50話 ガイスとエイラ
「じゃあ、今13時だから15時にはまたここに集合しよ」
「うん、ありがとう」
「そんじゃあ、15時に集合ってことで」
予定変更は簡単に決まりエイラとガイスは先程サエラさんたちが歩いていった左側に。ユイラは一人右側に足を向け歩き出した。
私は遠ざかるユイラを眺めちょっぴりと寂しい気持ちを唾で飲み込んだ。別にもう会えなくなることは無いし、何なら二時間もすればまた顔を見ることが出来る。それでも、王都を一緒に散策したかった気持ちは置いてきぼりになってしまった。
「早くい行くぞ。時間ないんだから」
既に歩き始めたガイスの背中を蹴ってしまおうかと考えたが流石に理不尽なのでやめておいた。
ガイスは同じような外見をした屋台に目を向けぶつぶつといいながら歩く。店主が時より声を掛けるが自分の世界に入ってしまい耳には届くが脳が処理を実行していなかった。
街並みは代わり映えしない屋台が並び先ほど通ったのではないかと勘違いするほどだった。店主や交通量などは違うが外見は木材で作られた小さなお店である為、目が同じように認識してしまう。
「ガイスは何をミツネにあげるんだっけ?」
「今のところヘアピンかな」
「なんで、ペアピン?」
私たちの村ではペアピンを使う人なんかはあまりいない気がする。髪も余り纏めることが無いので余計に見ない。ここの王都に来てからは髪を纏めている人をよく見かけるが、ミツネにはどうなのだろうか。
「最近、王都では流行ってるんだよ。硝子細工で作った花のペアピン」
ガイスは屋台から目を離し、道行く人を眺め視線で私を誘導した。配送馬が通る道を挟んだ先の道に私たちと同じぐらいの歳の少女が金色の髪に青い花のを付けていた。硝子が太陽に反射し綺麗な青色を引き立たせ海が光るように金色の髪を引き立てていた。
私はそのヘアピンを見て心から綺麗だと思ってしまった。
「多分ミツネにはオレンジ色の花が合うと思うんだよね」
「私もそう思うよ」
先ほどとは打って変わり私は並べられたヘアピンに目が離せなくなってしまった。
花の形にも様々な種類があり、花びらが一枚の者から綺麗に円状に何枚も付いている物。色や大きさ、ピンの色。唯一無二な訳ではないが今見ている店だけでなん十種類もあるのだから、貰った相手からすればしっかりと選んでくれたと感じることができるはずだ。
「ここには無さそうだな。次に行こう」
ガイスは店の棚を端から端まで見回し次の店に歩き出した。そんな彼の背中を追う時にある物を発見してしまった。氷の中に入った無数のガラスの細い物体。中に液体が入っているのか店主が氷をかき回すとゆらゆらと波打った。あの場所だけ涼やかな風が流れ、街の中では温度差が異様に低そうだった。
「ガイスあれ、なに」
私はガイスのTシャツを引っ張り止める。
「いだいいだい、ぐびじまる」
濁音がガイスの口から沢山放たれたことに気が付きエイラは手を離し軽く謝った。首元を摩りながらガイスは苦い顔を向けたがエイラは先程とは逆にガイスに目線で見てほしい場所を知らせた。ガイスは顔を上げエイラの視線の先を追うと平坦な声で答えを出した。
「ラムネだよ」
「ラムネ?」
「うん。簡単に言うと甘い炭酸水」
ガイスの答えに頭の中が真っ白になるがそんなエイラに気付くことなくガイスはラムネを売っている女性にお金を渡し二本もちこちらに来た。
「ビー玉を強く押し込むと飲めるんだぜ」
ガイスは親指以外で瓶を持ちビー玉を慣れた手つきで押し込んだ。カランっと高い音が鳴ると中から勢いよく泡が吹き出し一滴も落とすことなくガイスは口を当て喉を鳴らす。
「やってみ」
ガイスはラムネをエイラに手渡し、自身は勢いよくラムネを飲み干す。
冷たい瓶に熱がこもった手が冷やされていく。瓶に付いた水滴が線を書き垂れていき地面に落ちる。そんな水滴を見るだけでどこか体の温度をもって行ってしまいそうだった。
「冷たいうちに飲まないと、不味くなるぞ」
ガイスは近くのゴミ箱に瓶を捨て服で手を拭いた。
エイラはガイスの真似をし強くビー玉を押し込むと、カランとなりビー玉が瓶に落ちていく。しかし、ガイスの様に直ぐに口を付けない為、中の液体が溢れ出し指に絡みついた。
「何してんだよ」
ガイスは店員からタオルを貰い手渡してくれたが私は少しびっくりしていた。
「どうやって炭酸を取り込んでるの?」
私の答えにガイスは目を伏せワントーン落としたいつもより低い声で話してくれた。
「最初は瓶に魔法を付与していたんだよ。でも、今は更に凄いことになってビー玉に炭酸を発生させる魔法が付与されているんだよ」
「ビー玉に?」
「そう。ビー玉みたいな小さい物にこんな綺麗な魔法を付与できないんだよ。でも、あいつはやってしまった」
ガイスは歩き出し、屋台を見回す。エイラはそのあとをラムネを持ちついていく。瓶の中にあるラムネがカランカラント高い音は暑い日にとても気持ち良く響いた。
「それ、作ったの同い年だぜ。しかも、受験でいきなり作って主席合格。隣で見て本当に驚いたよ。武器じゃなくて瓶を作ってすぐに帰っていったからな」
ガイスにしたら私の手の中で響く、ビー玉が瓶を弾く音が不愉快なのかも知れない。
エイラは一歩下がりカランとなる音を立てるのをやめ後を追う。
「まぁ、俺は武器をしっかり作れたから良いんだけどな」
下がったことがバレたのだろうか。なんだか気を遣わせたみたいで、こちらが恥ずかしくなってきた。
「まぁ、それよりもガイスはミツネでしょ?」
「あぁ、早くプレゼント探しに行くぞ!」
ガイスは腕を伸ばしながら少しだけ高い声で気合を入れた。
その声は私にはビー玉が瓶を弾くようにカランと聞こえ、体にこもった熱を少しだけ高めていった。




