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11-1 佐太郎の家へ

 リトがショックを受けているのも気にせずに、佐太郎がみんなを見回した。


「そんじゃあ、お前ら。 これから俺んちに行くぞ。 デイは義軍連れてテノス城に帰ってろ」


 言いながら地面に科学魔法の札を貼って扉を作り、空間をテノス城と繋げた。

 開いた扉の先に見えるツタの絡まる壁を見て、デイが感心した声をあげた。


「わ、佐太郎さん。 やっぱり王族居住区に空間繋げきれてたんだ。 結界があるのに、すごいね」

「そりゃあ俺様だからなぁ。 ……いいか、デイ。 ガルオグには訳は後で話すと言っておけ。 そしたら詮索もしねぇからよ。 それと当然、今回のことは義軍にも言うな。 お前の胸ん中だけに隠しとけ」

「うん分かった。 ――羽織」


 デイが羽織の方を向いた。


「せんせーのこと、頼むね」


 羽織はただ頷く。


「世尊。 義軍のことは心配しないで」

「ああ。 頼むぜ、デイ」


 世尊は座り込んだリトの肩を抱いて支えたままデイを見上げて応えた。

 デイはしっかりと頷き、義軍を抱いたまま扉の先に足を踏み出す。


「デイ」


 扉を閉める寸前、佐太郎が真顔で告げた。


「恐らく妨害が行われるからよ。 お前さんは王子なんだから、ちゃんと――護れ」

「わかった」


 そう返事をしたデイの真っ直ぐな視線に佐太郎は優しく微笑み、扉を閉める。 佐太郎が札を外せばそこには何の変哲もない地面しか残らない。


「リト、立てるか? 肩を貸すぜ」


 世尊に促されてリトはヨロヨロと立ち上がる。 しかしどうも膝が震えて仕方がないのでそのまま世尊の腕にしがみついた。

 不味いな、という視線を来意から感じる。


「そんじゃ俺んちと繋げるぞ。 弓、アリド、お前らは台座の下に散らばった貢珠(みつぎだま)、拾ってこい。 あ、あと俺は両手が塞がるからライ、ラムールを――」


 佐太郎は言いながら言葉を止めた。 巳白が左翼の一部を左腕の代わりに使って、ラムールを抱き上げていた。 


「――」

「……佐太郎さん、どうかしましたか?」


 動きを止めてしまった佐太郎を不思議に思い巳白が声をかけると、我に返ったように佐太郎は顔をブルブルと軽く振った。


「や、何でもねぇ。 じゃあ、まあ、行くぞ」


 佐太郎が片膝をついて両手を地面にぎゅっと押し当てた瞬間、地面が土から岩場へと変化した。

 リトが周囲を見回すと、景色が二つ重なっている。 今いた森と、ヒカリゴケの輝く洞窟の通路と。


「ウーワァ!」

 デュマーが感嘆した声をあげた。


「早く行け」


 佐太郎の声とともに巳白達が進む。 ある一線を越えると彼らの姿は微妙に色彩の違う洞窟の通路と同じ明度に変化した。 それが佐太郎の家への空間に移動したことを示すのは明らかだった。

 アリドが、弓が、貢珠といわれた珠を手にして戻ってきて、自分と同じ色から佐太郎の家と同じ色に変わる。


「ほら行くぜ、リト」


 世尊が促す。 その足下をデュマーがじゃれるように身を寄せてから、ピョンと跳ねて先に色を変えた。


「ウワァ コレダト ソッチニハモウ モドレナイノカナァ」


 無邪気なデュマーの声がリトの足をすくませた。


「どうした! 世尊、リト、早くいかねぇか!」


 佐太郎に怒鳴られて、世尊が慌ててリトを引いて動く。 リトはよろけつつ前に進んだ。

 まるでとても薄いカーテンをくぐるような抵抗を感じた後は、目の前に開けたのは洞窟の中。 そう、佐太郎の家だ。 振り返ってみたが、先ほどまで重なっていた森の風景も、佐太郎の姿もどこにも無い。


「――おーい、お前ら、こっちに来い~!」


 不意に洞窟の奥から佐太郎の声が響いた。

 リト達は呼ばれるがまま前に進む。

 たどりついた先は正9角形の広間だった。 全員が入ってもまだ空間に余裕を感じられるくらい広いが、 壁も、天井も、床も全てが綺麗に削られた岩肌で、まるで――牢のようだ。

 広間の中央にはリトが一人、大の字になって横になっても余裕があるくらいの木製の円形テーブルがあり、正9角形の壁には全て同じ扉がついていた。

 はとリトは部屋を見回した。 今、リト達は広間の真ん中にいる。 そして全部の壁には扉がついて。

――私たち、今、どこから来たの?

 慌てて一つずつ扉を開けてみる。 その先は全て小さなベットが一つと洗面台がおいてあるだけの窓ひとつない、とても狭い、まるで仮眠室のような部屋があった。 


「おい、開けてくれ」


 いきなり扉の一つが佐太郎の声とともにドンドンと向こう側から叩かれた。 羽織が開けるとそこには通路が延び、椅子を3脚抱えた佐太郎が立っていた。

――えっ、そこ、今、部屋だったよねっ?

 リトは驚いたが羽織達は動じもせずに佐太郎から椅子を受け取る。


「何脚いるんだ? 5脚もあれば十分か?」


 そう言いながら佐太郎は広間に入ってきて扉を閉める。 リトは隙をうかがいその扉を開けるが、中は当然――先ほど見た仮眠室のような部屋だ。 通路ではない。


「ウォー サスガ レンキンジュツシ♪」


 幼子の声にも似たデュマーの呟きがリトの耳に届く。 足下を見ると愛嬌のある眼差しでこちらを見上げていた。


「ヤー♪ リト」

 熊のような手を軽く挙げて挨拶するさまはどこかコミカルで可愛らしい。


「私の名前を知ってるの?」

 リトは跪いてデュマーの顔をのぞき込んだ。 


「オイラハ アンナイニン ダカラ」

 にこっと笑い、身を翻したデュマーは急いで佐太郎の元へ行く。


「さってと」


 手をパンパンとはたいた佐太郎がみんなを見回す。


「アリド、弓。 貢珠を机の上に乗せろ。 えーと、巳白」

「はい」

「教育係を向こうの部屋に連れていって寝せろ。 顔も手も血だらけだから拭いて綺麗にしてやれ。 できるなら服の着替えも。 ベットの下にタオルや替えの服はあらぁ」


 リトが口を挟んだ。


「佐太郎さん! ラムールさまはお医者さんに見せたりしないで大丈夫なんですか?」

「平気だ。 今はただ、俺が保管していた教育係の眠り玉を壊したからその分が全部、体に戻ってきたから寝てるだけだ。 あれだけ溜めて濃い眠りの量だと、ま、普通なら10日は寝っぱなしだな」

「アーア ジャア メザメルマエニ オイラト オナジニ ナルノカァ」


 佐太郎は返事をせず、巳白を目で促す。 巳白は頷いて、一つの扉の前に行くと右翼の先を器用に使って扉を開けて中に消えていった。

 そしてその姿を、何故か佐太郎は不審そうにじっと見つめていた。


「ヲィヲィ レンキンジュツシ サッサト ハジメテ イーノカ?」

「ん? ああ、そうだな。 その前にだ。 えーと、何て言ったっけ、お前の名前」

「デュマー」

「ほぉー。 そりゃあ由緒正しい名前だな」

「フフン♪」


 デュマーに話しかけられた佐太郎はまるで新しい仲間を迎え入れるかのように気軽に話しかけた。


「じゃあ始めっか。 デュマー。 7人もの魂を担保にしたんだ。 かなり役にたつヒントを頼むぜ」

「イイトモ イイトモ」


 デュマーは尻尾を振りながら明るく返事をすると、ピョンとテーブルに飛び乗り、両手を後ろにまわしてから、一度コホンと咳払いする。 まるで白の館で、教師がちょっと胸を張りながらお得意のうんちくを述べる、そんな仕草によく似ていた。

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