48話 魔法を使う時
私が唱えた言葉は余りにも響かず空気に吸収されていくようだった。何も変化がないのかとドアノブを見つめているとあたりが次第に暗くなっていく気がした。その異常さに振り返ると、今まで通ってきた道にあるランタンがゆっくりと奥から消えていく。息を吹きかけたように変えるのではない。何かに絞られていくようにジワジワとあかりが消えていく。
そんな光景に鳥肌が立ち目を逸らし再びドアノブを見る。誰か後ろから迫るような感覚に襲われる。体は動いていないが、私の影は少し揺らぎその長さを伸ばす。目視できない産毛が立ち始め体が信号を送る。
目を瞑り堪えていると何かが動いたような感じがした。
ユイラの目の前の扉は3Dアニメーションのように滑らかに音を立てず開いたがユイラはその光景を認識していなかった。
「扉が空いた...」
ユイラはその場で動かず先程の怯えとは打って変わってキョトンっとしていた。
目の前の扉は空いたが中は真っ暗で何も見えていない。目の前が夜の深い森の様に月明かりが届かない。入り口には薄い幕が張ってあるのか別世界と隔離されているような雰囲気がした。
恐怖なのか興奮なのか境目が分からないくらい心臓は脈を打ち足は震える。私はまた一歩お母さんに近づいたのだろうか。少しの嬉しさとまだ遠い距離に口が開いてしまう。
私は魔法が使えたのだろうか。この謎の場所に足を入れ、開かない扉を開けた。もう、魔法が使えるようになったのだろうか。もし、魔法が使えるようになったのならまた沢山勉強をしなくてはいけない。ユイラは自嘲気味に笑い足を一歩前に踏み出した。
扉の中に一歩踏み出す時私はお母さんの声が聞こえた気がした。「ユイラにはまだ魔法は使えないかな」そんな言葉が聞こえたので私は小さく返した。
「お母さん、私多分魔法使えるようになったよ」
ユイラは小さく呟き闇の中に入って行った。
何かよからぬことが起こると勘ぐったが目の前に広がる世界はとても興味をそそられ瞬きを忘れてしまった。
「本当に本屋だ」
目の前に広がる世界は私が知らない世界。奥が見えない暗い場所のはずが一歩前に踏み出しただけで世界がまるで変わっていた。
均等に本棚が並び壁には本が嵌っている。少し見ただけでもわかる広さは目が回りそうな大きさだった。周りにはちらほら人がおり真剣に本を物色していた。
光は眩しくもなく暗くもない。本を開いた時に文字は綺麗に見えるよう調整しているのだろう。読書をする時には集中力が高くなりそうだった。
それよりも本を探さなくては行けなかった。高い位置にある時計を確認したら既に時刻は14時だった。集合は15時なのであと一時間しか時間は無かった。興味がある場所を回りたかったが、そんな余裕はないだろう。
「取り敢えずベラルーカの冒険譚を探すか」
ユイラは柔らかいベージュ色のマットを踏み歩き背の高い本棚を見上げ表示を確認し始めた。