7-5 団欒。過去のお話~お尻ぺんぺん
「一夢さんって言えば、俺ね、最初に会ったときに、せんせーが小さい頃は悪戯ばっかりするんでお尻ペンペンしてたって聞いたけど、ホント?」
楽しげな会話にデイも身を乗り出した。
「おーっ! それ、俺も聞いたの覚えてる! なんだかんだ言って詳しく聞けてねーけど、マジ? ラムールさん」
アリドも反応したが、ラムールはちょっと困った顔をした。
「……うーむ……」
「うわ、ずっりぃ。 俺、質問に答えたじゃん」
アリドが続けて言うものだから、ラムールも観念したとばかりにため息をついた。
「まぁ、本当です」
「うわホントにマジなんだ?! オヤジ、すっげー!」
「ええ? せんせ、せんせー、どんな悪戯してたのっ?」
「いえね、私のは悪戯というか――」
ラムールがちらりと佐太郎に視線を向ける。 佐太郎は笑いながら代わりに答える。
「どっちかっつーと、仕返し、だろ?」
少しバツが悪そうにラムールは頷いた。
「俺も最初、新世を襲おうとしてた頃にゃ、よく仕掛けられてたなー。 落とし穴、踏み板式罠、軽く火薬で爆発したり。 巨大ハンマーが襲いかかってきたこともあったっけ。 俺は最初、爺さんの仕掛けた罠かと思ってた」
「それは佐太郎が新世の命をダイレクトに狙ってくるから! 基本的に新世に嫌がらせした人達にしかやり返してません。 ……褒められたことじゃないですけどね」
「それでばれて、一夢から度々お尻ペンペンされてたんだよな?」
「正解」
椅子の背もたれにもたれながら渋々ラムールは認めた。
「ばれないようにやってたんですけどねぇ」
「アホ。 ライ……ラムールの仕業って、俺達にはバレバレだったぞ? 何しろ、証拠が無いんだからな」
「証拠が無いのが証拠って、不可思議といいますか」
「誰がやったか分からないのに、きちんと一夢と新世には被害がいかねーよーに罠を仕掛けられてりゃ分かるって。 俺がかかった罠も全部体重トラップがあって、俺しか落ちねぇピンポイントな造りになってたろーが。 あんまり精巧すぎて爺さんの仕業じゃねぇって気づくわ。 まさか5つになるかならないかのガキがやったとは盲点だったけどよ」
――5才? 5才って、ラムールさまが5才っ??
リト達の驚きを余所に、ラムール達は話をすすめる。
「今考えたら、新世に嫌がらせした人にだけ災いが降りかかるものだから、逆に新世に関わると不幸を招くって思われてしまいましたし。 あれは、やってはいけないことでしたね」
「せ、せんせー。 それで、一夢さんにペンペンされたから止めたの?」
「いいえまさか。 あの頃の私はまだ考えも浅かったからね、止めようなんて気はさらさら」
「じゃあなぜ止めたの?」
「――新世が悲しむんですよ。 災いに遭うのは自分に酷いことをした相手だっていうのに、ものすごく心を痛めるんです。 自分を責めるんです」
ラムールは幼い頃に新世に尋ねた台詞を思い出した。
【どうしてあんな奴らの心配するの?! ざまぁみろって思えばいいのに!】
新世の瞳がとても悲しそうに輝いた。
【ライマ、私ね、怒りを怒りで返すのは苦手なの。 もしできることならば私に向けられた怒りも悲しみもすべて胸の中にひっそりとしまって、静かに落ち着かせることができるなら、その方がいいの。 その方が、本当に私にとっては楽なのよ? なのに一夢やライマを惑わせてしまう……。 ごめんなさい……】
そのときライマは気づいたのだ。 新世のためにライマが人を傷つけることを彼女は嘆いていることに。 意地悪する相手を恨むのではなく、ライマがそのような行動に出る原因になった根本、つまりは新世自身の存在を申し訳なく思っていることに。
【新世が嫌がるならもうしない】
ライマは告げた。
【ねぇ新世? 新世はボクにすごく優しいけど、もしかしたらこんなことをしたボクの事を嫌いになってて、それを隠してる?】
だって新世は優しいから、どんなにライマが嫌いでもそれを態度には表さないはずだから。
しかし、新世の答えは違った。 優しく微笑み、そっとライマを抱き寄せた。
【いいえ。 たとえあなたがどんなことをしても、どんな子でも、大好きよ】
大好きよ、のフレーズが幼いライマの心に染みこんでいく。
【ボクも大好きだよ、新世。 もう仕返しはしないけど、新世や一夢が悲しまないで済むようにボク、頑張るから……】
新世にぎゅうっと両手を回して抱きついた。




