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11-7 弓の秘密

 何も言葉を発しないリトの代わりに声を出したのはアリドだった。


「だから、何だ?」


 リトの肩に置かれた手に優しく力がこもる。

 だからリトはなんとか崩れ落ちずに済んだ。


「イヤア ベツニ」


 からかうような口調で言いながらデュマーはポリポリと頭をかいた。


「んじゃ早く、次の道標とかゆー、珠の並びについて教えろや」


 まるでデュマーのばらした秘密についてみんなに考えさせる間を与えさせないかのようにアリドは話を進めた。


「ンー」


 デュマーはニヤニヤとみんなを見回す。


「タマノ ナラビハ ソノ ミゾガ ケイヤクノ マホージンノ センヲ エガイテル」

「はっ?」


 みなが思わず我が耳を疑った。


「【珠の並びは、その溝が、契約魔法陣の線を描いてる】? 何だぜ? それ?!」


 世尊が繰り返す。 


「イミ ワカンナイ?」

「いや、言ってることは分かるぜ?! ってか、その!?」


――契約魔法陣って何よっ??

 リトは声にこそ出さなかったが、みなと同じ疑問を抱いた。


「ダツテ コレガ コタエダヨー?」

「……だろーな」


 そこで佐太郎がやっと声を出した。

 みんな、すがるような眼差しで佐太郎を見た。

 デュマーの言ってることが、佐太郎には理解できるはずだから。

 だが、そこにいた佐太郎はものすごく深刻そうな顔をしていた。


「人間と死に神の契約を交わすための魔法陣なんざ、死に神しかしらねぇだろっがよ」


――えっ?!


「ソーンナコト ナイヨー ミンナ ミタジャン」


――えっ?


「アホいえ。 石版にはまっていた状態から落ちたのをみて、どの珠がどこに入ったなんて一目で覚えているのは瞬間記憶能力を持ってる教育係くれーのもんだ」

「ダヨネー♪」


 デュマーはニコッと笑った。


「んだよ、困ったな」


 佐太郎がふて腐れるように椅子に座って頬杖をついた。 


「ち、ちょっと待ってよ」


 清流が口を挟んだ。


「死に神は言ったよね? 3人も人間がいれば2日もかからず死の波紋を解除することは出来るって。 でもこれはどう考えても無理だよ!? 死に神は嘘がつけないんでしょ?」

「ウソ ナンカ ツイテナイヨー」


 デュマーは楽しそうに言った。


「キョーイク カカリ ハ ナラビモ シッテイルシ タマノイロモ ホトンド シツテイル。 キョーイク カカリ ガ シラナイ ブブンノ タマノ イロ ダケ オマエタチガ シラベルノニハ 2カモ カカラナインダヨネー♪」

「そっ、その、ラムール様が知ってるっていうぶんは、どこにあるの?」


 リトは思わず尋ねた。


「ソレハ キョーイク カカリニ キーテ モラワナキャア」


 デュマーがすかさず希望の退路を断った。

 確かに、ラムールは珠の並びも珠の色もほとんど分かっているのだろう。

 だが、それをどうやってラムールから教えて貰えと?

 ラムールは今も意識を失って寝ているのだ。

 起きるのは、少なくとも――


「でもラムール様は10日は寝てるって佐太郎さんが言ってたから、無理じゃないっ!! 他に、他にないのっ?」

「アルヨー」


 明るく答えるデュマーに思わずリト達の表情に明るさが戻る。


「ヒミツノ バクロ ヒトリ ヒトツニ ツキ イッカショ ノ タマノ ナラビヲ オシエテアゲル♪ ソレダケノニンゲンデ テワケシテ タマヲ ミレバ イロダッテ スグ ワカルサ」

「秘密の暴露……」

「一人につき一カ所……」


 少年達がつぶやくなか、リトが明るい声を出した。


「じゃあ、くぼみは65個だから、あと、57人いればいいってことよねっ?」


 57人。

 多い数だ。 しかし、スイルビ村の人達、女官達、それに教師や兵士、頼ろうと思えばどうにかなる人数だ。


「平気よっ! だって、デイだって事情知ってるし、協力してくれる人は山ほど……」

「無理だな」


 浮かれるリトを佐太郎の冷たい一言が制した。


「さ、佐太郎さん?」


 リトはアリドの側から離れて、一歩、佐太郎に近づいた。

 佐太郎はあえて目をあわせないようにしているのか目を閉じたまま、頭をぼりぼりと掻きながら言った。


「波紋解除に関わる人間が多ければ多いほど、解除できる確率は高くなるがな、それと同時に、死に神と契約を結んだ奴らにも事がばれやすくなるってこった」

「……でも」


 そうしないと、解除できる確率がほとんどなくなる訳で。


「だから俺は教育係の希望も踏まえて、ここにいる奴以外に協力して貰おうとは思ってねぇ」

「だってそれじゃ」

「……まー、確かに、俺には珠の並びもわからねぇし、色すら全部判明させるにゃあ、5日じゃ足りねぇってのは間違いねぇんだがよ」


 佐太郎は頭をかくのを止めて目を開くと、一度フッと指先についた埃を吹き飛ばした。

 そしてゆっくりとリトを見た。


「残念だがここは特殊な部屋でな。 秘密を護るためにも、この契約に関わった奴がいくら扉を開けて別の部屋に行こうとしても外には出られねぇ。 俺がこの部屋の設定を変えねぇかぎりはな。 つまり、協力を求めに行こうとしても無理だっつー話だ」

「……そんな……」


 リトの悪い予感が的中した。

 この部屋の扉の何処を開けても仮眠室みたいな部屋しか繋がらなかったとき、「閉じこめられた」と思ったのだ。

 ここから、逃げ出すことなんか、無理なのだ。


「で、でも、そうすると」


 リトの声がうわずった。


「も、もう、無理だってことじゃないですか?」


 佐太郎は申し訳なさそうに視線を反らして返事をしなかった。


「無理だって、ことじゃないですかっ!!」


 リトが責めるように叫んだ。

――無理っ? 無理? もう、波紋解除はできないっ?

 頭の中で現実がぐるぐると狂ったようにリトを混乱させた。

 めまいがした。

 気持ちが悪かった。

 これってどんな悪夢なのよと胸が押しつぶされそうに痛かった。


「ソーンナ シンコクニ ナラナクテモ イージャン♪」


 不意に、デュマーの明るい声が届いた。

 リトはデュマーを見た。

 デュマーの瞳は艶やかに黒々と光って、それが逆に得も言われぬおぞましさを感じさせた。

――黙ってて。 これ以上、何も言わないで。

 リトはこれからデュマーが発するであろう言葉に恐怖を抱いた。

 デュマーが何を言うかは分からないが、間違いなく、リトの精神を追いつめるものだろう。

――いやだ、聞きたくない

 そう思っても、リトは自分の耳に手をあててふさぐことすらできなかった。

 ゆっくりと、デュマーの口が開く。


「ダーッテサア」


 その視線が、弓へと向く。


「ユミハ-」


 その出だしを聞いて、弓の顔も強張る。

――弓は?

 リトは違うであろうと感じているのに、何かを期待して弓を見た。


「ユミハ-」


 デュマーは一度焦らしてから言った。


「ココデ シンデモ イイカナー ッテ オモッテルヨネ」


 弓はさきほどのリトと同じで、何も言い返さなかった。


【ここで死んでもいいかなって思ってるよね】



 それが。

 弓の。

 真実ならば。



「弓っ!!」

 リトは叫んだ。


「ち、違、違うのリトっ」

 弓は慌てるがそれはデュマーの言ったことが本当だと裏付けしただけで。


「弓の馬鹿っ! 私は死にたくないっ!!」


 リトは弓の言葉を聞かずに叫ぶと、身を翻し、巳白がいる部屋をドンドンと何度も大きくノックした。




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