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7-4 団欒。過去のお話~一夢さんと新世さん

「そ、そーいえばだ、ライ……ラムール? 新世が来るってことは、一の字はどうなんだ?」

 佐太郎が話のついでを装って尋ねた。


――あ、佐太郎さん、探ってる。

 リトはできるだけポーカーフェイスを装いながらラムールの顔を見つめた。 佐太郎はリトに話したことがある。 とても強かった一夢が死んだとは信じられないと。 だから新世の仇を討つために死んだふりをして身を隠しているのではないかと思いたい、ということを。

 もし彼が生きているなら、必ず新世の魂に会いに来るはずだから。

 しかしラムールの返事はつれなかった。 魂でも構わないから一夢に会いたいと期待する少年達の眼差しを受け止めてから、首を横に振った。


「私としても一夢とは会いたいのですが……。 最初に説明した通り、新世専用の儀式ですから。 彼女の翼族としての魂にしか呼びかけは届きません。 新世の魂の側には一夢が絶対張り付いていると思うのですけれど、私たちと波長を合わせるすべを持たないはずですから会えないでしょう」

「は、張り付いてるって……」


 佐太郎が笑った。


「そりゃ、ありえるなぁ」

 

 それは少し寂しそうで、やっぱり一夢は死んでいるのかと残念がっているようにも思えた。


「生まれてから、死ぬまで。 そして、死んでからも一緒。 一夢と新世には――お似合いだな」

「ええ。 多少、うらやましくもありますが……」


 ラムールも少し寂しそうに笑う。


「あのー」

 リトが思わず口を開いた。


「一夢さんと新世さんって、そんなに仲が良かったんですか?」


 過去の記憶で多少見たから想像はつくが。


『ものすごく!!』


 ラムールや佐太郎のみならず、少年達、誰一人欠けることなく口を揃えて答える。


「老師が言っていましたよ。 一夢は新世の卵を抱き枕がわりに抱きついて温めてたって。 卵さえ与えていたら一夢は泣きもせずに良い子だったから助かったぞい、って」

「あの爺さんの育て方はネグレクト入ってるからなぁ~」

「新世達が学校に行き出すまでは、主な食事は【喜びの新芽】だったって言ってましたね」

「言ってた言ってた。 学校に行って初めて食べ物の種類が沢山あるんだって知ったって一の字の奴言ってたなぁ」

「そうそう! 私も生後しばらくは老師から神の樹の樹液を飲まされていましたし」


――をいをい。 

 盛り上がるラムール達をよそにリト達は冷や汗をかく。


「ぶ……無事に育って良かったですね」

「あはは」


 ラムールは軽やかに笑う。


「新世じゃなかったら、きっとまた私は捨てられていたかもしれません。 老師ったら、私が初めて語りかけたとき、すっごく酷い顔しましたから」

「ライ……、ラムール、お前さん、もしかして根に持ってるのか?」

「多少。 ……気持ちは分かりますけどね、今では」


 ラムールは少し意味ありげにリト達を見回した。


「私はね、母の胎内にいるときから記憶があるのですが。 生まれた直後から普通に大人と会話ができたんです」


――はっ?

 いきなりの台詞の意味を理解できずにリト達は目を何度かぱちぱちさせてラムールを見た。  


「そうそう、老師もそんな感じ」


 にっこりとラムールは微笑む。


「新世だけ。 すっごく嬉しそうに微笑んでくれました。 あなた、お話できるのね?って。 ……嬉しかったなぁ……」

「ラムールさん! それ、オレも分かる!」


 アリドが身を乗り出した。

「腕が6本あるのね、って。 上手く説明できねーけど、すっげぇ素直に受け入れてくれた。 感心したり不思議に思ったりした感じがなくて」


「僕も分かる」

 来意が軽く手を上げた。


「勘が良いのね、って。 たいていの人は僕が出した予言がすぐ当たったらギョッとしていたのに」

「ふふ。 その時の新世の口調が目に見えるようです。 彼女は大丈夫、見捨てたり、拒絶したりしないと心の底から信じることができました」


 柔らかな笑顔で新世のことを語るラムールを巳白が嬉しそうにみつめながら口を開いた。


「俺も。 母さんがいなかったら、きっと清流以外の人を信用なんかできなかった。 特に――アリドと仲良くなれたのは、やっぱり母さんのおかげだよ――な?」

「だなぁ。 俺らが最初に意気投合したのって、隣村のボンクラ兄弟が、新世さんのことを馬鹿にした時だよな」

「それ、ぼくも覚えてるよ兄さん。 学校に来た母さんに向かってあいつらが酷いこと言った時でしょ。 母さんが不幸を呼び寄せるとか何とか」

「そう。 すごく頭に来て、アリドと一緒に奴らに言い返したっけ。 新世さんは俺らに幸せをくれる大事な人だ、馬鹿にすんなって」

「で、ボンクラ兄弟と殴り合いになって」

「なぜか一夢さんまで周りの大人と殴り合いの喧嘩になってて!」

「そーそー! 教室のでっかい柱をオヤジが叩き折っちゃったから、学校が崩れ落ちて!!」

『あったあった~!!』


 弓と羽織、清流と来意が声を揃えて頷く。

――おいおい。

 その時にそこにいなかったリト達が軽く冷や汗を流す。 佐太郎は一の字らしいと腹を抱えて笑った。


「一夢さん、母さんのこととなると俺たち以上に切れてたよな」

「新世さんが翼族界に帰ったときも、オヤジは誰よりも落ち込んでたしな!!」


 巳白とアリドが盛り上がっていると、ラムールが尋ねた。


「巳白、アリド。 前々から聞いてみたかったのですが、どうして巳白は母さんと一夢さん、で、アリドは新世さんとオヤジなのですか?」


 まず巳白が口を開く。


「俺が母さんをそう呼び始めたのは、母さんが子供が出来ないって陰口たたかれて、一人で凹んでたから……清流と二人で、ぼくらはハーフだから、人間と翼族の間の子供になれるけど駄目ですか?って言いました。 実際、母さんは翼族の長だから血の頂点に立っているでしょう? 僕らの体の中にある血は母さんの体の中に必ずあるわけだから」

「血の頂点?」


 リトが首をかしげたので清流が軽く身を乗り出す。


「リトちゃん。 血の頂点ってのは、原点って言えば分かるかな? 翼族の長は翼族の中で唯一すべての能力を持っている存在なんだ。 母さんの血の存在が1で、他の翼族の血は良くて何千分の1なんだよ。 つまり翼族の血をひいていればその原点は必ず母さんに通じてるってこと」

「ああ! だから巳白さんと清流くんは新世さんと血が繋がっているってことなのね?」

「そうそう。 リトちゃんにしては理解が早いじゃない」


 満足そうに清流が頷いたので巳白達が苦笑する。


「それで、アリドの場合は?」

「俺? 俺が一夢さんをオヤジって呼び始めたのは――義軍、おめーのせい♪」

「えっ。 ぼく?」


 いきなり自分に火の粉が飛んで義軍がうろたえた。


「そそ。 おめーがこの陽炎の館に来て、新世さんのことをしんせおかーさん、って呼ぶようになったよな? 一夢さんのことは?」

「いちむさん」

「だよなー? 実はさぁ」


 アリドは笑いを堪えながらみんなを見回す。


「オヤジなぁ、実は! みんなからお父さんって呼ばれてみたかったらしーんだ」

「はっ?」

「一夢が?」

「ありえないっ」


 それぞれがあまりに驚いたので、アリドはとても楽しそうにケラケラと笑う。


「いやそれがマジで。 新世さんが母さんって呼ばれるのがすっげー羨ましかったみてーなんだけど。 ほら、巳白達のはお前らからの提案だろ? まさか自分から呼べとも言えねーで」

「あ、ああ……」

「しかも剣とか武術とかをさ、俺ら教えてもらってた訳じゃん? 師様と呼んだ事はあってもお父さんなんて誰も呼ばなかったよな? って訳でまあ仕方ないかと思ってたらしーんだけど、義軍が来たとき今度こそ俺もお父さんの称号ゲットだとワクワクしてたらしーんだ、これが」

「だって、いちむさんって、おとーさんって感じじゃないもん」


 義軍が拗ねたようにふくれたので、世尊が慌てて後ろから抱きしめて頭を撫で撫でする。


「義軍は悪くないぜ! お兄ちゃんだって一夢さんのこと、お父さんなんて感じしなかったし」

「アホ。 悪いとかゆー話しじゃねーの。 とにかくオヤジはワクワクしたもののお父さんって呼んでもらうキッカケさえ掴めずにしょげてたらしー」

「らしー、ってことは?」

「そ。 新世さんがな、俺に頼んだの。 お父さんって呼んでみてくれないかって。 俺さ、山賊にいたじゃん? 親分のことをオヤジっても呼ぶんだわ。 そーゆー点では陽炎の館での親分は一夢さんな訳だから、気持ち的に言いやすくもあったし。 で、お父さんはこっ恥ずかしくて無理だけど、オヤジならっつーこって」


 椅子に座り直して続きを聞きたさそうにラムールが前のめりになる。

「で? オヤジと呼ばれた一夢は?」


 アリドは鼻をかきながら微笑む。

「超喜んだ! 新世さんに頼まれたからしゃーねーなぁって思って、【おい、オヤジ】って呼んだら、目ぇキラキラさせて、【お前って、お前って! なんてかわいいんだ!】とかのたまいながら、まぁ抱きつくわ頬ずりするわ!」

「うっわー」


 ラムールがまるで幼い子のように声をあげたので、思わずみなが注目し、ラムールは慌てて一つ咳払いをした。


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