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8-3 新世との対面~お母様からも伝言

 新世から褒められた世尊は嬉しそうに腕をまくりあげて立派な力こぶを見せる。


「やっぱ、新世さんはわかってるぜ! そう、俺、前よりもっと力持ちになったんだぜ! 腕一本だけの対決なら、アリドにだって負けねぇぜ!」


 自信満々の彼を見て、アリドが「言ってらぁ」と軽く笑う。


「それと、俺! ちゃんと義軍のお兄ちゃんとして、可愛がってるぜ! な! 義軍! おいで!!」

「うん、お兄ちゃんはすっごく優しいんだよ!」


 義軍は新世から少し離れて世尊に抱きついた。


「おー! お利口だなぁ! 義軍はっ!」


 ハイテンションに義軍の頭を撫でたあと、世尊は戸惑いがちに新世に近寄り言葉を探した。


「あの、新世さん。 一夢さんは……?」


 世尊がやっとのことで絞り出したその言葉に新世は優しく頷く。


「元気にしているわ。フフ。 元気、って言うのも死んでるから変ね。 みんなに会いたがってたけど、今日は人間の魂には日が悪くて来られなかったの。 ごめんなさい」

「い、いや!! 俺が言いたいのはそうじゃないぜ。 その、一夢さんが死んだのってもしかして……」


 世尊が何か言おうとする頬に、新世はそっと手をやり撫でる。


「世尊には関係ないのよ」

「でもあのとき、国連軍の奴らが来たぜ!?」

「それでも。 世尊が不安に思う必要はないの。 ……一夢は一夢だったから、死んだの。 そして私も。 一夢が死ぬから、死んだの。 彼を愛していたし、貴方達のことも大事だったから。 このあたりの事情については、もうあなた達も大きくなったのだから、知りたかったら佐太郎にたずねてみて?」


 新世はニコリと微笑んで、次に清流に視線を向けた。

 清流の肩がピクリと動く。


「母さん」


 その言葉を嬉しそうにかみしめるように、新世は優しく見つめた。


「か、母さん……。 あの」


 清流は見るからに戸惑っていた。


「僕、あの」


 その態度は、先ほどのリトによく似ていた。 


「儀式のことで頭いっぱいで……」

「ええ。 分かってるわ。 立派よ。 清流。 完璧に儀式は行えてたわ」

「本当!?」


 清流の顔が明るく輝く。 リトにはそれが少し意外だった。 清流のことだ、儀式なんて出来て当然、という態度だろうと思ったからだ。 しかし今の清流は違う。 どこにも肩肘はったところがなく素直に褒められたことを喜んでいる。 まるで幼い子供が親に褒められた時のように――。

――新世さんって、本当にお母さんがわりなんだ……

 ちょっと感動しながら、そのまま二人のやりとりを見つめる。


「母さん、僕ね、緑螺旋が使えるようになったんだ。 それに、ええっと、翼も返って来た。 王の証は僕が持っていていいのかな?」

「フフ。 清流。 落ち着いて。 ――そうね、王の証は本当はあのままにしておきたかったのだけど。 貴方達を助けることもできるでしょうから持っていて良いわ。 ジョルジュやボーンに預ける必要はないわよ」

「うん」

「翼も戻ってきて、本当に良かったわね」

「うん。 おかげで翼族界にいられたし。 ええっと、それと、それに……えっと」


 清流は胸がいっぱいになったみたいで、気持ちばかりが先に立って上手く言葉がでてこない。

 新世は清流を落ち着かせるようにゆっくりと口を開いた。


「お父様の遺品、とても良い品だったわね」


 それはリトがトシ達から預かって巳白に渡したものだ。 


「貴方はお父様の能力がとても強く出ているから、お父様のノートにの書かれた内容はとても役にたつはずよ。 ただ、よく分からない言葉もあると思うけど、そんな時は佐太郎から専用辞典を借りるといいわ。 私もよくわからない翼族界の単語はそれで調べたの」

「ああ! 佐太郎さんから! そうか、それは気づかなかったよ。 ありがとう母さん」

「もうひとつ」


 新世は一呼吸おいて、ちょっとだけオイタを叱るかのような表情で清流を見た。


「お母様からも伝言があります」


 清流が息を呑む。 お母様、それは勿論、産みの母だ。


「女の子にはもうちょっとだけ、やさしく言いなさーいっ! ……っておっしゃってたわよ」 

「ええ~?!」


 少しだけ不満そうに清流が声をあげたので新世はコロコロと楽しそうに笑った。


「でも、女の子を綺麗にする技は本当に凄いって。 お母様として自慢できるそうよ」

「本当? 嬉しい! 僕、もっと特別になれるよう頑張りますって言ってくれる?」


 目を輝かせながら身をのりだした清流の頬に少しだけ何か言いたげな新世の手がそっと寄り添い、小さく微笑んでから新世の視線が――来意に向いた。


「来意」


 自分の順番がきたことを少し戸惑いながらも嬉しそうに来意が一歩、近づいた。 おかっぱの髪がサラリと揺れる。


「相変わらず綺麗に切りそろえているのね」

「こうしてると楽なんだ」


 来意は栗色の髪をちょっとつまんで扇子のように広げて見つめた。


「新世さん。 こんなふうに乱れが無いと、何でも上手くいきそうな気がしない?」

「そうあって欲しいものね」


 新世はゆっくりと頷く。


「あまり、占いや勘に頼りすぎると気疲れするわ。 来意は来意が思うがままに行動なさい」

「気疲れ、か。ちょっと分かるかも。 でも、それでいいのかな?」

「大丈夫。 本当にあなたの勘は素晴らしいものよ」 

「そうかな」

「そうよ。 きっとみんなの道標になることだってできるわ」

「そうありたいな」

「どんな結果がまちうけていようと、私と一夢が責任は負うから安心して勘を働かせなさいね」


 責任、という言葉を聞いた来意が緊張の糸が切れたように口元に軽く笑みを浮かべた。


「そうする」


 はにかむように微笑んで来意は脇に視線を向け、新世もその視線を追いかけた。


「ゆーみ♪」

「新世さん!」


 弓は足下に置いていた紙袋を胸に抱えて小走りに駆け寄る。


「私」


 新世の前まで来ると弓は目にいっぱいの涙をためた。


「私、会いたかった」


 声に出すと、涙が頬をぼろぼろと伝って落ちた。


「すごく、会いたかった」


 そう言うと思わず弓は胸に抱えた小袋に顔をうずめてぎゅっと抱きしめた。


「会えて、嬉しい」


 涙声で告げる弓に新世はそっと両手を伸ばして抱きしめた。

  





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