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7-7 儀式開始


 天気は晴れ。

 微風の昼下がり。

 

 少年達とラムールの関係が少しずつ近づいているのをリトが感じているうちに、あっという間に新世の復活の儀式の日はやってきた。

 儀式の場所は陽炎の館の裏の森にある訓練場。 前にアリドから岩石を投げつけられた場所である。


「それでは始めましょうか。 まず私が立体魔法陣を描き終わるまで待っていて下さい」 


 平らにならされた場所にラムールが変化鳥と猫鳥と巳白の羽を瞬間冷却させて粉にしたというものを使って指先で魔法陣を書いていく。


「デイ、その間にみんなの睫毛を三本ずつ集めてくれますか?」

「はーい♪」


 デイはあらかじめ渡されていたのであろう、小瓶を手にして少年達の睫毛回収を始めた。

 睫毛。

 これが簡単に抜けそうで抜けない。 弓と羽織はお互いに抜きっこだ。


「はい、りーちゃん。 3本入れて」


 デイがやってきて促した。


「いっ……たぁ。 んもー、どうして睫毛なの?」

「ん。 髪じゃ長いし、デンジャラスな毛じゃ触れたくないしって言ってたよ」

「……」


 言葉を失いながらリトは3本の睫毛を入れる。


「リトちゃんの睫毛ってあんまり長くないよね」

 そこに清流がやってきてキラキラ光る長い睫毛を入れる。

「清流のが長すぎだぜ。 見ろ、このベストな色合いと長さの義軍の睫毛を」


 世尊達もやってくる。 巳白達も次々に入れる。


「ほらアリド。 お前もさっさと入れろよ」


 巳白がふると、アリドは何故か気乗りしない風に近づいてきた。


「これってさぁ、佐太郎のおっちゃん」


「ん?」

 もの凄く図太い睫毛を3本入れて、佐太郎が顔を上げた。


「入れなかったらどーなんの?」

「そりゃお前、新世に会えねーだろ」

「……だよなぁ」


 それでも躊躇しながらアリドは睫毛を抜いて入れる。


「あれ?」

「どうしたアリド」

「なんか銀色っぽい糸みてーなのも入ってねぇ?」

「光の加減だろ」


 佐太郎があっさりと告げる。 まさかライマの睫毛だとは言えない。


「そんなことよりアリド、ちゃんと新世に会ったときに何を言うか決めたか?」

「んー。 やっぱり駄目か? 巳白」

「駄目に決まってんだろ」


 アリドは何故か巳白に助けを求め、巳白が却下する。


「デイも何言うかは決めたか?」

「んーん。 俺は話せなくてもいいからあんまり考えなかった。 せんせー達が少しでも多く話せた方がいいっしょ?」


――おおっ! デイ、私と一緒!!

 リトは心で大きく頷いた。 リトもみんなの最後についででいいから話せればと思ったので、ぶっちゃけ助けて貰った挨拶しか考えていない。


「ラムールさんは何て言うつもりなのか知ってる?」


 探るように清流が尋ねた。

 しかし答えたのは、他ならぬラムールだった。


「私は――新世に会えて嬉しい、と。 新世のことが大好きだと。 それだけ伝えるつもりです」


 一斉にそのラムールの方を向く。 ラムールの指先が空中に線を描き、それが魔法陣の一部として、まるで空中を漂う煙のように残る。 普通は地面に描くだけの平面の絨毯のような魔法陣が、今日ばかりは器のように凹凸がついていく。

 魔法陣を描く指をとめてラムールがみんなの視線を受け止める。


「私はそれで満足ですから、貴方達は時間の限り話していいですよ」


 にこりと微笑むその姿に嘘はなく。

 佐太郎だけが納得いかない顔で軽く唇を尖らせた。

 その佐太郎の睨みすら浄化するように微笑みで返して、ラムールは再び立体魔法陣作りに作業を戻す。


「♪」


 魔法陣を描く指が踊っている。

 まるで空中のキャンバスに絵を描くように。

 思わずリトは数秒の間、みとれてしまう。


「……っと、やば。 見とれてた」


 小さな巳白の呟きでリトも我に返る。 佐太郎もいきなり動き出したところを見ると彼も見とれていたのだろう。


「清流、準備は?」


 首をのばして振り返ると、そこには少し緊張した面持ちの清流が白く長いマントのような詰め襟の上着に袖を通して、頭には烏帽子というらしい細長い縦型の筒のような黒い帽子を載せ、首には紫色をして、五重に重なった円盤状の首飾りをつけているところだった。


「平気。 もう用意は終わるよ、兄さん」


 たっぷり広めの裾を綺麗に整えながら清流は静かに深呼吸をする。

 そして袂からそっと「王の証」を取り出した。 

 清流の手のひらにすっぽり収まるくらいの大きさの緑がかった薄い円盤状の石。

 それは翡翠によく似ていたが、時折、呼吸をしているかのように色を濃くしたり薄くしたりしている。 表面は陽炎が立ち上るかのようにゆらゆらと空気を金色に染めていた。


「きれい」


 リトは思わずつぶやき、一歩近づこうかとしたが、清流が目で制した。


「リトちゃん、寄らない方がいいよ。 もの凄くパワーのある石だから。 今、……怖いくらいに熱いんだ」


 真剣なその口調に、リトは動きを止める。 同時にラムールの手が指揮を終えるかのごとく拳を握り振り上げた。


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