出て行くとしても、急には止しましょう。
旅支度をしたいわね。
1週間程の旅行に行きたい事をお父様とお母様に話してみるわ 」
トゥヱ
「 そうか。
騒ぎになると面倒ではあるな。
穏便に出て行けるなら、それに越した事はないな 」
トメリロレンス
「 早速、旅支度を始めましょう。
何だかワクワクして来たわ♪ 」
こうしてワタシはトゥヱの提案に乗る事にしました。
婚約しては、破棄される事が繰り返される暮らしはもう懲り懲り。
これからは婚約とも婚約破棄とも無縁な生活を新しい場所で心機一転して生きる事にしました。
トゥヱが居てくれて本当に良かった。
旅支度を済ませたワタシは、夕食後に両親へ1週間程の旅行をしたい事を伝えました。
渋っていたお父様でしたけど、お母様がお父様を説得してくれたお蔭で、旅行に行く許可が取れました。
早速、明日の早朝に屋敷を出て旅行へ向かう事を話すと、お父様はショックを受けたのか倒れてしまいました。
お母様は「 お父様は娘離れが出来ていないだけよ 」と笑いながらワタシに言うと、「 心配しないで楽しんで来なさい 」と笑顔で言ってくれました。
お母様……有り難う御座います。
お父様……今まで伯爵令嬢として育ててくれて有り難う御座いました。
ワタシ、トメリロレンス・ヒルトクッグは、明日の早朝、ヒルトクッグ領を出て、他国で暮らします。
他国に入る前に家族宛に手紙を書いて出しますね。
自室へ戻るワタシの足取りは自分でも不思議なぐらいに軽かったです。
まるで自由の空へ羽ばたける翼を手に入れた人鳥族になったみたいです。
心が躍る──とは、このような状態の事を言うのでしょうか??




